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Nostalgia - 追憶 -  作者: 天野 花梨
To find each other, and to feel.
8/40

That's where you can begin, a new start .

1. That's where you can begin, a new start .


 時宗達の大学卒業する年の正月。


 時宗は父親の呼び出しで半強制的に帰国させられた上に、そのまま両親と共に箱根の会長宅、時宗のお祖父さんの家に連れて行かれた。

 30畳を超える和室のまん中に座卓があり、上座に会長、下座に時宗を挟んで両親が並び、和室の壁沿いに親戚、一族の当主がずらりと並んで居た。

 時宗は顔をひきつらせながらお祖父さんに向かい、新年の挨拶をする。

「じいさん、明けましておめでとう」

「おめでとう。時宗イギリスに行ったきり帰って来ないから寂しかったぞ?」

「ごめんね。オックスフォードは入るのも難しいけどさぁ、それより出るのも難しいからさぁ~。勉強しないとね?帰る暇が無かったんだよ?」と絵に書いた様な言い訳をする。

「でも時宗、世界遺産巡りの為の旅費の催促はかなりの頻度でしてきてたじゃ無いのか?」

「それは、世界の歴史を学ぶ事で世界経済も見えてくるだろ?だからだよ?」

「そうかぁ、まぁ時宗が世界を見るのは良いことだからな。グループを背負った時にその経験は役にたつだろうからな」

「じいさん、俺がグループを背負うのは無理だよ。ね?父さん俺では役不足だよね?」

「………。お父さん、時宗は少し楽天的で奔放過ぎて堅実な経営は難しいかと……」

「時宗以外で他に誰が居るんだ?一族でオックスフォードに現役合格出来る才能と統率力、柔軟な物の考え方出来る者はどこに居る?」

 時宗は隣の父親に肘で発言を促す。

 父親は時宗を見ながら顔をひきつらせ言う。

「お父さん、香織の婚約者の藤春君ではどうでしょう?彼はうちの系列会社の都市銀行の頭取に28才と言う若さで昇りつめています」

「功が送って来た資料を見たが、確かに出来る男の様だが躊躇いもなく多くの顧客や部下を切り捨てている。上に立つものは寛大な心と部下を育てる器量も必要だ!そうでないと誰も付いて来ないぞ?」

「そうですが、時宗では優し過ぎて流されてしまいますよ?」

「功、お前はバカか?時宗ほど頑固者は居らんぞ?」

「…………」

「じいさん俺、そこまで頑固ではないよ?

 優柔不断だしさぁ~。やりたいこと見つけるとそっちに流されるしさぁ」

「時宗!お前、やりたいこと見つけると誰がなんと言おうとやるよな?」

「ん?う、うん」

「そう言うのを頑固と言うんだよ」

「ねね、じいさん!ここに居るおじさん達に、藤春氏と22歳の若造の俺と、どっちの方が会社を運営していきやすいか、どっちについて行きたいか聞いてみたら?

 そうだなぁ~。じいさんと俺達は席外して誰かに意見取りまとめて貰おうよ?」

「では森本お前が一族の意見まとめろ」

「はい」

 時宗の両親と祖父母はリビングに移動する。

(あぁ、イギリスに帰りてぇ~)と心のなかで呟きながらソファに座る。

 目の前にお祖父さんが座り

「時宗、イギリスに帰る日までは、ここに居るのだろ?」

「え?なんで?今日1日って約束だよね?ねぇ親父!」

「う?うむ。まぁ東京に居ようと、ここに居ようと同じだろ?」

「え?親父!約束が違うだろ?俺にも用事が!」

 リビングに森本氏がやって来た。

「意見とりまとめました」

「分かった。時宗、結果どうであれ、今年の正月はここで過ごしなさい。さぁ移動しよう」

「え?じいさん!親父!なんとか言えよ?」

「時宗、戻るぞ」

「おい!親父!約束!」

挿絵(By みてみん)

 時宗は、ふて腐れながらまた元の位置に座る。

 全員が座るのを見届けた森本氏が意見を発表する。

「この場の一族全員一致で、時宗君を後継者に押します」

「え?えええぇなんで?」

「理由は一族の正統な家系、オックスフォードでの政財界へのパイプと才能、社交性、意思の強さです」

「おかしいよ?俺、本当に無理だからさぁ。グループの会社内容も分かんないのにうんとか言えないから。

 それに政財界へのパイプなんか持ってないよ?」

「仕方ないな」

「じいさん!」と時宗少し期待する。

「グループ傘下の各統轄者は順番に、ここで各々の担当会社の現状と動向を時宗に教えてやれ、資料用意してきているんだろ?」

「はい。会長。どの分野から?」

 一気に時宗の期待は崩れた。

 森本氏が50㎝以上の厚みのある書類の束を時宗の前に置く。

 時宗は隣の父親の顔を見るが、父親は諦めろと言う顔をする。

 それから、延々と会社説明が正月3が日に渡って行われた。

 休憩時間にお祖父さんの所に行き

「ねぇ。じいさん、どうしたら諦めてくれる?」

「ん?時宗、それは、いくらお前の頼みでも無理だよ?」

「えええぇ?じいさんなんとかしてよ?俺、本当無理だよ?」

「大丈夫、功がついてるよ。時宗が一人前になるまで一緒に仕事するから、心配することはないよ?」

「えええぇ、俺、学校作りたいんだよ」

「どんな?」

「オックスフォードとか行かなくても、日本で世界に十分通用するような、一貫教育出来る学校をさぁ~」

「おぉ、いいんじゃないか?その人材をグループ各社に送り込めば優秀な人材確保出来る。流石!時宗、目のつけどころが違うな?」

「あ、うん。だからさぁ」

「大丈夫だ。グループの仕事進めながら運営すればいい、功!功!」

「え?じいさん」

「どうしました?父さん」

「功、時宗がグループの為の学校作りたいと言うから協力してやれ」

「…………………………。じいさん…………。俺、そうじゃなくてさぁ…………」

「さぁ、残りの会社説明しようか?」

「……………………」


 結局、時宗は、跡を継ぐことに幾つかの条件を出して仕方なく渋々首を縦にふった。

 条件の一つは学校運営とその人選には自分に一切を任せて貰う事。会長でも運営等一切口出ししないこと。自分が卒業と同時開校出来るようにして貰う事。

 既存の業務の他に自分の思う新規事業の立ち上げ、人選、運営は自由にさせて貰うこと等。他にも色々と突き付け承諾を得た。


 結局、大晦日から5日間は箱根に滞在させられたが、なんとかじいさんを振り切り実家に戻ってきた。

「親父!なんだよ!全然話が違うじゃないか?じいさん説得してやるから帰国しろと言って反対に説得させられたじゃないか?

 しかも、3日も軟禁状態で!1日で帰してくれる?5日も居る羽目になったじゃないか?」

「時宗、前にも言って置いただろ?お前が一族を説得できるなら好きにしていいと。でも出来ないなら諦めろと。

 散々グループの恩恵で遊んで来たんだからこれからは、その遊んだ分をお前が返す番だ」

「それでも、グループ内で働けばいい話しだろ?親父の跡を継ぐ必要はないじゃないか?」

「例えグループ傘下に入社したとして、じいさんは会長の立場利用して辞令でお前を動かすだけだぞ。

 まだ、否応なしにするよりお前を時間をかけて説得したのは、時宗お前の事を思っての事だよ。諦めろ!」

「なら、約束通り、学校は作るからちゃんと承認してくれよ?」

「あぁ、しかし立場上、私には、全て報告しろよ」

「なら、話し進めるからな!」



2.He keep one's promise.


 時宗は翌日、唯野に会いに唯野のアパートに行った。

 インターフォンを鳴らす。

「なんだ!こんな正月明けに……」

 ドアを開けると満面の笑顔をした時宗が立って居た。

「えええぇ?時宗?お前、なんで?なんでここにいる?もしかして!まさか!退学になったのか?」

「なんでだよ?俺が退学とかあり得ないだろ?」

「いや、お前なら、十分あり得過ぎるから………」

雄大(たかひろ)さんどうされました?」と女性が顔を覗かす。

「え?いや、うん」

「ゆうだい兄貴、その人誰?」

「ん?うん、野口 香澄さんだ。俺の婚約者だよ。それと【たかひろ】だ!いい加減ちゃんと名前を言え!」

「え?兄貴の婚約者?何時結婚するの?

 俺、櫻 時宗よろしくね?お姉さん」

「こちらこそよろしくお願いします。

 こんなとこでは、なんなので上がってもらったら?」

「あぁ。そうだな?」

 時宗は部屋に上がらせてもらい。

 座ると同時に目を輝かせながら唯野に質問攻めが始まった。

「ねね、何時、結婚するの?

 勿論俺達、式呼んでくれるよね?

 結婚したらどこに引っ越すの?」

「時宗、先に俺の質問に答えろよ」

「ん?質問?」

「なんで?お前は、日本に居るんだよ?

 あ~。親父から一度卒業後の事も有るから正月に帰って来いと。

 忙しいと断ったけどじいさんを一緒に説得してやるから取り敢えず帰って来いと……。

 聞いてよ!兄貴!帰るやいなや箱根にそのまま連れて行かれて、一族の前に3日間軟禁状態でグループ会社の説明受けて跡を継げと迫られてさぁ~。あれ、ある種の拷問だよ?」

「それで継ぐ事にしたのか?」

「だって『うん』と言わないと解放してもらえないからさぁ……。帰ってくるんじゃ無かったよ」

「まぁお前、覚悟は決めて居たんだろ?」

「それはまぁ最悪はね。でも、もっと後と思っていたのになぁ~。

 ところで兄貴!俺の質問の答えは?」

「ん?うん。まぁ、お前らが無事卒業して日本に帰ってきたら式を挙げようかと話しているよ。ちゃんと式には呼びつけてやるから、ちゃんと卒業して帰って来い。

 それで今日は何の用だ?」

「ん?なんだっけ?」

「時宗、お前は、正月早々愚痴を言いに来たのか?」

「いや、俺は、そんな暇じゃないよ?」

「嘘つけ!太陽の塔でも見に行きたいんだろ?」

「なんで分かったの?」

「なんでかな?それで?」

「あぁ、前に約束していた学校、話し進める事になったからさ。

 兄貴に同意と協力してもらおうと思って」

「ん?学校?」

「校長してくれるって言ったじゃん」

「え?そんなに早く作るの?」

「早い方がいいんじゃないの?」

「まぁ、遅いよりは…………。何年後に創立?」

「3ヶ月後?」

「え?無理だぞ?」

「なんで?」

「お前はバカか?建物自体も無いだろ?教師も、何より教育カリキュラムも考えないとダメだろ?」

「建物は今のグループの運営している学校を使えばいいし、教師は公募すればいいだろ?」

「既存の学校だと、お前らの時の様に特別クラス止まりでお前の思う事にはならないぞ」

「どうすればいい?そうだなぁ。まず建物を建てて、それと並行しながら教師集めや教育カリキュラム決定とかしないとな」

「そう。兄貴、今の学校辞めて櫻グループに入社してよ。給料は俺達教えて居た頃の特別手当を含んだ額を保障するよ」

「えええぇお前、額知って言っているの?」

「知るわけ無いだろ?でも親父の事だから十分な額提示したんだろ?

 なんとしても俺をオックスフォード入れたがって居たんだから。足らないの?」

「いや、多すぎるかな?あれ3年限定でお前らの世界遺産巡りの同行費用も含まれて居たし……」

「兄貴の好きな額提示してよ。

 その代わりその金額分は働いてもらうよ」

「う~ん、なんで櫻グループに入社なんだ?

 社員として学校設立に関わった方が兄貴の思う学校が出来るだろ?

 ちゃんとプロジェクトの最高責任者として席用意するからさ。

 後、考古学は必ず入れてね。誠を教授としてポストは空けて置いて。どうかな?」

「本当に作るのか?」

「約束したでしょ?俺はやると言ったらやるよ?それを条件に跡を継ぐ事にしたんだから、誰も文句は言わないよ。兄貴の理想の教育現場作ってよ。

 後、結婚祝いに兄貴に新居を提供するよ。プレゼントしたいけど流石に、贈与は問題になるからさ。

 グループの賃貸の中から好きな物件を寮として選んでよ。どうかな?」

「至れり尽くせりだが、俺に出来るのか?」

「兄貴でないと出来ないよ?」

「分かったよ。前からの約束だからな」

「そう、よかった。これで安心して太陽の塔見に行ける」

「……………………………。太陽の塔ね」

挿絵(By みてみん)

「そうだよ?1年半も我慢していたんだからさ。いくら誠に見に行こうと言っても、『お前はバカか?なんでイギリスに居るのに、わざわざ日本に戻る必要が何処にあるんだよ?太陽の塔は無くならないだろうが!』と言って取り合ってくれなかったんだよ?雅治はわざわざ見に行ってるのにさあ~」

「いや、雅治はわざわざ行ったわけで無いだろ?時宗、何処にあるのか知っているのか?」

「大阪だろ?」

「新大阪駅からどうやって行くのか調べてるのか?」

「ん?聞けばいいだろ?」

「………………。時宗、お前、オーストラリアでも『大丈夫!ちゃんと調べているから』と言って現地行ってみたら【現地の観光案内所の位置】を調べて居ただけだったよな?」

「そうかな?」

「しかも、タスマニアではあの広大な公園を『俺がちゃんと地図持っているし、雅治もコンパスで確認しながら誠がチェックしているから俺達に任せておけば大丈夫!』とかいっておいて、公園内入って迷った挙げ句、『俺の特殊能力覚醒できない』とかわけのわからない事言いながら危うく遭難しかけただろ?」

「あーそんな事もあったね~。今ではいい思い出だね~。あの頃は若かったね~」

「絶対、お前1人では1日でたどり着かないぞ?」

「兄貴~」

「却下だ」

「なんも言って無いだろ?」

「俺は忙しい、太陽の塔には興味ない。一緒には行かない」

 時宗はふと唯野の婚約者と目が合う。

「………………。あ!お姉さん!俺と一緒に大阪遊びに行かない?ちゃんと旅費やら食事代やらお土産代まで全額、俺が出すからさ。折角の休みなのにこの数学バカの兄貴だから何処にも連れて行ってくれないでしょ?俺と一緒に大阪に遊びに行こうよ?太陽の塔に付き合ってくれたら後は、お姉さんの好きな所、付き合うからさ」

 唯野の婚約者は苦笑して返事に困っている。

「おい、こら、数学バカって!俺は何時も部屋に籠って居るわけでないぞ!」

「ならこの正月何処か連れて行ってあげたの?初詣は何処に行ったのさ?」

「………………」

「お姉さん、こんな兄貴でいいの?」

「こんなって!お前には言われたくないぞ」

 結局、唯野は婚約者と一緒に時宗の大阪1泊2日の旅行に付き合う羽目になった。


 その年の年度末、唯野は勤め先の学校を退職し、櫻グループに入社、それを期に結婚をし、学園作りに奔走した。

挿絵(By みてみん)

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