表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
終章 神話世界のワールド・エンド
112/122

ゲーム・オーバー・ワールドエンド③

 同行の申し出も断り、男3人で遺跡に向かった。前回来た時、()王都付近に転移門を設置しておいたので、移動は簡単に終わる。

 この遺跡に来ると俺たちが召喚された建物に目が行ってしまうけど、ちゃんと他にも建物がある。今回の目的地はそっちの方だ。


 塔のようなひときわ背の高い建物の中に入り、階段を上る。

 高さは大体10mぐらい。日本の建物で言うなら3~4階建ての高さだ。屋上までの距離はそんなにない。


「それにしても……ここにはゴブリンも、人もいなかったんだな」

「ああ。不自然なぐらいに、な」


 ゴブリンがあふれかえった王都の街並み。それを思い出し、この場に感じる違和感を口にする。

 古藤の方も同じことを考えていたようで、さっきのは独り言のようにつぶやいた言葉だったが、すぐに返事が来た。


「王都に溢れかえるほどいたゴブリンが、こっちに来なかったはずがない。ゴブリンがいないエリアに、人が避難しないはずがない。

 それなのにここには人やゴブリンがいないし、死体の一つも無かった。ここにいない事はまだ分かるけど、死体の一つも無いのは何でだ?」

「どっちも、ここに来れなかった。そういう事だろうな」


 普通に考えたら、ここには神に縋った人が集まるだろう。

 たとえ神を信用していない者が居ても全員がそうだとはとても思えず、助けを求めた人が誰もいないというのは不自然だ。


「どんな意図があるかは分からない。でも、そこに意図があるのは分かる。そういう事だな、心友」

「ああ。その通りだ」


 やっぱりここには何かがあり、その何かによって守られているのは確定事項。

 モンスターがポップしないというのは王都の方も同じ条件だろうけど、王都は攻め滅ぼされてここは無事。直線距離で10㎞しか離れていないことを考えれば、違和感しかないのは当然だ。それに、王都には頑丈な壁があって、ここにはしょぼい壁しかない。人口密度とどっちが攻め易いかも考慮すれば、食事の方はともかく寝床程度に使っても不思議は無いのに、だ。





 いつまでも当たり前のことをしゃべり続けるわけにもいかず、屋上に出たことで一旦会話が途切れた。

 ここで『魔力の杯』を使えば神界への道が開かれるというけど。


「これでいいのか、三加村、古藤?」

「ああ、それでいいはずだ。この遺跡自体が一種の魔法陣らしくてな、追加で何かする必要はないらしい」


 ふと、なんでそんなに詳しく書いてある文献が残っていたのか気になったけど、その疑問を押し潰して言われたとおり準備をする。

 塔には祭壇があり、「いかにも」な場所があったので、そこに魔力の杯を設置した。


 魔力の杯から、祭壇を中心に魔力が溢れだす。

 溢れ出た魔力は光の線となり、魔法陣の形へ変わり、遺跡全体を使って大きな絵を描いていく。


「派手なエフェクトだな」

「お、だんだん地面が見えなくなっていないか?」


 魔法陣が完成すると、光はどんどん強さを増し、地面を覆い隠す。

 そして、地面が見えなくなると同時に周囲の風景が切り替わった。



「こりゃあ……宇宙か」

「下にも星が見えるし、それっぽいな」

「空気があるから、それらしくみせているだけって気もするけど」


 俺たちが連れてこられたのは、まるで宇宙空間のような場所だった。

 塔の先端部分だけが健在で、辺りは闇に包まれている。それでいて俺たちの周囲は明るく、足元に影があるという訳のわからなさ。太陽は無く、星明りでこんな明るさを得られるとは思えず、ここが物理法則をいくつか無視した場所であることを意識させられた。


 ……冷静さを少し失っているようだ。

 もう少し観察を続ける。


「周囲に人影はない。足場があって、重力があって。暗くも無く、眩しくも無い。ははっ、物理の先生はこの空間をどうやって説明するんだろうな?」

「「物理法則の及ばない空間です」って言うんじゃないの? 固定概念に囚われてたら、足元救われるぜ」

「≪フルバースト・マジック≫」


 三加村と古藤、2人の状況説明をBGMに、俺は俺で検証を行う。

 とりあえず正面に使ってみた≪フルバースト・マジック≫だが、視認できる範囲で障害物が無かったらしく、そのまま虚空の彼方に消えて行った。


「≪イクスプロ―ジョン≫」


 今度は爆炎の魔法。けっこう近くで爆発させてみた。

 轟音が響き渡り、大気を震わす。

 ……空気があるっていうのは間違いなさそうだ。振動が伝わるって、そういう事だし。俺たちの会話が空気を媒介にした、地上と同じものという事が証明されたな。


「うるせぇ!」

「いきなり何やってんだ心友!?」

「すまん。ちょっと検証してみただけだ」

「せめて一言言ってからやれよ!?」


 この謎空間に対し、俺は冷静さを失っている。どうにも、ここがどんなところか分からない事で不安になっているらしい。

 敵対予定の相手と事を構えるのに、この状況が不味いと思ってしまっている証拠だろう。


 2人には状況が掴みきれず不安である事を話した。

 3人で考え検証した方がいいだろうと、魔法やスキルの効果をいくつか試してみる。

 その全てが無事使える事を確認して、俺はようやく冷静さを少し取り戻す。



「あとはさ――」


 ただ、根本的な問題が一つ残っている。


「――神様ってのは、どこにいるんだ?」


 この場には、俺たち以外誰もいないという問題が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ