Disturbance
1. eye opener.
あの男が倒れた。
この知らせは櫻グループ関連会社及びあの男の交遊関係者に瞬く間に広がった。
櫻グループ統轄フランス支社
時宗にその知らせを届けたのは、時宗の片腕秘書の藤堂である。
「統轄長!大変です」
何時もとは違い、ノックもせず息を切らしてやって来た。
「ん?どうしたの?藤堂君らしくない」
「加藤さんが倒れたそうです」
「えっ?雅治が?なんかの間違いだろ?」
「いや、拓哉からの情報なので間違いではないと思われます。ただ概略しか拓哉も把握していない見たいですが………。
事の次第はこうです」と藤堂は話し始める。
「加藤さんは通常通りあの島付近の海洋調査中でした。今回の調査は1週間程度の船舶での泊まり込みで調査を行う予定だったそうです。
ですが、何やらその船にウイルスが蔓延して船員が次々と倒れていき、終いには船の操縦士まで倒れたそうです。
急遽加藤さんが倒れた船の操縦士の代わりに最寄りの港まで船を運転しながら救急に電話し着港から救急車で乗組員全員病院に運ばれたそうです。
船員の多くはその日のうちに帰宅されましたが、加藤さんだけは五十嵐先生の病院に移り入院したそうです。
入院後2、3日は面会も出来ていたのですが………」と藤堂は言葉を切る。
「まさか?何?よくないの?」と時宗は驚きを隠しきれず動揺する。
「はい、今は面会謝絶だそうです」
「ええっ?あの雅治が?」
「はい。どういたします?」
「取り敢えず雅治の様態を聞くため和也に連絡してみるよ」と時宗は電話をかける。
「私ももう少し情報を集めて見ます」と藤堂は統轄長室を出ていく。
数分後、藤堂が統轄長室に戻って見ると時宗は渋い顔をしている。
「何かわかりましたか?」
「いや、和也は、手術中で電話には出れないとのことだ。
病院に雅治の様態を聞いても親族ではないので個人情報は答えてくれないが入院はしているらしい。面会謝絶も事実らしい。
仕方ないので兄貴と誠に連絡してみたが両方圏外で繋がらない。
この時間に兄貴が圏外と言う事は病院に行っているってことか?和也が手術中とは雅治の手術しているのか?全く状況がわからない」と時宗はため息をつきながらどうしたものか悩む。
「私が本社の秘書室に海洋開発部の状況を聞いた所、ある船員が流行性ウイルスにかかり、潜伏期間中に乗船し、船内で発病、狭い船内ですから瞬く間に次々と移って発病したみたいです。
ただ加藤さんが適切な判断で処置を指示しスムーズな病院への搬送の手筈まで取られたとの事で、乗組員達に重篤患者は居なかったようです。
最後に加藤さん自ら病院に行かれ検査をしたら感染が確認され大事を取り入院されたそうです。
入院して3日間はマスクと消毒すれば面会出来て居たそうですが……。どう言う訳か今は面会謝絶になっているそうです。
倒れたと聞いて廉君が看病や身の回りの世話申し出たらしいのですが、移ると行けないからと断ったそうです」
「う~ん、藤堂君。後フランスの予定は?」
「細かい書類のチェックなので本社でも出来ると思います。お戻りになりますか?」
「そうだね。すぐ飛行機の手配をしてくれる?」
「はい。承知しました。統轄長は帰国の準備をして下さい」と藤堂は部屋から出ていく。
時宗は部屋の窓から外を見渡しながら友人の様態を心配していた。
2.The truth of the matter has become clear to me.
その頃日本では、
フロンティア学園校長室
唯野と誠が話しをしている。
「あの雅治が入院なんかするから、俺が久しぶりに教壇に立つ羽目になるとはな。
いくら雅治が客員教授だと言っても海洋学の講義は少ない上、不規則だからな。
臨時休講にして延ばすにしても回復後は当分海洋開発部の方の仕事で雅治の時間も取れないだろうからな。
学園としては、なんらかの講義や補講はしないとな」
「でも兄貴、よく海洋学の講義なんか出来ましたね」
「ん?そんなの数学者に解るわけないだろ?昔、玲音が質問してきた【生物の発生と海の関係】を解説したのをそのまま講義しただけだ。宇宙の分野以外は雅治からレクチャー受けていたからな」
「存外、玲音君の好奇心役に立ってますね。俺が、倒れた時の為に何かレクチャーしておきましょうか?」
「冗談じゃない。これ以上専門外の学問を極める気はないぞ。
誠!お前が倒れた時は通信で病室から講義しろよ!
とこで誠。あんなに元気だった雅治が何で今は、面会謝絶なんだ?
昨日、講義の為に病院に電話したが、元気そうだったぞ?
奴はインフルエンザだろ?
独身だから用心を取って病院で1週間程養生するだけだろ?」
「そうなんですが、雅治に面会者が次々と病院に押し掛けてくるから和也が苦肉の策で面会謝絶にしたんですよ。特別病室でもあまりに次から次へと来られるとね。しかも流行性感染症ですからね」
「そんなに面会者が居たのか?」
「雅治の交遊関係は広いですからね。
しかも、普段病院とは全く無縁な奴がお世話になっていると聞いて皆びっくりして【これは一大事】とイギリスやアメリカをはじめ世界中からの知り合いが駆けつけてきたみたいですよ。
ここの外国人客員教授の2人も例外なく大騒ぎして見舞いに行ったとか。
恐らく海外には、あの2人が広めたと思われますが………。
国内の方も結構出入りが激しかった見たいですし。
それより、何人かの女性が鉢合わせして雅治の看病を巡って大喧嘩が起きたとか。
色々逸話になりそうな話題てんこ盛りですよ」
「…………。交遊関係と言うのか?それは……。
違う事で再入院とかならなかったのか?」
「さぁ」と誠は両手を上げて呆れている。
唯野は携帯電話の着信ランプに気付き時宗からの着信履歴を見る。
「時宗の奴から連絡入っているな。奴は今何処に居るんだ?」
「ん?フランスに半月ばかり行くと聞いていましたが?あれ俺にも入っている。雅治の件かな?」と誠がその場ですぐに折り返すが時宗はその時飛行機に乗っていて圏外となっていた。
3. Disturbance.
翌日
「先輩!千景先輩!」
「ん?悠貴か?何だよ?先に言って置くけど面倒は御免だ!俺は、忙しい。
つまらない事を言うなよ?そう言う事は俺より、パンダに相談しろよ」
「え~。俺が言うことは、何時もつまらないことの様な言い回しですね」
“You are right.”
「酷いなぁ~。俺より先輩の方が………」
「悠貴!俺は、忙しいと言ったろ?用が無いなら行くぞ?」と千景は立ち去ろうとする。
「あぁ、いや俺の用事で無くて伊集院教授が先輩に聞きたい事が有るみたいですよ。加藤さんの件で」と千景を引き留める。
「ん?う~ん……」と千景は悠貴をマジマジ見て考え込み口を開く。
「悪いが悠貴。俺は、この件は聞かなかった事にするよ。じゃあな」と千景は踵を返す。
「あぁ~。困りますよ!一緒に来て下さいよ!俺が愚痴られる」と千景の上着の裾を掴み引き留める。
“I have a bad feeling about this.”
「先輩に【いい予感】なんかした試し無いでしょ?一緒に考古学室に来て下さいよ」
「いや俺、これから大学病院のレジデント勤務なんだよ!」
「先輩なら大丈夫ですよ!1回や2回さぼっても……。それに夜勤なんでしょ?まだ時間あるじゃ無いですか!」
「2回??やっぱり嫌な予感しかしない!」
「加藤さんにはライトセーバーの借りが有るでしょ!俺だって凄く欲しかったのに!」
「…………」
考古学研究室
「教授、千景先輩連れて来ましたよ」
「あぁ、ありがとう。悠貴、君は作業の続き始めてくれるかい?」
「はい、わかりました教授。先輩またね」と悠貴は出ていく。
「千景君、忙しいのにわざわざ足を運んで貰って済まないね。ちょっと校長室まで同行してくれるかい?」といい携帯を取りだし電話をかける。
少し移動し何やら話しをしているが直ぐに千景のもとに戻ってきた。
「悪いね」といい校長室まで案内する。
校長室のドアを叩き「兄貴!入るよ」
「どうぞ」と中から声がし、唯野が出迎える。
「千景君、わざわざすまないね。まぁ、そこに座って」と誘導されソファに座る。
目の前に唯野と誠が並んで座り質問する。
「雅治の具合どんなか分かるかな?そろそろ退院だと思うんだけど何故か面会謝絶だし、最近個人情報絡みで病院もなかなか病状教えてくれないしで、どうなっているのか分からないんだよね」
「加藤さんなら、今日退院するんじゃ無いかな?俺が昨日病院に顔を出した時は元気でしたよ?インフルエンザの処置も早かったので高熱も出さなかったみたいだし。
ただ潜伏期間中のウイルス保有者なので隔離されただけで……。
あの人、自宅で安静とか言っても出歩きそうだし、実家に戻ると年老いた祖父母に移ると大変だからと母が入院するように説得しただけですから」
「そう。退院後は自宅に?」
「いや、多分祖父母の事を考えて島のホテルの方に行くとか言ってましたよ。1週間事務仕事をしていれば缶詰になると。
他の社員も倒れて仕事もたまって居るからと言ってました」
「そう、ありがとう」と千景が言い終わると同時に校長室のドアが叩かれる。
「兄貴!入るよ」と言ってあの男が登場する。
後ろには何故か玲音と廉がいる。
「雅治、退院したのか?」と唯野と誠がびっくりしている。
「あぁ、迷惑かけたな。入院する事も無かったけど七海がうるさいからな」
「なんで、パンダと廉が一緒にいるの?」と千景が不思議そうにいう。
唯野の後ろの籠からご主人を見てチューイが「マーサ!マーサ!」と騒ぐ。
「相変わらずチューイは加藤さんの反応は早いよね。俺の事も呼んでくれないかなぁ。レオン!レオンだよ」と玲音がチューイの傍に行き構う。
「一応、病人なので付き添いと、今後この様な事が起きないように対処や予防法を考える為に現地視察を兼ねて俺達が同行しているんだよ」と廉が答える。
そこに誠の電話が鳴る。
「ん?時宗からだ」と電話に出ると
「誠、雅治はどうなって居るんだ?昨日まで面会謝絶だったのに今日病院に行くと退院したと」と時宗の声がする。
「あ~それは、本人から説明さすよ」
「え?」と時宗が戸惑う声がする。
「雅治、時宗が心配してるぞ」と携帯電話を投げて渡す。
「あー悪い悪い。まだお前には、報告してなかったよな。バタバタしていたし、お前フランスに行っていたから取り敢えず報告は玲音達にしたんだよ」
「何で面会謝絶だったんだ?心配して帰国してみれば元気に退院してるじゃないか!」と時宗は騙された感満載で怒る。
「それは、俺のせいじゃないよ。まぁ、電話ではなんだから会った時にでも話すよ」と言って携帯を切る。
「あー参ったよ。俺に誰が面会に来るかなんて分かんないし、来たら来たで変なことで揉める奴も居るし、七海からは俺が怒られるし、散々だったわ。
兄貴、講義俺の代りやってくれたんだって?サンキュー」と雅治本人は他人事のように話す。
「雅治。お前全然元気そうだな。本当にインフルエンザにかかっていたのか?高熱が出るんだろ?」と唯野が聞く。
「俺?潜伏期間だったから早めの処置ですぐ治ったよ。1週間も入院する必要なんか無かったけどな」
「兄貴!入るよ」とノックの後に声がし、時宗がやって来た。
「雅治!ここに居たのか!入院したと聞いて和也や兄貴達に連絡するが連絡着かないわ、心配してわざわざ仕事切り上げて帰ってみれば元気そのものじゃないか!面会謝絶っていうから重病なのかと心配したぞ」
「まぁ、それは、俺のせいじゃないさ。苦情は七海と和也に言ってくれ。
それより、時宗。俺の部署に船医を置いてくれないか?狭い船だが何泊も船に泊まり込む事もあるし、医療は下手に素人では処置出来ないし、狭いスペースで飛沫感染だとまた、こう言う事は起きるし、他のウイルス性の病原だともっと悲惨な事になり兼ねない」
「そうだな。中高生の野外活動にあの島にも使うとなると、医療施設は欲しいな」と唯野も言う。
「いい機会だ!齋藤君も呼んで少し突き詰めるか?千景、お前あの島のドクターしろよ。あそこなら時間はたくさんあるぞ研究でも何でも出来るぞ。
手に負えないのはドクターヘリで、ここの大学病院か、和也の病院に搬送すればいい」
「俺は研究医したいんですよ!あの島では設備無いでしょ!俺を巻き込まないでくださいよ!それにそんなこと親父達が納得しませんよ。加藤さんが説得してくれるんですか?」
二人の会話を聞いた廉が千景に向かって不思議そうに言う。
「前から思って居たんだけどさ、千景は、なんで加藤さんは【叔父さん】に当たるのに加藤さんって呼ぶの?普通【雅治叔父さん】か【叔父さん】と呼ぶよね?」
「ん?この人【叔父さん】と呼ばれると歳を感じるから叔父さんと呼ぶなと小さい頃から言っていて、それにこの学園に入るまでは、存在は知ってたけど殆ど会ったこと無かったからね。正月すら母さんの実家に居ないからね。今では【叔父さん】って感じしないからなぁ。親父や母の古い友人って感じしかしないよ!」と雅治を見ながら言う。
「俺は独身貴族謳歌しているのに【叔父さん】とか言われるとその度に老けて行くだろ?言霊の威力はすごいぞ?
そんなのは、真平御免だ!
それに、ライフサイクルが和也達とは違うからな。会える機会が少なかっただけさ」と雅治は平然と言う。
「島の診療医かぁ~。楽しそうだね。俺が医師免許取ればあの島で診療所作って居放題かぁ?ついでにヘリの免許も取って~」と玲音は興味を示す。
廉があきれ果てながら玲音に向かって言う。「お前は、今の統轄長の仕事のサポートどうする気なんだよ!それに、医者が患者放置してヘリ運転してどうするんだよ!何よりそう簡単に医師免許取れるかよ!」
「あ~そうかぁ?じゃあさぁ廉が医師免許取って俺がヘリと看護士の免許取ってさぁ~」と玲音は自分に都合のいい部分だけを話を展開させる。
「玲音。この前お前に、国内の業務の一部任せたばかりだろう?」と時宗が言う。
「書類の整理ばっかりじゃんか!元々親父1人で出来てたんだから俺が居なくても回るよ!それに、親父が引退するまでは好きにしていいって約束だろ?」
「え?これからは国内業務は玲音がやっていくのか?」と唯野が聞く。
「ああ、そのつもりなんだが……」と時宗は玲音を見る。
「そうなると、この学園の統轄も玲音?」と唯野が聞く。
「別にはっきり別けて居るわけではないが……」と時宗は言葉を濁す。
「あーなら、親父!俺があの島統轄しちゃっていいんだ!」と名案が浮かんだとばかりに玲音は言う。
「…………。却下だ!玲音!あの島に事務所拡張はしないぞ。あそこを拠点するのも却下だ」
「親父、まだ何も言って無いけど俺?」
「言って無いけどそう言うことだろ?」
「まぁ、そうだけどさぁ~」
「却下だ!取り敢えず雅治、これから本社に一度顔を出せ。船医云々はそこで聞く。
兄貴、島での野外活動施設はいいが、医療施設はまだ無理だ。あの島の開発をどうするか方針が決まってからだ。あのホテル内にある程度の診療所を設けるから学園の保健医と診療所の医師で連携とる形にしてくれ」と時宗は代替案を提示する。
「玲音、廉、本社に戻るぞ。雅治も一緒に来い」と時宗は不機嫌そうに言いながら本社へと帰っていく。
「やれやれ、思った以上の騒動だったな」と誠は時宗たちを見送りながら立ち上がり「さて、俺も仕事しますか。じゃあ千景君ありがとう。兄貴、戻るよ」という。
千景も立ち上がり「俺も夜勤に入ります」と皆それぞれ去って行った。
「しかし、雅治の入院はほんと大騒動だったなぁ。玲音がこの学園にも携わるのかぁ~。お前も忙しくなるな」と唯野は呆れ果てながらチューイに向かってぼやいていた。




