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すべてが終わった日


 雪が激しく吹きすさぶ。荒れ狂う風の唸り、叩きつける雪。それらが奏でる轟音のオーケストラは、クライマックスの状態を保ちながらもう半日以上も続いている。人々の悲鳴さえかき消し、なにもかもを終わらせるような、絶望と破壊の調べ。


 このレイオール大陸の北の土地、険しい山脈の連なるフィルドの地で、何百年とみられなかった記録的な豪雪の嵐が巻き起こった。


 中でも、フィルドの険しい山の麓にあるテナの村は、真白い地獄と形容するに相応しかった。テナの村の人々は、自然の猛威になす術もなく、雪と風のうねりの中にのみ込まれていく。


 嵐が過ぎ去ったのは夜も近い夕刻だった。弱まる雪と風であるが、予断は許されない。フィルドの領主は領地の各地に支援活動を行うための私軍を派遣した。王都からも、嵐が過ぎた後で迅速に支援活動ができるように、フィルドから近く嵐の被害が及ばない地域に支援軍が駐屯していた。


 先ほどまでの、灰と白銀だけの世界が嘘であったかのように、随分と薄くなった空の雲の隙間から、あるいは雲を通して、世界は紫と紅蓮に彩られていた。


 フィルドの領主の判断は非常に合理的であった。王都兵の指揮権も領主にあり、彼らは一致団結して、被害地域の支援と被害民の救助に当たった。フィルドの領主の英断により、救われた命は多く、彼は後に賞賛されることになる。


 しかし、合理的がゆえに、致し方ないこともあった。領主である彼は、救える命が多い地域を優先した。被害があまりにも酷すぎたテナの村に支援軍が入ったのは、それから5日後だったという。村人は全滅したかのように思われていた。



「どうして……。お父様、お母様、みんな……。」



 嵐が過ぎ去ったの日の深夜、雪の中から立ち上がった色素の薄い娘は、息も絶え絶えに言葉を零した。透けるような白い身体に、透けるような淡いライトブルーの髪と金色の瞳。金色の瞳は揺らぎ、涙が零れ落ちた。しかしそれは、冷気によって霜となり、風に攫われ消えていく。彼女には、彼女の命以外の何もかもが残されなかった。


 しかし、それほど寒い空間に身を置いている関わらず、彼女は凍える様子がない。それが生命を繋いだとも言えるだろう。四肢にかじかみや麻痺はみられない。



「どうしよう、どうしよう……。どうしてだれもっ……いないのっ…………!!」



 年の頃は16、徐々に大人びてくる歳であるとはいえ、おそらく誰もが受け止めきることは不可能だろうこの境遇に、まだ大人の階段を上り始めて間もない彼女が涙するのは致し方ないことといえる。


 朝が来るまで彼女は泣き続けた。朝がきて、本当にどうにもならず、これが悪夢でなく現実であることを知った彼女は、弱々しく立ち上がって歩き出した。


 行く宛などないが、しかしここにいてもどうにもならないという一心で、彼女は家族や友達を冷たい雪の中から見つけ出して弔うことすらできずに、心に深い傷を負ったまま歩き続けた。だが、精神の疲労は既に限界値に達しており、1日ほど水だけで歩いたところで体力も底を尽き、彼女はその場に倒れ伏して動けなくなった。辺り一面白い世界の中で、彼女の世界は暗転した。


 テナの村のたった1人の生き残りとなってしまった娘の名を、ルル=アレクスファーという。





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