Each generation
1.Each generation
櫻 時宗16歳。
ウェーブのかかった黒髪、長い睫毛に誰もを魅了させる瞳の甘いマスクに均整の取れた体型で人当たりもよく、頭の回転も早い。
温厚な性格で怒っている所は誰も見た事がないと言われる程である。
しかし拘りは強く、かなりの頑固者であり、自分が納得しないと絶対に動かない。
スポーツマンとは言えず、 決して運動神経が悪い訳ではないのだが、自分でスポーツをして楽しむより、観てる方がいいと言い張る呑気者で楽天家だ。
父親は櫻 功、櫻グループ統轄長を、母親は、櫻 遥香 某銀行の頭取の娘でお嬢様だったらしく少し世間離れした人だ。
今日も教室の一番後ろの席で授業も上の空で校庭で行われて居る他クラスの体育の授業をボーッと眺めている。
その隣の席に、がたいのいい男が授業中にもかかわらず堂々と居眠りをしている。
その男の名は加藤雅治。
男気があり、背が高く運動神経は抜群でどんなスポーツでもこなすが水泳が彼のお気に入りで最も得意とする種目である。
スポーツだけでなく頭もいいのだが、ガサツで少々短気気味なうえ、物事をストレートに口にする。
しかし、女性には、すこぶる優しい男である。
両親とも弁護士であるが本人は弁護士と言う職業をあまり良く思って居ない。
【弁護士は弱い者を助ける訳ではない。お金を払ってくれる人間を善悪関係なく、法律と言う道具を使い人を言いくるめる職業で正義の味方とは程遠い】と言うのが彼の弁護士に対する見解である。
その加藤の席の隣に明らかに授業とは別の本に夢中になっている男がいる。
運動神経も加藤と甲乙付けれない程、優秀で背丈は加藤や櫻に比べると小柄な男だが3人の中では一番頭がいい。
しかし、この3人は全校生徒の中で彼らを上回る成績の者は居ないのでこの伊集院誠が全校生徒の中で一番頭が良いことになる。両親は櫻グループ内に勤めているサラリーマンの家庭である。
この3人は幼馴染みであり、親友である。
授業をやっている数学の教師が溜め息をつきながら言う。
「加藤!櫻!伊集院!お前ら、ちゃんとまじめに授業を受けろ!この黒板の問題を前に出て各々解け!」
「え~っ心外だなぁ~。誠や雅治と違い俺はちゃんと真面目に授業は聞いてますよ?」
時宗は教師に向かって文句を言う。
「嘘を付くんじゃない。お前はさっきからずっと窓の外側ばかり見て黒板なんかを見て無いじゃないか!つべこべ言わずにこの問題をさっさと解け!」と数学教師はいう。
時宗は溜め息をつきながら前に出て問題を解きはじめる。
「加藤!伊集院!お前らもさっさと前に出て解け!」
誠は隣で寝ている雅治を教科書で叩き起こす。
「誠!痛いじゃないか!!」と顔あげると、数学教師が目の前に立ち睨んでいた。
「これはこれは加藤君。俺の授業はそんなに眠気が来るほど退屈かね?それなら君に少しでも眠気がはれる様に、この問題にしよう」と有名大学の入試問題に問題を入れ換える。
「加藤、みんなに模範解答を教えてやってくれよ?」
雅治は苦笑いしながら黒板の前に立つと横にいる時宗と誠が解いた問題を見ながら
「先生!時宗と誠がこんな簡単な問題では物足りないと言ってます」
「おい!雅治!誰もそんな事言ってないだろ?要らない事を言うなよ!」と時宗は言う。
「他人の事より、自分の事だけをやれよ!」と誠も言う。
「そうだな、お前ら2人にも、とって置きの入試問題をプレゼントしよう。さぁみんなに模範解答を教えてやってくれ」と黒板に新しい問題が付け足される。
時宗は雅治を睨み付けながら「俺を巻き込むなよ」と文句を言いながらまた、問題を解きはじめる。
誠は、「雅治、覚えてろよ!」とやはり文句を言いながら解きはじめる。
「櫻、模範解答と言ったろ?途中を省略するんじゃない」とダメ出しされるが3人とも有名難関大学の入試問題を意図もあっさり解いてしまう。
この3人は他の生徒から【A dandy trio】と呼ばれ良くも、悪くも学校内で彼らを知らない者は居ない程有名人であった。
この数学教師の名前は唯野 雄大24歳と若い教師だが 【A dandy trio】と呼ばれる3人に面と向かって注意する教師は彼だけである。しかし、あの3人に【兄貴】と呼ばれ好かれている唯一の教師でもある。
「ゆうだい兄貴!ひどいよ?あの2人とは違って、そんなに、怠惰な態度では無いじゃないかぁ?一緒にするなよ!」
時宗が数学準備室にやって来る。
「時宗!校内では先生だ!兄貴と呼ぶな!それに俺の名前は【たかひろ】だ【ゆうだい】じゃないと何度言ったらいいんだ?」
「う~ん、俺の中では【ゆうだい】って方がピンとくるんだよね~。【たかひろ】ってレアな読み方じゃない?」
「名前に【レア】も【ポピュラー】も関係ないだろ?」
「ほら、うだうだ言ってないで次の授業始まるぞ、さっさと教室に戻れ。後、あの2人に形だけでもちゃんと授業を聞くふりだけでもするように言えよ。教師のモチベーション下げるなとな」
「う~ん、俺が言っても素直に聞く奴等じゃ無いけどなぁ。まぁ、放課後また来るよ」
「来なくていい。ここはお前らの憩いの部屋では無いぞ。どうして、この部屋に俺の私物よりお前らの私物の方が多いだ?」
「良いじゃん。ゆうだい兄貴!放課後も、ここ開けて置いてよ~」と時宗は出ていく。
(まったく、奴等は俺を教師だと言う尊敬の念なんぞ持ってはないな……。まぁ、頭が切れ過ぎる奴等だから、基本さえ押さえれば、入試問題の様な複雑な応用問題も難なく解く所が手に終えないよな。)と先程出した某大学の入試問題を見ながら思う。
(授業の仕方がむずかし過ぎる。彼ら3人を基準に授業をすると、他の者は絶対に着いて来れない。しかし、基本重視の授業では、彼らは、教室に居るだけになる。この学校も進学校なので学力別のクラス編成にはなっているが、彼らは群を抜けている。彼らに合わせた学習指導してやれば日本を代表する、いや世界を代表する学者でもなり得るだろう。しかし、本人達はそう言う事には興味は無いようだが……)
2.Experience without learning is better than learning without experience.
教室に時宗が帰って見ると雅治と誠が地図を広げて見ている。
「今年の夏休みは、ここにするか?」
「しかし、今回は金かかるぞ。何も見つからないと大赤字だ。それに船や機材何処から調達する?」
「そりゃあ~」と雅治が教室に戻って来た時宗をみる。
「ん?お前ら、ゆうだい兄貴が教師のモチベーション下げるなと怒って居たぞ?」
「時宗!今年の夏休みは、沈没船捜しだ。船や機材調達よろしくな」と雅治は、時宗の言葉を受け流し言う。
「沈没船捜しって……。金かかるぞ?また親父から道楽者って怒られるじゃないか!去年の徳川の埋蔵金捜しも、なんやかんや金かけて結局、温泉の源泉しか掘りあてられず。めちゃくちゃ怒られたんだからな?沈没船なんかもっと金かかるだろ?親父がいいと言う訳ないじゃないか!怒られる俺の身にもなれよ!」
「この辺り昔、スペイン船が沈没している記録はあるが、まだ沈没船自体は見つかってないから、見つければ去年の赤字も挽回できるぞ?」と誠が説明する。
「いや、見つければだろ?見つからない確率の方が高いじゃないか?それに見つけたとして所有権云々で揉めるんじゃないか?スペイン船と分かって居るからな。それに太平洋のど真中だと、大人も連れて行かないと、それそこそ親父許可しないぞ?」と時宗は反論する。
「大人はなぁ、兄貴に頼めばいいだろ?」と誠が言う。
「アホか!俺達は休みだけど兄貴は休みじゃないだろ?また怒られるぞ?」
「発掘を部活動にして兄貴を顧問にすれば行けるだろ?名目を部活の合宿とすれば」
「雅治、お前はそう言うことはよく頭回るよな?しかし、3人では同好会だよ!」
「なら、また今年も去年と同じ徳川の埋蔵金捜しにするか?俺は山より海の方がいいなぁ~」と残念そうに雅治は言う。
「いやぁ、徳川の埋蔵金自体都市伝説の確率が高いじゃないか?親父がそんな事に毎度金出すかよ?下手すると俺は夏休み外出禁止で箱根の別荘に閉じ込められるじゃないか!勘弁しろよ」
「なら今年の夏休み何するんだよ?」
「何って、俺は今年は海外に1人旅に行きたいな」
「1人旅って、俺達に付いて来るなというのか?」
「いや、お前達と一緒は金を使い過ぎて俺が怒られるだろ!高校生の道楽を越えているからな?」
「トレジャーハンターは投資が必要なんだよ!」と誠は平然と言う。
「男のロマンをお金で買えるなら安いもんだろ?」と雅治も当たり前の様に言う。
「雅治、お前の両親にその言葉を言って出して貰えよ?」
「あのお金次第で悪人の弁護でもするような金の亡者にロマンとか理解するのは無理に決まっている。それにあの人達の口からは屁理屈しか出て来ないからな」
「いや、お前の口からも屁理屈しか出て来てないから……。今回は沈没船探しも、埋蔵金探しもダメだからな!」
放課後教室
「雅治!バスケの対抗戦の助っ人してくれ!面子足りないんだ。頼むよ」
バスケ部の部長がやって来て雅治に両手を合わして拝み頼んでいる。
「え?俺?俺より誠に頼めよ!」
「誠でもいいんだが、バスケはがたいがいい方がいいからな」
「誠は、このサッカー部の助っ人に入るからダメだ!」とサッカー部の部長が話に割り込む。
「え?何で俺?承諾した覚え無いぞ!」
「そう言わずに誠、サッカー部に入ってくれよ?お前が居れば全国制覇できる」
「嫌だね。練習に費やす時間あれば古書を読んでいる方がいい」
「雅治!お前もバスケ部に……」
「まっぴら御免だ!バスケするなら水泳部に行くね」
「そう言わずに……。時宗からも何とか言ってくれよ?」
「無理だよ?その2人に強いて入部させたいなら【男のロマン】か【考古学】を餌にしないと無理だよ」
「なら時宗お前が……」
両部長がいい終わる前に時宗は
「俺は無理、無理。スポーツ興味ないからね。そんなことするくらいなら昼寝しておく方がいい」といつの間にか自分の荷物を持ち、そう言い捨てて教室から出ていく。
「時宗の、あの逃げ足の早さは天下一だな?」とバスケ部の部長が感心する。
「ところで……」と両部長が見渡すと雅治も誠も教室から姿を消し逃げ去った後だった。
「あ~。また、やられた……」
数学準備室
職員室で教師たちの夕礼会が終わって唯野が数学準備室に帰って見るとあの 【A dandy trio】がくつろいでいた。
「お前ら、勝手に珈琲飲むんじゃない。それは俺の薄給でなけなしのポケットマネーで買った豆だぞ!」
「でも、この珈琲メーカーは時宗が通販で買って、ここに置いたやつだろ?」と誠が反論する。
「これ、珈琲ショップのいいやつだから豆より高いよな?」と雅治も付け加える。
「お前ら………。勝手に俺の許可無く人の職場に送り付けて置いて何を言うか!」
「まあまあ、珈琲豆もそのうち買って贈るからさぁ、兄貴も飲む?」と時宗は珈琲豆をセットする。
「お前ら暇なら部活でもしろよ?放課後、ここの部屋に入り浸るな!」と唯野は時宗から珈琲を受け取りながら言う。
「兄貴!俺達で倶楽部作ろうと思っているんだけどさぁ~。顧問してよ?」と時宗はにこにこしながら言う。
「ん?何の倶楽部だ?」
「暇潰倶楽部」
「……………。お前ら頭いいのか?悪いのか?わからんな。活動内容は?」
『世界の謎解き!』3人が口を揃えて言う。
「謎解き?」と唯野は聞き返す。
「それか、遺跡や埋蔵金のお宝捜し?」と誠は言う。
「いや、男のロマン捜しだろ?」と雅治は言う。
「いや、いや、世界遺産巡りがいいよ!」と時宗は言う。
「世界遺産と謎解きどう関係がある?」
「例えばナスカの地上絵とか?」
「あれは作り方の謎は解けてるだろ?規模がでかいだけで」
「例えばだよ?」
唯野は自分の椅子に座り珈琲飲みながら
「トレジャーハンターとか世界遺産巡りとか高校生の部活の域を越えて居るだろ?そんな部費は、出やしないぞ?
しかも同好会にしかならないだろ?3人では」と唯野は呆れながら言う。
「顧問さえ居てくれればいいんだよ!スポンサーは居るからさ」と雅治は時宗を指差しながら言う。
「櫻氏がそんな金を出すのか?」と唯野は驚く。
「その辺は交渉次第さ」と誠が言う。
「あっ櫻氏で思い出した!時宗お前、櫻氏からお前をオックスフォード大学に行かせたいと校長に相談あったみたいだぞ?
オックスフォードに行くならもう少し英語の勉強しておいた方が良くないか?」
「ん?俺、そんな話は聞いて無いけど…?」
「時宗、そう言えば進路希望を出して無いよな?」
「出しては居るよ?【自分の可能性を見極めて実力を発揮できる所】って」
「それは何処なんだよ?」
「さぁ?何処かな?それ分かると人生終わってしまいそうだよね」と時宗は楽しそうに笑う。
「時宗、オックスフォード行くのかぁ……。俺も行くかなぁ。親父達は金、出すかなぁ……」と雅治は冗談半分に言う。
「イギリスかぁ~。大英博物館は宝の宝庫だよなぁオックスフォードよりケンブリッジの考古学に行きたいなぁ。奨学金出るかな?」と誠も雅治の冗談にのる。
「雅治。お前は、何になりたいんだ?」
「海洋学者?まぁ海に係わることなら何でもいいけどなぁ~」と答える。
「誠は考古学者だよな?」
「うん。それ以外は無いな」
「時宗、お前だけだぞ?決めてないのは」
「そうだなぁ~。まぁ人生は長いし急いで決めなくてもね」と呑気な返答をする。
「時宗お前、本当に脳天気だな?」