クロスオーバー・ゲームズ③
ゴブリンの相手と言うのは、戦いでは無く作業でしかない。
規模によっては時間がかかるという問題があるけど、戦闘と言えるレベルの行為は発生しない。
それはたとえ王と呼ばれるゴブリンであろうと変わらなかった。
テンペスト・ドラゴンのブレスが廃王都を焼き滅ぼす。テンペストの名が示す属性は風。風属性の攻撃手段の一つ、雷のブレスは広範囲をまとめて攻撃するのに、とても優秀だった。
目を焼く一瞬の閃光、続いて届く轟音、その跡地に広がる廃墟。最強の幻獣種たるドラゴンに相応しい威力だった。
その光景を見ながら、俺は俺で門に群がり逃げようとするゴブリンを魔法で吹き飛ばしていた。
いつも通りの≪フルバースト・マジック≫だ。威力、出の早さ、攻撃範囲の広さと他の追随を許さない、俺が最も多用する最強魔法である。
そこにひねりは無い。やっぱり基本こそ最強と言う事だろう。
「おお、さすがドラゴン。捗るな」
廃王都は大小数多くの門があるけど、特に大きいのは東西南北にある4か所だけ。
その4つの門だけを俺達は塞いでいる。
で、テンペスト・ドラゴンは遊撃に出して暴れてもらい、寄って来たゴブリンを殲滅するだけの、簡単なお仕事です。
大きな門という事は、そこに至る道もまた、大きい。そして遠くからでも見えるから、大きな門は目指すのにちょうどいい。
だからとにかくこの門を目指そうというゴブリンが多いのだ。
俺に気が付いたところで、守り手の数が少なければ物量で圧し切ろうと馬鹿みたいに近寄ってくれるのでまとめて吹きとばせる。
パニックになってしまえば正常な思考なんてできない。
背後から迫りくる恐怖と目の前の脅威で言えば、思わず前に出るのが生物の本能だ。
ついでに、俺達がただの人間に見えるのも襲い掛かってくる理由の一つだろうね。後ろのドラゴンよりは弱そうに見えるし。
ま、結局死ぬんだけど。この門を目指した段階で死ぬのが確定したわけだな。
だから諦めろ。
害獣は駆除される宿命なんだよ。
「お疲れー」
「お疲れー」
殲滅に使ったのは、おおよそ2時間。それで向かってくるゴブリンはいなくなった。
まだ見えない所に隠れて息を潜めているゴブリンもいるだろうけど、わざわざ探し出してまで殺そうとは思わない。時間がかかりすぎるからな。
全滅させたわけじゃないけど、それでも廃王都にいたゴブリンの8割は殲滅できたと思う。
≪フルバースト・マジック≫は魔力による爆発で相手を吹き飛ばすけど、途中で何度か死体を焼却処分しないと山になって道を塞ぐほど殺したからな。
俺としては一仕事終えた満足感があるけど、他の連中はそうはいかない。
この場にいる残りの7人は全員王都にいた事のあるメンバーだった。つまり彼らはここに見知った誰かがいて、その誰かとは友人であったりしたわけだ。
ここは一月ほど滞在した場所であり、ほとんどのクラスメイトが悪い扱いでは無かった事を考えると、その胸の内は俺が何か言えるような事など無いだろう。
「四方堂、アンデッドは発生すると思うか?」
「どうだろう? たぶん、すると思うけど。自然発生したアンデッドを見たことが無いから、確証は無いけどな」
「そうか……。なぁ、出来れば、街や城を焼き払っておかないか? もう、彼らが迷い出ないようにしたいんだ」
「俺もそれに賛成だ、心友。アンデッドになってまでここを彷徨うようじゃ浮かばれないし、そんなのは見たくない。それにほら、疫病の問題もあるだろ? 人もゴブリンも、死体は焼いた方が良いって」
しばらく廃王都の中を外壁の上から眺めていたが、古藤が俺に廃王都を焼くように申し出てきた。アンデッド発生を警戒しているように言っているが、本命は弔い、荼毘に付すのが目的だろう。
三加村もそれに賛成し、他の連中も「やろう」と言い出す。
メリットとデメリットを比較してみる。
やるメリットは、死体を処分できる事。やらずにいれば疫病が発生することは想像に難くない。異世界はもうすぐ夏本番なので、死体がすぐに腐って病原菌の温床となり、生き残ったゴブリンを感染源に爆発的に広がる可能性もある。
デメリットは……特にないか? 強いて言えば建物を再利用できなくなることを思いつくけど、そもそも死の都と化した後で再利用なんて考えないよな?
「よし! じゃあ、やろう!!」
「「「応!!!!」」」
そうと決まってしまえば、やる事は簡単だ。
風上から火の魔法を連射するだけである。
俺と古藤以外はMP消費の問題があるように見えるけど、スキルの中にはMP回復をノーコストでできるものもある。だから何も問題ない。
こうして俺たちの手により廃王都は灰王都に生まれ変わり、生き残っていたであろうゴブリンもまた、灰になったのである。
こっそりと、帰る前に適当な死体をレベル99のアンデッドにしたうえでゴブリン殲滅を命じたのは余禄である。
アンデッドとはいえ日の下も弱体化することなく動けるし、疲れないし死んでも8割の確率で蘇る復活系スキルを持っているので、こういった作業には最適なのだ。
バレたら怒られるけど、必要悪と言う事で割り切っていこう。




