A small leak will sink a great ship.
1. headhunting.
ホテルの仮事務所で齋藤と加藤が話し合っている。
「時宗は見掛け通り、結構いい加減な奴だから、ドイツの定例会までに合同事務所の段取りしておかないと廉や玲音が抜けた後、地獄を見るぞ?」と親友とは思えない事を雅治が言う。
「俺、合同事務所より玲音君欲しいなぁ」と齋藤は染々と呟く。
「それを言うなら俺だって同じだ。廉は俺のアキレス腱だぞ!いっその事、海洋開発部門とリゾート開発部合併して廉と玲音を引き込むか?」
「それ、いい考えですね。廉君さえ引きずり込めば玲音君はこっちのものですよ!」
「その為には時宗と藤堂をどうするかだ」
「それもですが、廉君も一筋縄では………」
「う~ん……って。今これ考えても、廉達は正式入社はまだ先だ。今ある脅威を何とかしないと」と雅治は齋藤に言う。
「加藤さんの部門の事務処理どのくらい有るんですか?」
「俺が知るわけ無いだろ?」
「ハハハ……」と齋藤が苦笑する。
「齋藤、お前は把握してるのかよ?」
「勿論、全部は知りませんよ」
「同じじゃないか!」
「いや、俺はある程度は把握してますって」
「俺だって多少なりは知ってるよ!
誠の所はどのくらいあるんだろ?」
雅治が誠に電話する。
「なんだ?雅治。俺は今、非常に忙しいんだよ!」
「誠、お前今どこに居るんだ?」
「学園だよ。講義もしなければならないし、ドイツ行く前に片付けないといけないことが山積なんだ」
「そうか、でも新しい合同事務処理の件で定例会前に3人で話し合っておきたいんだ。お前の所の事務の量把握している奴か資料持って横浜事務所に来いよ」
「え?この忙しいのにか?」
「だから島とは言わず横浜にしてやってるじゃないか?」
「う~ん仕方無いな、何時だ?」
「明日は?」
「ダメだ。資料が揃えれない」
「では、明後日は?」
「わかった。朝一番からでお願いするよ。夕方、学園の会合だ。って言うか雅治お前、客員教授なんだからお前も出席しろよ!少しは兄貴のご機嫌を取れ!」
「分かったよ。話し合い後、お前に付き合うよ。では、明後日朝一番な?」
「あぁ、分かったよ」と言って誠との電話を切る。
「誠との約束は取り付けた。だが忙しいらしいから横浜事務所にセッティングした。明後日に各自の事務処理の資料揃えて横浜事務所に集合だ。できれば事務処理把握してる奴も連れて来いよ。明日夕方一緒に車で事務所に向かおう」と雅治は齋藤に説明する。
「分かりました」
「朝一番と言うから前のりで頼むぞ」
「明後日迄ですよね?玲音君達は……。
居なくなった後の、合同事務所出来る迄の間も大変なのになぁ~。加藤さんはどう乗り切るんですか?」
「あの人事部から流れて来た使えない佐藤に力ずくでもやらせるしかないだろ?」と加藤は不機嫌そうに言う。
「しかし、うちに流れて来た柏木は全然使い物になりませんよ?事務処理しないから測量班に荷物持ちとしてに同行させても、主任より荷物を持たないわ、途中でバテて座り込んで動かないわ。かえって足手まといだと苦情が来ているくらいですから」と齋藤もうんざりとした表情で語る。
「廉から何も苦情ないから佐藤は少しは仕事してるのかな?」
「加藤さん把握してないんですか?」
「毎日現場に出てるのに把握出来るかよ!毎日2回以上は廉に連絡は入れて居るが廉は仕事の質問しかしないぞ?他の所員からも何の苦情や、報告もないしな」
「玲音君はカリカリしてましたよ?廉君の様子が変だと、なんかストレスが凄いから発作を起こさないといいと」
「まぁそれを含めて明後日、確かめよう」
翌日、横浜に行くために雅治の所に齋藤と玲音がやって来た。
「ん?玲音お前家に帰るのか?」
「ん?そうだね?でも、その前に横浜事務所で事務処理の説明してって齋藤先輩が言うからさ。まぁそれ済むと廉と一緒に帰るけどね~」
「齋藤、事務処理担当って玲音に丸投げしてたのかよ?」
「いやぁ、部下にもちゃんと教えたよ?部下のより一番把握出来たのが玲音君だけだよね?」
「う~ん、先輩の部下、頭悪すぎだよね?」
「そうだね?ハハハ…」と齋藤は苦笑する。
「明日から大変そうだな?齋藤」
「………。加藤さん助けてくれません?」
「アホか!そんな余裕あるかよ!」
「ですよね?」
一行は横浜のホテルに向かって移動した。
2.Troubles arise.
その翌日、朝早くから横浜事務所の会議室で雅治、齋藤、誠がそれぞれの事務処理の毎月の平均の量と会計等の処理、報告書の作成の段取りの現状把握を行っていた。
「結構な量だな。と伊集院が言う」
「だろ?こんなの事務処理のエキスパートでも居ない限り、大変だ」
「齋藤、玲音は?」
「ん?廉君手伝うから用事あれば呼んでくれと」
会議室の外が騒然としていた。
「雅治なんだ?外がやけに騒がしいぞ?
始業の音楽は鳴ったんだろ?」
「そうだな?ちょっと見てくるわ。
お前ら続けておいてくれ」
「あぁ」
加藤が会議室を出ると奥の事務関係部所から大声が聞こえ所員が野次馬の様に集まっている。加藤は一番手前の所員に話しを聞く。
「なんだ?この騒ぎは?どうした?始業の音楽は鳴っただろ?仕事しろよ」と言うと。
「いやぁ、佐藤と外部者が口喧嘩はじめて」
「なんで外部者が居るんだよ!」
「さぁ橘君が連れてきたので…」
「廉?」
会議室の外は全然静まる処か激しくなるようで齋藤と伊集院も会議室から何事かと顔を覗かせる。
「こう言うのは俺の仕事では無いんだよ!
俺は事務仕事するために、この会社に入って来たわけでは無いんだよ!」
所内に響くほど大きな声で叫ぶのが聞こえる。それに反応してそれ以上の大声が響く。
「なら、辞めろよ!今すぐ辞表を書けよ!」
「何騒いでるんだ?」
加藤が野次馬をかきわけやってくる。
「玲音、廉、どうした?」
「この給料泥棒に会社辞めろって忠告してるんだ」といつもの温厚な玲音とは違い怒りを顕にする。
「玲音!辞めろって」
廉は必死に玲音の腕をつかんでをなだめる。
玲音の喧嘩相手は佐藤だった。机の上には、仕事道具は一切なく明らかに朝食と見られるサンドイッチと珈琲、バナナがあり、新聞がくしゃくしゃになっている。
佐藤は玲音を睨み大声で叫ぶ。
「何で、バイト風情にそんなこと言われなきゃならないんだ?」
「佐藤!いい加減にしないか!就業中に新聞広げて朝飯食ってる方がおかしいだろ?
それにお前、そのバイトに仕事殆どやって貰っているんだろ?
玲音の言う通りやる気無いなら辞表出せ。解雇より自分で辞める方が履歴書に傷が付かんだろ?」と加藤が呆れ果て忠告する。
玲音の険悪な声に齋藤も心配になり
「何騒いでるの?」と出てくる。
段々と騒動を聞き付けた他部署の所員で佐藤を取り囲んできた。部が悪いと感じたのか佐藤は立ち上がり
「俺、帰ります。本日は有休使います」と言って帰って行った。
それを見た玲音はまた一段と怒りを増し
「なんだよ?あいつ!ふざけんな!」と叫ぶ。
加藤は他の所員に仕事をするように指示し、廉と玲音を会議室に呼んだ。
伊集院、加藤、齋藤が玲音達に事の経緯を聞いた。
玲音が事細かく経緯を話した後、廉は直ぐに「すいません、俺、仕事戻ります。今日中に全部済まさないと、他の皆さん困るだろうから……。明日からはここには来れませんし」と言う。すると玲音も心配そうに「廉、俺も、手伝うよ!」といい。2人は会議室を出た。
「あの佐藤って奴も相当だな?
あの玲音君怒らせるんだから」と齋藤は初めて温厚な玲音が怒ったのを見てびっくりしながら言う。
「雅治、本人の口から仕事のやる気が無いと、はっきり言ったのだから、解雇出来るのでは?」と伊集院は佐藤の態度を思い出し呆れながら言う。
「まぁな。定例会から帰って来るまでに辞表出さない様なら解雇するさ」と2人が出て行った方を見ながら加藤は言う。
「しかし、これだけの部の事務処理、殆ど廉君一人でやってたとはねぇ」
伊集院は廉を不憫に思う。
「俺だったら投げ出しそうだ。しかも目の前であんな態度のが居るとな……。
俺の部の柏木も相当だけど、この部の佐藤の方が上行っているとはね………」
齋藤も同情した。
「取り敢えず、廉君達居なくなるから、段取りしておかないと、合同事務局設立しても旨く機能しなかったら目も当てられ無いからね……」
伊集院が取り仕切って打ち合わせを続けるように提案する。
「しかし、ドイツ連れて行こうなんて言わなければよかった」
2人は大きな溜め息をつく。
「まぁまぁ、さっさと段取りしておこう」
伊集院が取りなす。
この会議後、齋藤は当分の事務仕事を持って本社の秘書室に訪れた。
「なんですか拓哉?こちらはドイツの定例会前で忙しいんですよ」と藤堂は冷やかな対応をする。
「十碧!お願いだ。一生の願いだ。助けてくれ」
「拓哉!貴方には幾つの生涯が有るんですか?最近では玲音様の旅費の無心で一生涯有りましたよね?」
「あれは無くなっただろ?だから、代わりにさぁ~。お願いだ!頼むこの通りだ」と手を合わせ頭を下げながら懇願する。
「却下です。秘書室にそんな余裕有りません」
「十碧まだ何も言って無いだろ?」
「言わなくても拓哉の言う事くらい分かります。どうせ玲音様居なくなって合同事務所が出来るまでの事務仕事押し付けに来たんでしょ?ダメです」
「流石十碧、よくわかっている。お願いだ!この通り、このままでは俺、ドイツ行くまでに過労死するよ?」
「体力有り余っている拓哉が過労死とかあり得ませんよ。過労死をなめてるんですか!」
「十碧、ドイツでうまいビールとウインナー食べたく無いか?」
「拓哉に奢るお金なんか無いでしょうが!」
「十碧、本当に本当今回だけは助けて、お願い。この借りは必ず返すからさ。どうかお願いします」齋藤はくいさがり、結局、藤堂が折れた。
3.What a hassle!
フロンティア学園校長室
誠と雅治が会合前に校長室で待機している。誠はいつも通りソファに座ったが、雅治は唯野の前に歩みよる。
「珍しいな雅治が会合に出てくるとは……。なんか……。時宗以上に……。
"I have a very bad feeling about this."
(イヤな予感がする。)」
「兄貴、お願いが……」
「ダメだ。却下だ!何も言うな!」
「何も言わなくて引き受けてくれるのか?流石兄貴だ!」
「アホか!却下だと言ってるだろうが!誰が引き受けるかよ! 」
「そう言わずにさぁ、お願いします。一生に一度のお願いだ!」
「雅治、お前、何度生き返ったんだよ!ゾンビか?1度しか無いのが一生だろうが!お前の一生に一度は聞きあきた!ダメだ!」
「俺、兄貴の可愛い愛弟子だろ?弟子の願い聞いてくれよ」
「どこが可愛いのかな?面倒ばかり持って来て」
「出来の悪い子程可愛いというだろ?時宗の無茶苦茶な面倒はなんやかんやと見てるじゃないか?
俺の願いも叶えてくれよ~。ドイツからちゃんと土産買って来るからさ」
「土産なんぞいらない。時間の方が大切だ」
その様子を見た誠は、
「雅治、まさか兄貴に頼むつもりか?」
「誰かに頼まないとどうにもならないじゃないか?あれを、今の俺が全部はけると思うのかよ!事務所内も見ただろ?誰一人時間の余裕が無いんだよ!お前の所と違って!」
「俺の所も同じようなもんだよ!」
「お前ら何言ってるんだ?と唯野は怪訝な顔をする」
誠が客観的に説明をする。
「成る程な、時宗奴、相変わらず行き当たりばったりだな。
しかし、それと俺、どう関係がある?まさか?まさかと思うが……」と唯野は口にするのもおぞましいと言わんばかりに口を閉ざした。
「流石、兄貴、察しがいい。ドイツから帰るまでの間の事務………」
「アホか!出来るかよ!ここを何処だと考えている。学校だぞ!一企業の問題持ち込むんじゃない!」唯野は加藤の言葉を遮って怒る。
「でもさ~、こう言ってはなんだけど兄貴にも少なからず責任が有るだろ?」
「何でだよ!どうしたらそうなる」
「問題を起こしているのは、ここの学園の卒業生ばかりで、しかもその年度の上位の成績優秀者ばかりだ。そいつらのこう言った道徳心が養われて無いのは兄貴のカリキュラムに問題有るのではないか?」と鋭く唯野に加藤は言う。
「!!!!!」
唯野は言い返す言葉が無かった。
唯野は無言で椅子を反転し溜め息をつきながら窓から校庭を見渡す。それを見た誠が一応フォローする。
「雅治、それは言い過ぎだ。ここの生徒でその様な奴はいない。卒業後、社内の悪環境に染まってしまったからだろ!」
唯野は、そのフォローを聞いて答える。
「悪環境に染まるという心の弱さや、道徳心欠如は確かに否めないな。もう少し、カリキュラムを考えた方がいいのかも知れん」と溜め息をつきながら唯野は言う。
「で、俺にどうしろと?雅治お前は、カリキュラムの問題の指摘するために言っているわけないよな?雅治、お前は………」と唯野は頭を抱えながら言う。
「兄貴、察しがいい」と加藤は嬉しそうにいう。
「明日から合同事務処理機関が出来るまでの早急に処理しないと現場が動けなくなる書類だけ処理して欲しいんだ」
「……………。それは、アルバイトを紹介と言う事でもいいのか?」
「あぁ、ただ事務処理に慣れた奴出ないと…」
「秘書課希望の成績優秀者奴なら大丈夫だろ?」
「そりゃあ、もちろん」
「研修兼ねたアルバイトとして紹介するようにするよ。それで良いだろ?」
「ありがとう。兄貴!やっぱり兄貴は頼りになる」
「嫌、頼りにしないでくれ。お願いだから。
後、佐藤だっけ?あと柏木?いつの卒業生だ?」と唯野は加藤に質問する。
「ん?出たばかりでもなかったし、30には手は届いて無いから25前後かな?」
「そんな感じだな?しかし、あの佐藤は玲音君はおろか廉君の事を統轄長の息子だと分かって居なかったと言う事だよな?」と伊集院は言う。
「幾らバカでも流石に会社のトップに楯突こうなんて考え無いだろうし、あんな態度も見せないだろうな」と加藤も言う。
唯野はパソコンで卒業生のリストから佐藤を見つけだした。
「雅治、こいつか?」という。
雅治と誠は唯野の机に行き画面を見て
「あぁ、こいつだ!間違えない」
「確かに成績優秀者だったみたいだな?ただ学園で2度問題を起こしている。
一度目がテストの採点ミスで首位を転落し、教師をかなりねちねち責めて教師を退職に追い込んでいる」
「え?一点かそこらの採点ミスで」?と伊集院は驚く。
「あぁ、当時、教師から話しを聞いた思い出がある。かなり陰湿で全ての人間性をダメだしされて、もうこれ以上教師やっていく自信がないと言って辞表出したな。
次はクラスの執行委員になった時、一部生徒が彼の言う事に反対してまとまらず、クラス会の場でお前らは俺の頭に敵わないのだから黙って言う事を素直に聞け!俺の活躍の場を邪魔するんじゃない。
頭の悪い人間が出来ることは限られて居るんだからと誹謗し、その反発でクラス全員から迫害されて、一時期当校拒否してるな。
父兄の強い要望でクラス替えなされてから当校している」
「素晴らしい人間性だな?どうやっても協調性は有りそうにない。今度も親連れて会社に来るのか?それとも俺にねちねち意見するのか?楽しみだ。しかし、
"A bad workman always blames his tools."
(下手な職人はいつも道具を責める。)の典型だな 」と雅治は言う。
「雅治、あまり遊ぶなよ?ああいう手合いは切れると何仕出かすかわからないぞ?」と誠は言う。
「で、どうするんだ?」と唯野は質問する。
「よくよく周りや廉から話しを聞くと、仕事と言う仕事は殆どやってなく、しかもあの場でやる気が無いのを自白しているから、定例会から帰って来ても辞表出さないなら解雇するよ」
「もう一人の柏木だっけ?奴は?」
「あぁ奴は齋藤の部所だからな。一応は齋藤の命令で現場とかには出ているみたいだからな。どうするかは、齋藤の判断だな」
「しかし、困ったもんだな。どう協調性を高めるカリキュラムを増やすか?あぁ、頭が痛い」
「ボランティア活動させたらどうだ?」
「それは個人の善意活動で協調性とは違う」
「野外活動やボーイスカウトのようなものを取り入れるか?」
「船で1ヶ月過ごして見させれば嫌でも協調性の重要性が分かるがな~」
「雅治からそんなウンチク聞く日が来るとはな……」と唯野は溜め息をつく。
「兄貴、そろそろ会合ですよ」
「あぁ、そうだな。行くとするか」
翌日、唯野の紹介でアルバイト2名が横浜事務所に配属され、雅治はその2人に仕事を教えた。あの事件以降佐藤は出社して来ず、出社要請にも応じず、解雇通告を封書で通告し、終了となったが、 その間に廉が発作起こし急遽入院したと聞き、 雅治は玲音の怒り矛先の恐怖に頭を悩ませることとなる。