Like father, like son.
1.applicant.
唯野は一枚の入学願書を見て溜め息をついた。
【入学願書】
[氏名] 櫻 玲音 12才
[保護者] 櫻 時宗、メアリー ウイルソン
……………………………………………
[特技] 英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語
[長所] 温厚
[短所] 頑固
[志望動機] 息子を世界に通用する人材、指導者としての育成希望。
(時宗の息子かぁ~。皮肉にも特技が語学か?息子には外国語教育は熱心だったんだな………。
温厚で頑固、時宗そっくりじゃないか?中等科からの編入かぁ~。基礎学力は大丈夫なのか?また時宗の親父の様に特別クラスにとか言うのか?)と悩んで居ると内線がかかる。
「校長、理事長より電話が入っております」
(やっぱり連絡してきたかぁ~)
「まわしてくれ」
「あっ【ゆうだい】兄貴?久しぶり」
「時宗……。【たかひろ】だといくら言えば覚える?いい年なんだから人の名前位きちんと覚えろ!」
「まぁまぁ、そんなに怒んないでくれよ。血圧上がるよ?もうそんなに若く無いんだからさぁ~。健康には気を付けないとね?
それより今度、俺の息子2人そこの学園に世話になるんでよろしくね」
「ん?2人?」
「そそ【櫻玲音】と【橘 廉】の2人。同い年だ」
「橘 廉?」
「事故で亡くなった秘書の息子を俺が面倒見る事にしたんだよ。家族で事故に遭って廉1人だけ生き延びたんだ。
廉は、初等科から通っているが、今回の事故で記憶障害を起こしていてね。
一般生活には問題ないが、交友関係等の人間関係の記憶が無いんだ。
時々発作で頭痛や目眩とかするみたいでその辺の配慮も頼みたくてさ」
「そうか、廉君の方はその様に配慮するが、玲音君の方は、まだ編入試験受けて無いだろ?」
「ん?まぁ大丈夫だろ?俺と違い語学は心配無いよ。小さい頃から世界中で過ごして居るからさ、俺より語学は堪能だよ?
ちょっと数学が苦手みたいだけどさぁ。まぁなんとかなると思うよ?」
「いくら学園創設者の息子とはいえ、俺は特別扱いなんかしないぞ?」
「分かってるって!でね?親子面接日なんだけどメアリーがさぁ、来週まで日本に居ないんだよ。来週以降に面接してくれないかな?」
「時宗、俺はさっきなんと言った?」
「ん?特別扱いしないぞ?」
「早速、特別扱いを申し出てるじゃないか?」
「いやいや、息子には特別扱いなんかしなくてもいいが。俺は、兄貴と俺の仲じゃない?何とか融通してよ?」
「はぁ~。時宗、お前は全く成長しないな?」
「いやいや、ちゃんと成長してるって!流石に身長はもう伸びないけどさ」
「…………。もし、編入試験落ちたらどうするんだ?」
「そりゃあ、受かるまで何度も……」
「アホか!何度も受けれるかよ! お前が入学テストは生涯5回。初等科、中等科、高等科、大学、大学院までと決めたんだろうが! 」
「大丈夫だって、玲音は俺と違い聡明だからさ」
「親バカだな」
「ハハハ。そう言われればそうだね。
とにかくお願いするよ。仕事がたて込んでて、もう話す時間が無いんだ」
「はい、はい。分かりましたよ。理事長殿」
「よろしくね」と言って時宗は電話を切る。
「ふっ」と溜め息をこぼしながら唯野は内線で職員室にかける。
「今年、中等科にあがる橘廉君の資料と担任教員に来て貰えるかな?」
数分後、校長室にノックがする。
「どうぞ」
「あの~。お呼びでしょうか?」
「あぁ豊中君、君が橘廉君の担任?」
豊中は唯野の机の前に来て廉に関する資料を渡しながらいう。
「はい、中等科からはまだクラス別け決まって無いので……。取り敢えず今までは私が担任していましたが………」
唯野は受け取った資料を見ながら質問をする。
「そう、どんな子?成績は悪くは無いけどずば抜けてよくも無いね?」
「そうですね。学年で30位前後ですね。明るい元気な子ですよ?これと言って……。
問題児ではありませんし、あっこないだ事故に遭って入院していました。ご両親は不幸にも亡くなってしまった様ですが橘君は奇蹟的に助かった様です。今入院しています。もうすぐ退院で新学期から登校予定と聞いてます」
「そうですか。今度の編入試験後のクラス編成審議会にこの橘君も加えておいてくれるかな?それとこの資料少しの間預からして貰うよ?」
「はい。わかりました」
「あと、今回の編入試験委員会の責任者は誰かな? 」
「えーっと、確か伊集院教授では無かったですか?」
「あぁそう、誠かぁ~。いや、伊集院教授は今日学園に居るかな?」
「はい。先程職員室に顔を出してましたよ」
「悪いけど、ここに来るように言ってくれるかな?」
「はい、わかりました。それでは失礼します」と豊中は校長室を後にする。
また数分後、校長室のドアにノックの音が響く。
「どうぞ」
すると、誠が入ってきた。
「お呼びですか?校長」
「あぁ、誠が今年の編入試験委員会の責任者?」
「あぁ、俺の番なのかな?どうして?」
「これ」といい一枚の入学願書を差し出す。
受け取り中身を見て苦笑する。
「とうとう、やって来るんですね?やっと時宗の奴、年貢を納める気になったかぁ~」
「とうとう?」
「えぇ、時宗の奴、玲音君には自分と違い小さい頃から世界に慣れさせると敢えてこの学園に入れないで海外に連れ回していましたから。玲音君にはいい迷惑ですが、時宗は言い出すと曲げませんからね。
おかげでかなり言語は、堪能ですよ?頭もいいし、かなり聡明な子供ですよ。
それはまぁ建前で、自分の傍に置いて置きたかったのが最大の理由ですけどね。」
「そう、まぁ聡明かどうかは、通常の入学の学力テストで分かるから問題では無いけど…。
あっ、時宗の息子だからと言って学力審査は優遇するなよ?」
「実力で受かると思いますよ?」
「それより、そのご両親の面接日を来週以降にしてくれとさ」
「校長こそ、優遇してるじゃないですか?」
「時宗曰く、息子には優遇しなくてもいいが自分には優遇しろとさ」
「流石時宗。相変わらず自分には甘いな」
「理事長を優遇するしないは誠次第だな?」
「校長、俺に擦り付けるのですか?」
「いや、俺は、ちゃんと面接には出席するさ、何時も通り審査するぞ?しかし、面接日の決定は俺の管轄外だからな。誠が面接の順番決めるんだろ?
一応、理事長から連絡があったから伝えただけだよ」
「兄貴、汚ねぇ~」
「後、橘廉君を知ってるか?」
「ん?あぁ。時宗がこないだ一族の猛反対を押しきって養子にしようとした子ですよ?
結局、色々揉めましたが本人の意思で時宗は後見人として面倒見る事になったみたいですけどね」
「誠、廉君と面識は有るのか?」
「俺は、亡くなった橘准一とは友人でしたが、息子の方は……。時宗の家に玲音の遊び相手として何度か出入りしているのは知っていましたから、見かけた事は、有ると思うけど准一から正式に紹介されてないんで印象に無いですね。葬儀の時も入院していたし。准一も時宗と同様、家族で一緒に海外あちこちしていましたからね。ここ最近は、なかなかプライベートで会う暇も有りませんでしたから」
「父親の名前が橘准一?」
「兄貴、准一と面識有るの?」
「いや、多分人違いかな?。そう、わかったよ。今年も編入希望者多いな………。学力テストは何時なんだ?」
「明日ですよ」
「そうか、玲音君のテストの合否に関わらずテストの答案見せて貰えるか?」
「融通なさるのですか?」
「いや、そんな不正はいくら自分の息子だからと言っても、時宗は望まないだろ?
時宗の矜持が許さないだろ?あいつはそう言うところは厳しいからな。
ただもし、遺憾ながら入学を御断りする様な事があった時には、理事長にはどのくらいの学力と判断したかの説明くらいはしておかないとな。時宗はあれでも、この学園の創設者で理事長様なんだからな。そのくらいの特別扱いはしないとな?なんなら誠がしてくれてもいいぞ?」
「遠慮しておきますよ。でも、面接なんかしなくてもいいんでないですか?時間の無駄でしょ?面接で創設者で理事長の息子を落としたら学園の運営意義ないでしょ?」
「まぁ時宗は、そう言うところはきちんとやりたがるからな。遊んでやれよ。親友だろうが」
「そうですね。時宗をいじめるにはいい機会だ。失礼しますよ」
「ああ、よろしくな!」
2.The result of the exam.
入学、編入試験より3日後、
誠が校長室をノックする。
「どうぞ」
「失礼します。入学、編入試験の結果と学力試験合格者の面接日リストお持ちしました。合格者には既に面接日の通知郵送しています。あと、御所望の櫻玲音君の解答用紙です」
「ありがとう。で結果どうだったの?」
「そうですね。残念ながら……」
「学力足りなかった?」
「いえ、残念ながら、時宗の思惑通り合格してます。数学はぎりぎりですが」
「紛らわしい言い方するなよ」
唯野は玲音の答案を見る。
「なるほどね。数学は本当にぎりぎりだね。時宗は数学は悪くは無かったのにな?」
「多分時宗と奥様は勉強見てやる時間が無かったからだと思いますよ?」
「流石親友の頼みは断われ無かったか?
最終日に面接とは」と唯野は笑う。
「大事なスポンサーのご機嫌を悪くする訳にはいきませんからね。その代わり……」
「ん?何か企んでいるのか?」
「いえ、提案なんですが、玲音君の英語力図る為に、面接は英語で行いましょう。奥様はイギリスの方なので問題ないはずです」
「誠は雅治より手厳しいな?」
「貴重な時間を時宗の遊びに付き合うのですからこのくらい遊んでやらないと」
「しかし、本当に玲音君は大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。俺より英語は堪能ですから」
「へぇ~。それは楽しめそうだな」
通常の面接は校長の唯野、教頭、学年主任と副主任、入学・編入試験執行役員主任の伊集院5名だが
最終日の最後の1人は校長、編入試験執行役員主任、客員教授の加藤の3名で行われる事となった。
「雅治。お前、暇なのか?」と唯野が呆れながら聞く。
「誠が時宗と遊んでやると言うのを聞いたから親友の俺も付き合ってやるのが友達と言うもんだろ?俺だってこの学園の客員教授なんだからさ関係者じゃないか?」
「雅治お前……。ゼミ1年に数回しかしないじゃないか?」
「仕方無いだろ?時宗に容赦無くこき使われて居るんだから、これ以上時間取れるかよ!」
「こき使われて時間が無いのに、ここには来れるんだな?」
「まぁまぁ。細かい事は気にしない方がいいぜ兄貴。さっさと段取り教えてくれよ?」
3.Like father, like son.
「次の方どうぞ」と事務員が最後の受験者家族を通す。
部屋に入って時宗は苦笑をする。
(これはこれはお揃いで遊んでいるな?
この2人は特に……。)
唯野は英語で『御子息の特技の英語の能力を推し測る為に面接は英語で行わせて頂きますがよろしいですか?』と言うと。
玲音が真っ先に" It's a piece of cake."(御安い御用さ)とニコニコしながら言う。
時宗は冷汗をかきながら愛想笑いしながら「どうぞ」と言う。
以降英語のやり取りとなる。
時宗、玲音、メアリーと3名が並ぶと時宗とメアリーの良いところ取りをしたように玲音はよく似ている。
好奇心に溢れている瞳は若い頃の時宗そっくりだ。
「玲音君。これからは日本のこの学園の寮に入る事になってお父さんやお母さんと離れて暮らす事になるけど大丈夫?」と誠が質問すると。
玲音は「ママと離れるのは少し寂しいけど廉が居るから大丈夫だよ?」と答える。
「玲音、将来の夢は?」と雅治が聞く。
「そうだね、今決めないとダメなの?自分の可能性は色々と試して見ないと分かんないよね?」と玲音は答える。
「お父さんの若い頃そっくりだね」と唯野が笑う。
「おじさん達は、みんな親父の知り合い?」
「こら玲音、ここは、こちらから質問する場所じゃ無いんだよ?」と時宗が慌てて注意する。
「なんで?言葉はキャチボールでしょ?
返さないと会話にならないよ?」
「だからね、質問された事を返せばいいんだ」
「つまんないじゃん。会話に広がり無くてさ」
「ここでは、広げなくていいんだよ?」と時宗は苦笑する。
「自分の思う様に話していいよ?」と唯野が言う。
「すいません。興味を示すと夢中になるので」とメアリーが言う。
「お隣の方も同じですよね」と唯野が言う。
「そうなんです。双子の様にそっくりです」とメアリーは苦笑する。
「お父様に質問します。将来玲音君をハーバードやオックスフォードに入れたいのですか?」と唯野が聞く。
「本人が行きたいと言うなら行けばいいし、この学園なら行かなくても十分世界で活躍出来ると思います。そういう教育をしてくれると思ってます」
「玲音君、数学は嫌いかい?」
「ん?嫌いじゃないけど得意じゃ無いよ?」
「おじさんは数学が大好きなんだが、玲音君にもその面白さ分かって貰えると嬉しいな?」
「おじさんが教えてくれるの?」
「ん?」
「数学の面白さを?」と目を輝かせて玲音は聞く。
「そうだね。でも学問の面白さは自分で見つけないと本当の面白さは判んないよ?」
「そうかぁ。なら廉と一緒に探して見るよ」と笑う。
「廉君とは仲良しなんだね」
「うん、僕の大切な弟だからね」
「じゃあお互い頑張って勉強して退学にならないようにしないとね」
「うん、頑張るよ?」
「では玲音君とお母さんは退出を願います。しかし、お父様ともっと詳しく御話ししたいのでそのままお残り下さい」
「はい、わかりました。よろしくお願いします」とメアリーは会釈する。
「おじさん達またね」と玲音は面接官に手を振って言う。
「さてお父様、どのようなご教育をお望みで?」
「もう~兄貴。いじめないでくれよ!
なんでその2人が居るんだ?」
「失敬だな時宗。俺は入学・編入試験執行役員主任だぞ全員の面接に出てる」と誠が言う。
「俺だって、この学園の客員教授だ」と雅治も言う。
「雅治お前、定例会議資料まだ提出してないのになんで、ここに居るんだよ?そんな暇有るなら早く出せよ!俺に苦情が来るだろうが、どこに部下の代わりに苦情処理や謝まる上司が居るんだよ?」
「そこ」と雅治は時宗を指差す。
唯野は3名のやり取りをいつものように受け流して時宗に質問をする。
「英語の能力は時宗より上かも知れないな。小学校はどんな教育していたんだ?」
「大体半年から1年未満で転校する羽目になっていたからな、家庭教師をつけていたよ。一応この学園の教育カリキュラムに則って勉強を進めて居たが、数学の教師だけ玲音が嫌って伸び悩んでいたんだ。
余り人見知りはしないんだがなぁ~。どうしてかな?」
「まあ、数学も普通の小学校では十分通用する学力だから心配はないと思うが………」
「ん?『が?』」と時宗は驚く。
「性格がお前そっくりだ。世界遺産巡りするとか言い出しそうだ」
「あれは、きっとそれ以上の事を言うな」と横の2人が言う。
「お前らだって言ってたじゃないか!
兄貴大丈夫だよ。散々世界中連れ回しているからさ。反対に行きたがらないんじゃ無いかな?」
「廉君は新学期から来るのか?まだ入院していると聞いたが?」
「もうすぐ退院予定だ。発作さえ頻発し無ければ玲音と一緒にと思っている」
「何かあったから困るから居場所ちゃんと細かく連絡入れろよ?適当は許さないからな?」
「あぁ、秘書の藤堂君から入れるように言って置くよ」
「藤堂?」
「あぁ、ここの卒業生だよ!兄貴が初めて幹部候補に推薦した秘書だよ」
「あ~。齋藤君と居た藤堂君ね。彼なら大丈夫だな」
「それで兄貴、玲音は?」
「ん?学力に問題ないし、父親は少し問題有りすぎるが反面教師というしな。
それに、理事長をこの学園の教育方針にそぐわないとか言えないしな。入学を断わる理由は無いな。
あの好奇心を伸ばしてやれば将来有望な学者でもなんでもなれるじゃないか?ただ相当頑固そうだけどな」と唯野が言う。
「親が将来を潰さなければな」と隣の2人も声揃えて言う。