ゲームを成り立たせる理不尽
「広域殲滅! 共鳴魔法≪オメガフレア≫を使うぞ!」
「了解!」
異世界というのは、なかなか複雑だ。
地球の様に、ただ存在し、あるがままではないという点において。
異物である俺たち地球人にギフトを付与して迎え入れる穴の大きさ、地球人の想像力(?)によって在り様を変えモンスターすら生み出す脆弱さ、何よりも不変にして無限の力なんてモノを許容するいい加減さは馬鹿じゃないかと言いたくなる。
なんで他の世界から人間を召喚できるんだよとか、なんで個人の妄想力で世界なんて大規模な物が変質するんだよとか、減らないMPはどこから引っ張っているんだとか、ツッコミどころがありすぎて思考放棄したくなった。
あと、なんで地球でチート付きギフトが通用するんだろうと考えたわけだが、結論など出るはずも無かった。
それでも発生する問題、具体的にはモンスター関係だが、特に危険なモノについては早々に処理してきた。
逆の言い方をすれば、「危険とは思えないモンスターを放置していた」わけで。
その危険度判定が戦闘能力によるものだったわけで。
ゴブリンの繁殖力を舐めていました、マジで。
「ノーム! 防壁を!」
「はいなぁ、お任せ下され」
通常、生物としての強度と生殖能力・繁殖能力は比例する。
何が言いたいかというと、「弱い奴ほどすぐ増える」という事で、「弱いゴブリンは爆発的に増える」という事でもある。
この世界で確認されたゴブリンはよくある最弱種で、緑色の肌をしていて、人間の子供程度の背丈とそれに比例した身体能力しかなく、自然界において弱い方に位置する人間よりも雑魚な生き物だ。
いくつかのファンタジー設定において、ゴブリンは妊娠から出産までの期間がおよそ2ヶ月、一度に5~10匹産まれるという。
生存に十分な食料があればその場で増えて、増えすぎれば同族喰いもあるが、基本的に他所へと流れ込む。
数が増えれば上位種が生まれ、さらに時間が経つと「王」が生まれて一大勢力になるという。王が生まれれば万を超える大軍を組織して周辺国家を飲み込む。数の暴力により国が亡びるのも珍しくない。
ここまでが俺の知るゴブリンという生き物の基本情報になる。
まぁ、もうすでに数十万の軍勢が確認され、そして国が二つほど飲み込まれているのだが。
「ブリリアントの方に1大隊が抜けた!」
「古藤! 頼む!!」
「――刻む鼓動は、今、光を超える!! ≪オーラノヴァ≫!!」
「――地に満ちては龍が如く廻りて、人に満ちてはチャクラを廻す。≪アウェイクン≫ 」
王都方面から現れたゴブリンの軍勢は、すでに南の地を征服していた。
川沿いにノース村までたどり着いたゴブリンどもは、周辺を警戒していた狼や馬たちが踏みつぶしていた。
それが1日1回の恒例行事となり、ダンジョンからモンスターが溢れ出たのかと危惧したがそれは杞憂で、原因が分からずこちらは反応に困る事になった。
ゴブリンの肉はただの肉で、狼たちの食料として有効活用できたことが危機感を覚えない理由の一つだったと思う。
「殺しても殺しても減らないんですけど!」
「日本からSMGと戦車持ってきてよ! 自衛隊から人借りないと、もう無理!」
「≪ソードスラッシュ≫! ≪ソードスラッシュ≫! ああ、もう! 近寄らないで!!」
俺の異世界再訪から1週間、まだノース村の日本化は始まったばかり。
航空機など、まだこの世界に持ち込めるはずも無い。
スポンサーの何人かをノース村に滞在させるサービスをしているが、その為にやったことは住環境の強化だ。防衛戦力強化ではない。
国家規模どころか地域レベルの情報網の構築だったやっていない。村単位の通信サービスで満足していた。
あと、防衛の観点から王国とコネを持っていない事も対応が遅れた原因だ。
ブリリアント側には王都からの流民が押し寄せ、すぐに対応を開始したらしい。戦時中の隣国も軍を退き、独自対応を開始している。
俺たちの所に情報が回ってきたのは彼らから遅れること2週間、行商が街に入った時の事だ。
「誰だよ! 戦術SLG? それとも戦略SLG? そっち系の影響か!?」
「ラノベのテンプレじゃね、むしろ!!」
「どっちだっていいでしょ! って魔力爆弾、もう無いの!?」
「≪アローレイン≫! 矢も残りわずか! 補給はどうなってるの!? 居残り組が村で作ってるんでしょ!?」
ノース村を防衛するだけなら簡単なんだけど、周囲をゴブリン王国に囲まれるのは勘弁してほしい。
『転移門』があるとはいえ、安全に旅を出来ないのは何かと都合がよろしくないのだ。
これから日本が周辺国家と国交を樹立し、異世界に打って出ようという時期なのだ。異世界の地下資源を回収するための資源採掘基地を作ろうというのだ。周辺の害獣処理は急務と言える。
と言うか、俺達を召喚した国が潰れた事で交渉相手がいなくなった。
俺達を召喚したことを理由に強気の交渉をするはずが、逆に復興支援が必要なほどズタボロになっている。
生き残ったごく少数、ブリリアントに王族が逃げ延びていたが、これ以上鞭打つのは利益に繋がらない愚行だろう。
「誰かゲーセンでロボのゲームやってきてよ! あれならゴブリンぐらい薙ぎ払えるんじゃない!?」
「無茶言わないで! 今からじゃ遅いし!」
「そろそろ撤退しようよ!? もう無理だって!!」
本格的な軍事行動を取ったゴブリンが、王ではないけれど将軍に類する上位種が推定10万の軍を率いて攻めてきた。
目標はブリリアント。
近くにある村は行軍の駄賃程度に滅ぼされ、俺達も多少は逃げ延び彷徨っている人を保護したけど、ほとんど村が「飲み込まれた」。
俺達は話を聞いてすぐに動き、今はブリリアント近くにある『転移門』を使い、有志15人によるゲリラ戦を展開中だ。残りは村でいろいろ生産をやっている。
自衛隊に増援をお願いしたが、アレは手続きに時間がかかるし、何よりメリットが無い。動いてくれるかどうかは未知数だ。
一撃一殺、鎧袖一触と、当たれば殺せる雑魚のゴブリン。
俺と古藤が最前面に突出しつつ、他のメンバーが夏奈と春香の作ったマジックアイテム頼りの遠距離攻撃を繰りだしているが。
大きめの魔法や広範囲に攻撃できるスキルも使っているけど、持久戦になると体力よりも心が先に折れる。
単体で見れば勝てない相手じゃないけど、数が多すぎていつ終わるか分からない戦いは、戦場に出るために振り絞った勇気を否応なく削る。
30分。
それだけの時間で万を超える骸の山を作ったが、それでもゴブリン共の勢いは止まらない。
あと2時間戦い続ければ、相手がずっと挑んでくるなら、全滅させることもできるだろうけど。義侠心や正義感だけで立ち上がった面々はそれにすら耐えられない。
戦場で心を病む兵士のように。
狂気に飲み込まれていく。
「敵ボス、撃破!」
「残存兵、逃げ出し始めたよ!」
例え戦争から戻っても、心の傷は、狂気を注がれた器は、簡単には元に戻らない。
散っていったゴブリンたちがまだ死なず生き延びているように、災いの芽は摘みとられず、誰も彼もに暗い影を差す。
何も無い所から出現する、ポップモンスター。
旅をすればモンスターに襲われる、ランダムエンカウント。
絶対になくならない脅威が現実と混じり合い、世界に現出した。




