Dreams and adventure and reality
1.My dream.
誠は時宗に内緒で日本に一時帰国した。
雅治には直前には話したのだが、時宗には話すと絶対に一緒に帰るといい【太陽の塔♪】とか言って、用事を済ませてすぐにイギリスに戻るどころでは、なくなるのが目に見えて分かって居るから話すことを躊躇った。しかし、反対に話さないで後日、時宗にばれた時の騒ぎを考えると散々迷った。
迷った挙げ句、雅治には正直に話し協力を願い時宗には内緒で帰国した。
伊集院 誠 21歳
父親は櫻グループの本社経理部にいる。
母親は翻訳家をしていた。
家に着くと母親が仕事をしていた。
「母さん。ただいま」
「あぁ誠、お帰り。疲れたでしょ?少し待ってて、ここまで仕事を仕上げたら、お茶の用意するわね」
「そのくらい自分でするよ」
リビングに行き珈琲を入れてテレビを付けてくつろぐ。
テレビは、ただ付けただけで内容には興味は無かった。
テーブルの上に置いてあった母親の次の翻訳依頼の仕事で有ろう小説に目がいった。
誠はパラパラと見ていく。
(う~んつまらない本だ。はっきり言って内容が無さすぎる。なのに、こんなのが今、ベストセラーなのかぁ~)
誠は架空のSFやアドベンチャーものは嫌いではない。いや、むしろ大好きだ。
いや、この上なく大好きである。
何せ考古学者に憧れ目指すきっかけになったのは1981年に一代旋風を巻き起こした映画【レイダース/失われたアーク《聖櫃》】(Raiders of the Lost Ark)を見てからである。
単純な理由であるが映画のヒーローが夢になり、憧れ、必死の努力で自分も考古学者になろうとしている。
中学生の頃、母親に頼んで英語版のシリーズの文庫本を手に入れ読み倒した。
なので、こと細かく理解する為にかなり英語を勉強した。その本を読む事で益々、当時中学生だった少年の心をわしずかみにし考古学への憧れを開いた。
発掘調査の真似事がしたくて雅治に【男のロマンだ!】とそそのかし、時宗を巻き込み。徳川の埋蔵金捜しを提案したのもこの映画の影響が多分にある。
しかし、探すからには本気でその当時の調査は大人顔負けするくらい調べ倒していた。
後に誠は、インディ・ジョーンズ 最後の聖戦1989年公開の中のセリフは名言中の名言だと言う程、今も昔も陶酔している。
"Archaeology is the search for fact ... not truth.
If it's truth you're interested in, Dr. Tyree's philosophy class is right down the hall.
So forget any ideas you've got about lost cities, exotic travel, and digging up the world.
We do not follow maps to buried treasure, and "X" never, ever, marks the spot.
Seventy percent of all archaeology is done in the library."
― Henry Walton "Indiana" Jones, Jr.
『考古学が求めるものは事実だ。
真理ではない。
真理に興味がある者は哲学教室へ行け。
失われた都市とか埋もれた宝は存在しない。
地図の"×"印を掘って宝が出たためしはないのだ。
考古学の研究の場は七割方図書館だ。
文献を読み調べる。
伝説をうのみにしてはいけない。』
―ヘンリー・ジョーンズ・ジュニア
元々、雅治が無類の【STAR WARS】のファンでその影響が大きい。
インディ・ジョーンズの作品との出会いは同じスピルバーグ&ジョージルーカス作品で有ることから雅治に連れられて時宗と映画館に見に行ったのがきっかけである。
STAR WARSは日本で公開直後、小学生の少年達は内容はあまり理解していなかったがライトセーバー擬きでダースベーダーごっこを良くして遊んだものだ。
誠も雅治には敵わないが、あの映画が好きだった。
雅治の憧れは【ルークスカイウォーカー】ではなく【ハンソロ】であった。
雅治は、あの映画の冒頭部分のオープニングロール映像とあの音楽がいたくお気に入りで「あの音楽を聞くと鳥肌がたちワクワクドキドキする」と言う。
当時、加藤家にはステレオと言うものは無かったがサントラ盤のレコードを買って来て雅治がステレオを買うまでの間、毎日の様に時宗の家で聞いていた。
雅治の英語能力の向上はあの映画のお陰と言っていい。当時販売されたばかりで高嶺の花だったビデオデッキを親にせがんで買って貰い、日本ではあの映画のビデオテープは手に入らない為に時宗に頼んでビデオを輸入してもらい小学生の少年は何度も何度もその映画を字幕無しで見ていた。
誠にも原作本をなんとか手に入れて欲しいと頼み海外文庫本を読み漁っていた。
おそらく雅治が親にねだったのは【ビデオデッキ】と【オックスフォードへの留学】だけである。
ステレオさえ小遣いとお年玉でこつこつ貯めて買って居るがビデオデッキは流石に当時百万近くするため仕方なく親にねだっていた。
当時、小学生の子供が別れの挨拶が【バイバイ】【またね】などではなく。
"May the Force be with you."
(フォースと共にあれ。)なのだから。
当然、雅治からの励ましの言葉は
"The Force will be with you, always"
(フォースはいつも、君と共にある)
成長した今も雅治は【 STAR WARS 】の熱狂的なファンは健在である。
密かにライトセーバーのレプリカを宝物にしている。
それは昔、時宗と自分が雅治の部屋で大切に飾っていた STAR WARSグッツをふざけあって過って壊した時、雅治は、怒り狂うのを通り越して意気消沈してしまった。
自分と時宗は必死に同じ物を探したが見つからず、雅治の哀愁漂う姿に罪悪感にかられて本場ハリウッドからライトセーバーのレプリカを取り寄せて御詫びとして送ったものである。
時宗はあの時、「まだ怒り狂うほど怒ってくれていた方が良い、何も言わず放心している姿ほど恐ろしい物はない。どんなに自分が悪い事をしたのかとひしひし感じさせられる」と言って居た。
多分雅治に【海】と 【STAR WARS】どちらか選べと言われれば真剣に悩み倒した上に選べ無いだろう。
誠は以前、雅治になんで【海】なのか?と聞いた事があった。
「ん?ソロ船長の様に自由に宇宙を航海したいが流石に宇宙は出来ないだろ?俺は、宇宙飛行士になる気はないし、宇宙飛行士では、俺が望む通りの航海はできないだろ?仕方ないから海を航海するんだよ!
誠、お前がチューイー になって俺と気ままに自由に海を航海しようぜ?」
「なんでおれが毛むくじゃらチューバッカなんだよ!体格からすると雅治の方が似合うだろ!」と返答すると雅治は
「ソロ船長は、いくら誠でも譲れないな」
と笑っていた。
2.Dreams and adventure and reality.
誠の母親が仕事を済ませリビングにやって来た。
「頼みって何?正直あまりこれ以上のお金の援助は難しいけどな?お金に困っている?」
「ん?まぁ、色々と必要なんだけど。でも、仕送りして欲しい訳では無くて、俺にも翻訳の仕事回して欲しいんだ。翻訳なら空いた時間で有効に出来るからさ、下手なバイトするよりは時間有効に使えるからさ。
この位の小説なら2時間かからず読めるからさ、ただ書き出す時間と小説とかは文才が要るからどうかわかんないけど。企業のマニュアルや取説の英文化や和訳なら文才関係無いだろ?
ダメかな?ちなみにこの本ざっと読んだから後で原稿用紙に書いておくからアレンジだけするといいよ」
「あの時間で全部読んだの?」
「ん?毎日英語や古代文字読んでるだよ?
小説なんか他愛ない会話文じゃないか?そんなのに時間かかってたら生活出来ないよ?」と笑う。
「そう。なら私の仕事の量増やして見繕ってそっちに送るわ、どの位の量こなせる?
ん?そうだな。この位の内容の小説なら3日一冊位の時間はとれるよ」
「う~ん、会社言って見ないと分からないけど、そんなには仕事回して貰えないかも………。他にも翻訳家いるから。
反対に時宗君に頼んでグループ企業から翻訳仕事貰った方が早いのでは?
う~ん、何時も何でも時宗に頼って居るからな……。まぁ、母さんが回せるだけ回してよ」
「ええ分かったわ。ごめんね、もう少し仕送り出来れば良いんだけど」
「いや、俺こそ好き勝手に勉強させて貰って居るんだから、ごめんよ。
今回それを頼みに来たんだよ。電話では説明しにくいしさ。
ここにある本2冊とも母さんの仕事?」
「そう昨日貰ってきたのよ」
「ならまだ翻訳してないんだね?」
「ええ、読んでも無いわ」
「なら俺、ここではすることないからさ翻訳しておくよ。後で母さんがアレンジして出しなよ。原稿用紙頂戴」
「そんな事しなくてもいいわよ?ゆっくり休んで行きなさい」
「なんもしないも退屈だし、この本読むならついでに原稿すれば良いじゃない?
まぁ明日は出掛けるけどさ。明後日の朝一番でイギリスに戻るよ」と言って立ち上がり原稿用紙を貰い本2冊持って自分の部屋に向かう。
次の日、原稿を母親に渡し、誠はある場所に向かう。
唯野の居る母校へ
学校の事務室に行き卒業生だと名乗り、唯野先生に会いたいと言う。
事務員から今は授業中では無いので、職員室か数学準備室に居ると言われ通して貰う。
誠はまっすぐ数学準備室に向かいノックをする。
「どうぞ」
「失礼します」
唯野が専門書に目が釘付けになっており、こちらを見ずに「どうしたの?まだ授業中だよね」と聞く。
「兄貴の婚約者様を拝みにね」と誠が言うと。
唯野は "I have a bad feeling about this."(嫌な予感がする)といいながら、ゆっくり顔をあげる。
誠は勝手に入り込んで来て、
「あぁ、まだこの珈琲メーカーあるんだぁ。これで入れる珈琲は旨いよな。時宗が買っただけの物だよな。兄貴、俺のコップは?」
誠はごそごそとそこらをあさり棚からコップを見つけて洗い、何時もの場所から珈琲豆を出し珈琲メーカーをセットする。
「誠、まさか!まさかお前に限って、そんなことは起こらないと思うが……」
誠を目で追いながら唯野は不安そうに言う。
「兄貴、人生はまさかの連続だよ?
"Truth is stranger than fiction."(事実は小説よりも奇なり。)って言うじゃないか?
現に数学バカの兄貴に婚約者って言葉通りじゃないか?」と言いながら出来た珈琲を飲みながらソファに座る。
「おいこら、数学バカって、何で婚約者の事を……。いや、そんな事はどうでもいい。
誠!なんで退学になったんだ?授業料払え無かったのか?
お前に限って授業ついて行けないとかは流石にないよな?」
「無いよ?それに退学になんかなってないし。まぁ授業料が高くて苦労はしてるけど、親が頑張ってくれているし、櫻グループから奨学金もらってるから何とかしのいでるよ」と呆れながら返答する。
「なんだ!脅かすなよ!心臓止まりかけたぞ?」
唯野は、安堵したかと思えば【はっ】とした表情で急に立ち上がり小走りで準備室の出入口のドアに行き廊下や周りを見渡す。
「誠!もしかして時宗もここに来ているのか?」
「来てないよ。俺がここに来たことは内緒だからな?間違っても兄貴、時宗に言うなよ?言ったら婚約者の事、時宗にばらすぞ!」
「時宗は、知らないのか?」
「知っていたら速効でここに来てるよ」
「ただでさえ、【太陽の塔】に行きたくて仕方無いんだから」
「ん?何で太陽の塔?」
「雅治が1年前に、ここに来た後、大阪の親父さんの病院に行く途中に傍を通って記念に写真を撮って帰って来たのを時宗に見せたんだよ」
「へぇ………………。あっ!ところでなんで誠は日本に居るんだよ!」
「金の無心?仕事の無心の方が正しいかな?母親が翻訳家しているだろ?少し仕事回して貰おうかと。翻訳なら空いた時間で出来るからさ。授業料以外でも、なにかと結構金かかるからな。でも変なバイトして勉強の時間を取られるの嫌だからさ。でも電話ではペースや色々な事を説明しにくいだろ?だから帰って来たんだよ」
「そうか」
「ところで兄貴、俺には婚約者を紹介してくれないのかよ?時宗にばらすぞ。ここで電話かけてみろ時宗の奴、明日にはここに飛んで来るぞ」
「そうなると誠、お前も時宗に黙ってここに来たのが、ばれて面倒くさいことになるぞ」
『……………。時宗はいい奴なんだかなぁ~。あの性格は何とかならないのかなぁ』
2人口を揃えて溜め息をつきながら言う。
「いつ、イギリスに戻るんだ?」
「明日一番だよ。何日も休めないからね。それに雅治に頼んでは居るけど時間がたつほど時宗にばれる確率あがるからな。面倒は御免だ」
「そうか、もう少し待て。彼女はまだ授業中だ」
誠は放課後まで母校の図書室で唯野達の勤務が終わるのを待ちながら過ごし、その後唯野と婚約者と一緒に食事をし、紹介してもらった。
誠は帰りの別れ際に唯野に耳打ちする。
"Take time by the forelock."(時は前髪でつかめ)
「何時でも俺達は兄貴の結婚式なら喜んで飛んで帰って来てやるからさ」
"May the Force be with you."と言って去って行った。