第8話 迷いの森サルトゥス・ネブラ
1
ガレンの街を経ってから五日ほど。一行はラスティート南東部に広がる森林地帯へと到達していた。
ラスティート南東部は小国家群と国境を分けており、そこには広大な大森林が広がっている。その森は未開の地であり、最深部にドルイドの部族イェソドの里があるのだという。ただ、そういった情報があるから簡単に辿り着けるわけではない。
(やはり、この先は書かれていないか)
レオンハルトは地図に視線を向けたまま、呟いた。地図に記されていたのは、大まかな道のりだけであった。そこから先は、自身の方向感覚に頼るしかないのだ。
如何に街道が整備されつつあるとはいえ、わざわざ森林地帯を横切るような道を造ることはまず有り得ない。また、たとえ道があったとしてもそれは獣道で、軍隊が奇襲用に使ったり、あるいは冒険者が魔物を狩るべく踏み入るくらいで、通常は使われることは無い。日常的に使うのは、魔物や獣人、そして――
「こっち。躓きやすいから、足元注意」
鬱蒼と茂る森林の中を、一行は行軍していく。先頭はシアで、その間をリーゼロッテとフレーナ、そしてレオンハルトが殿を務めている。白兵戦に長ける二人が前後を陣取ることで、後方からの奇襲にも対応できるようにするためだ。尤も、奇襲の心配が無いように、レオンハルトは純粋系統の情報魔術《クリアボヤンス》を駆使し、行軍しつつ辺りの警戒を怠っていない。
(一体ほど、強力な生命反応を持っている奴がいる。これは何者なのだろうか)
だが、魔術の詠唱ばかりに気を取られているわけにはいかない。森の中は、たとえ昼だとしても薄暗く、自然の障害も多い。地面からは根が突き出ており、鋭利な枝が頭の高さ辺りに生えているため、そういったものにも気を付けなければ怪我をしてしまう。
レオンハルトはそういった障害にも気を取られることなく、前を進んでいく少女達についていった。彼がこういった場所でも難なく行軍できるのは、それなりに場数を踏んできたためだ。
無論、道なりが順調なワケではない。途中で何度も獣人の徒党との戦闘はあり、この辺りの森を縄張りとしている野生生物達の襲撃もあった。しかし、多くの戦闘技術を身に付けたレオンハルト達にとって、それを蹴散らすのは容易いことであった。白兵戦に於いては、敏捷性に優れるシアが道を切り開き、魔術に優れるリーゼロッテは後方から強力な破壊力を秘めた術を次々と放つ。出会ってから間もないものの、一行の間での連携力は非常に強固なものとなっていた。
ただ、気掛かりなのがフレーナという女性だ。戦闘力に於いて、彼女の実力は一行の中でも頭一つ抜きんでている。大鎌という特殊な武器を己の手足の如く使いこなし、魔術に於いてもリーゼロッテにひけを取らない力を見せている。
(いや、今は詮索をする時じゃない)
今は、成すべきことをやるまでだ。下手に詮索をすることで任務に支障を来していては、本末転倒である。
暫くすると、辺りをうっすらと白い霧が包みこみ始めた。
「皆、行軍速度を緩めよう。下手に動くと危ない」
森林地帯のような場所での悪天候は、大きな障害となり得る。霧の場合はただでさえ悪い視界が、より狭まる。死角が増えるために、思わぬところからの襲撃を受ける可能性も高い。魔術による支援があるとはいえ、それに頼り切るのは余りにも危険である。レオンハルトの言葉に一行は無言で頷き、各々の武器を構えつつ周囲を警戒した。
行軍速度を緩めてからも、霧は濃くなっていく一方だった。気がついた頃には、十メートル先を見るのも難しいほどにまでの濃霧が、辺りを包みこんでいた。
「ちょっとヤバいんじゃないかな、これ。前が見えないよ?」
リーゼロッテは辺りを見渡しながら、両手持ちのスタッフを構え直した。視界が狭まった分、聴覚に意識を集中しているためなのか、エルフの特徴である長耳がピクピクと動いている。
レオンハルトもまた、魔術の精度を高めるべく意識を集中した。それにより負担が増えたために、彼は軽い頭痛を覚えたが、怯まずに詠唱を続けた。
「飛び道具や攻性魔術の射程外にも索敵範囲を伸ばしているが、敵の姿は見られないな。ただ、索敵範囲内に一つだけ強力な力を持つ者がいるが、敵対している様子はない。ただ、あまりこの魔術に頼り過ぎるのも危ない。一度、行軍を止めよう」
「この霧、魔術的な力を持っていますね」
それまで無言であったフレーナが、ぼそりと呟く。ただ、得物である大鎌を構えていないあたり、余裕があるのだろう。戦闘時に具現化させるのだが、今の彼女は丸腰である。尤も、武器が無いところで彼女には魔術もあるため、然したる問題ではないのだが。
「おかしい。いつも、こんなに濃くならない」
「どういうことだ、シア」
「ん。この辺りの森は、強い魔力を持っている――」
彼女が言うには、この辺りの森――サルトゥス・ネブラと呼ばれている――は、時折魔力を帯びた霧が発生するのだという。このような場所はセフィールに於いては珍しくなく、未だ人の手の行き届いていないような場所では、人智を超えたような現象が起きている場所は多く存在している。
精霊力のバランスによるものもあれば、単に地形の特徴から発生しているものなど、その要因は様々だ。多くの学者により調査はされているが、その全てのメカニズムを掴めていないのが現状である。
「わたし達も、よく解らない。多分、ドルイドの里が近いことが、関係してる」
どうやら、目的地は近いらしい。しかし、一向に霧が晴れる気配は無く、それどころか目に見えるスピードで濃くなり始めた。
「まずい。これでは方向感覚が……」
やがて、霧は視界を完全に覆い尽くした。目の前に広がるのは、白一色の世界だ。近くにいる筈であろう仲間の姿を確認することすら出来ない。
「皆、俺の傍から離れるな!」
思わず大声が出てしまったが、状況が状況のため仕方が無い。視覚を封じられている以上は、他の感覚に頼るしかないのだ。だが、返事が無い。魔術による反応では近くにいる筈なのだが、誰ひとり返事をしてこない。
(どうする? このままでは危険だ)
両手に携えたブロードソードを構えつつ、辺りを見渡す。だが、状況は一向に好転しない。
どうする――?
「ようこそ。此処はサルトゥス・ネブラ。通称、迷いの森」
突然、霧の中から聞いたことのない男の声が聞こえてきた。水のせせらぎのように澄んだ声だ。しかし、視界を奪われているためにその声の主の姿を捉えることは出来ない。
「部外者を入れるわけにはいかないからね。少しの間、攪乱させてもらっているよ」
「何者だ?」
どうやら、この声の主が先程から強い反応を放っている者らしい。僅かではあるが、敵意が見え隠れしているのが確認できた。
「普通は自分から名乗るのが礼儀だと思うけどね。まあいい。見えないままじゃあ不便だ、すぐに術を解くよ」
バチン、と何かが弾ける音が響く。それと同時に視界を覆っていた霧が、一斉に晴れて行った。
だが、いない。先程まで共に進んでいた、リーゼロッテ、フレーナ、シアの姿は何処にもない。
(霧が濃くなっている間に逸れたか……あるいは)
レオンハルトは警戒を解かずに、前方を見据えた。そこには、一人の青年が立っていた。
長身痩躯の青年だ。菖蒲の花を思わせるかのような紫色の髪。やや不健康そうに見える白い肌。額には、そこに何かがあるのを隠しているかのようにヘアバンドが巻かれている。その顔立ちは、何処となくシアと似ていた。しかし、身体つきは男性のものだ。
そして、手に持っているのはライアーだ。青年の出で立ちもあってか、吟遊詩人のように思える。
「僕は、リューイ・ジブリエリア・イェソド。妹――シアが世話になっているみたいだね」
ライアーの弦を鳴らしながら、青年は自分の名を名乗った。彼の自己紹介を聞く限り、どうやらシアの兄のようだ。
「俺はレオンハルト・クリューガー。ワケあって、イェソドの里を目指している。貴方の名を聞く限り、貴方もドルイドのようだが、里まで案内願えないだろうか? 先程の霧で、仲間と逸れてしまったのも気になる」
「案内……ね。どうやら、シアの奴は余計なのを連れてきてしまったようだ」
元々、何処となく不遜さを感じさせる態度であるが、どうやら歓迎されていないらしい。リューイのアイスブルーの瞳は、レオンハルトを冷たく見据えている。
「厚かましいのは承知している。しかし、こちらも任務で来ている。理解願いたいのだけど……」
「ああ、そんなに謙遜する必要はないよ。何故なら――此処で眠って貰うことになるからね」
ライアーから妖しげな旋律が流れ始める。それと同時に、レオンハルトは自分の身体に異変が生じたことに気付く。文字通りの強い重みが、彼の全身にずしりと圧し掛かってきたのだ。
「シアを誑かす悪い虫は、此処で葬るしかない!」
リューイは声を荒げると、その場から跳躍し、レオンハルトとの距離を取った。レオンハルトはそれを追おうとするが、旋律による重圧により、普段通りのスピードを出せずにいた。
「呪歌か……」
呪歌。それは、魔術と似て非なる、吟遊詩人の間に伝わる技術である。元々はドルイドの技能であるが、現在は使う者は少ないものの、ある程度ではあるが世間に浸透している。楽器や歌などの音色を介することで、魔術に近しい効果を発揮させることが可能であるが、それの習得は魔術以上に難しいとされている。魔術は師が多くの弟子を取ったり、ギルドや軍隊が存在するのに対し、呪歌は特定の者の間でしか受け継がれることがないということも関係している。
そして、何よりも個人のセンスが問われるということだ。魔術の場合はある程度の術の公式が汎用化されているのに対し、呪歌は音色を介す以上、魔術で言う公式が無限に存在する。尤も、ある程度の汎用性のある呪歌もあるのだが、それには歌唱力や演奏能力、声質、楽器の性能も絡んでくるためだ。
「ご明察。未だそれ程使われている技術じゃないんだけど」
リューイは余裕に満ちた表情で、演奏を続けた。このまま演奏を続けさせては、何もできずに倒れるだけだ。レオンハルトは重圧に耐えながらも、二振りのブロードソードを構えてリューイへと斬りかかった。
だが、普段のポテンシャルを発揮できないためか、演奏を止めることは叶わなかった。軽い身のこなしでリューイは剣の軌道を回避し、レオンハルトの背後へと立った。
(術師だとは思ったが、なかなか手ごわい。どうする?)
手加減をするわけにはいかない。だからといって、此処で殺してしまうわけにはいかない。自分達は里を滅ぼしに来たのではなく、ただ話を窺いに来たのだ。
レオンハルトは敵意が無いことを示そうとするが、言葉にする前にそれを止める。まず、話の通じそうな相手ではない。それに、こちら側も既に剣を構えて斬りかかってしまっている。既に、完全な敵としてみなされているだろう。今更弁解したところで、より不信感を煽るだけだ。
「さて、シアを誑かした罰だ。此処で消えて貰うよ」
2
「さてと……」
リーゼロッテはスタッフを両手で構え、詠唱のために精神集中をした。
術が完成するのに、然したる時間はかからなかった。紫電が幾筋もの矢となり、斬りかかってきたゴブリンの脳天を貫き、急所を一撃で紫電の矢に穿たれたゴブリンは、悲鳴すら上げずにその場に崩れ落ちた。リーゼロッテの詠唱の隙を突いて、別のゴブリン達が棍棒を振り回しながら一斉に襲い掛かるが、その場にフレーナが割って入り、ゴブリンの胴を横一閃に薙ぎ払う。反応する暇もなく、鎌によって斬られたゴブリンは、幾度か痙攣した後に絶命した。
「まだいるようですね。リーゼロッテ、まだ戦えますか?」
「うん、平気。早く片付けよう」
フレーナとリーゼロッテは、お互いに背を預ける感じで布陣し、周囲を見据えた。
彼女達をゴブリンとオークの徒党が取り囲んでおり、ジリジリとその包囲を縮めてきている。
(別にたいした敵じゃない。魔力に余裕はあるし、フレーナも強いから、状況は簡単に打開できる。でも、気掛かりなのは――)
考え事をしながらも、リーゼロッテは意識の集中を怠らなかった。自分達の周囲に瞬間的に、風が渦巻く。その直後に、遠距離から数本の矢が飛んできたが、それは風によって煽られて勢いを失い、空しく地面に落ちた。
飛び道具などに対抗が可能な大気系統の支援魔術《エアリアルバリア》だ。汎用性から他の防壁系の支援魔術には劣るが、咄嗟の詠唱が可能なために決して使い勝手の悪い術ではない。
「ねえ、フレーナ。レオンとシアは一体――」
「喋るだけの余裕はあるようですね」
大鎌を構え直し、ゴブリンの徒党を見据えるフレーナ。
相変わらずだ。リーゼロッテは次の術を詠唱しながら、そう思った。この人は一体何を考えているのだろう。共に行動した時から思っていたが、やはりただ者ではない。本人に自覚があるのかどうかは解らないが、ただ淡々と目の前のことをこなしていく様は、良く言えば効率的かつ合理的なのだが、悪く言えば冷酷にすら感じられる。それが、妙に癪に障るのだ。
だが、今はそのようなことを気にしている暇などない。早くこの状況を打開し、レオンハルトとシアと合流をしなければならない。
「フレーナ、一気にカタを付けるから、詠唱中の援護をお願い!」
然して強い敵ではない。別に大がかりな術を使わずとも、倒すことのできる相手だ。だが、数が多い。あまり時間をかけたくないと考えたリーゼロッテは、高度な魔術でゴブリン達を殲滅することにした。
フレーナは無言のまま頷くと、ゴブリン達を引きつけるべく前へと踏み込んだ。それに応じるかのように、ゴブリン達は彼女に対して殺到するが、その全ては彼女の大鎌に一刀のもとに斬り伏せられる。
「この術は……」
一瞬ではあるが、フレーナは驚嘆とも思えるような表情を見せた。
リーゼロッテを中心に、風が渦巻き始める。初めは弱かった風だが、それは徐々に強大さを増し、辺りの木々を強く揺らすほどまで膨れ上がった。
そして――
リーゼロッテが杖を天高く掲げると、渦巻いていた風はゴブリン達に向けて一気に吹き荒んだ。烈風は辺りの木々をなぎ倒しながら、ゴブリン達に襲い掛かり、風の直撃を受けたゴブリンは四肢を細切れにされたり、文字通り木っ端微塵となり血の霧をあげたりと、殆んどがその原型を留めずに絶命していく。運よく直撃を免れた者も反撃する余裕はなく、ある者は薙ぎ倒された木々の下敷きになったり、吹き飛んだ仲間の肉片に当たり倒されたりと、無事な者は一体もいない。
やがて烈風が止まると、リーゼロッテを中心に、その場にだけ局地的な大嵐が発生したかのような有り様だ。辺りには、それまでゴブリンだったモノが散乱しており、血と臓物の混ざり合った不快な臭いを放っている。
(禁断魔術――《フレースヴェルグ》ですか。威力は抑えてあるようですが……)
《フレースヴェルグ》。『原初の風たる大鷲』の名を冠す魔術だ。非常に複雑な魔術であり、術式を完成させるどころか、原理を理解するのも難しいとされている。また、膨大な魔力を消費するために、適性の高いエルフの魔術師でさえも、数人がかりで発動させるのがやっとである。そして、コントロールの難しさだ。リーゼロッテの場合、場所が狭いこともあってか、威力を抑え目にして魔術を発動させたのだ。高度な魔術を下手にコントロールしようとすると暴発させてしまうことが多いのだが、彼女はそれを平然とやってのけたのだ。
「ふぅぅ、やっぱり久々に使うと結構来るなぁ……」
そうは言っているものの、リーゼロッテは息一つ乱した様子はない。
(この娘も『因子』を持っているようですね。何処で発現したのか気になりますが、我が主の計画に必要になりますね)
フレーナはリーゼロッテの後ろ姿を興味深そうに見ながら、持っていた鎌を軽く振るった。右手に握られていた大鎌は、その場の空間に溶け込むかのように、黒い靄のようなものと共に消えていった。
「早く、レオンとシアを探そう」
「そうですね。ですが――」
何かを察知したのか、フレーナは再び大鎌を出現させて構えた。
「ええ、まだいるの!?」
リーゼロッテは周囲を見渡した。すると、先程よりも数は少ないものの、自分達を取り囲む何者かがいることに気付く。
だが、今回はゴブリンではない。そこにいるのは、人間と亜人によって組まれた徒党だった。装備はバラバラではあるが、統率が取れていることが窺える。
「妙に騒がしいと思ったら、また侵入者か」
「ああ。こいつらも俺達の里を荒らしにきたに違いねえ!」
「だが、どうすんだよ。さっきの魔術、バカみたいな出力だったじゃないか。下手に手を出したら、俺達も細切れだぞ!」
どうやら、歓迎されていないらしい。いつでも迎撃できるように、二人は各々の武器を構え、相手の出方を窺った。
「待て、お前達。武器を下げろ」
ざわつく集団の中で、凛とした男の声が響く。
「いや、しかしロイドさん」
「構わない。此処は私が出るから、お前達は下がっていろ」
集団の中から、一人の若い男が現れる。
短めに斬られたライトブラウンの髪に、周囲の植物のような深緑の瞳。温厚そうに見えるが、集団を率いているあたり、それなりのカリスマ性を持っているのだろう。
装備は狭い場所での戦闘を想定しているのか、軽装だ。衣服の上から、革製のコートを着ているのが解る。腰には、一振りのグラディウスを帯びており、見たところ何処かの国の貴族のように思える。しかし、それのような派手さは無く、武器と防具の両方が、見た目よりも機能性を重視したものだ。
だが、背中から生えた一対の白い翼を見れば、彼が人間ではなく亜人であることが解る。
ハルピュイア。飛行能力を持つ種族で、背中に一対ないしは二対の翼を持った者達だ。その多くは気高く清廉潔白な性格をしており、美しい容姿をしている。身体能力も高めであり、戦いの様子は戯曲にて、天使として喩えられることも多い。
「ああ、えっと、すまないが、そちらも武器を降ろしてくれないか?」
ハルピュイアの青年は少し気まずそうに、リーゼロッテとフレーナを見て言った。彼の言葉に従い二人は各々の武器をしまう。
「いや、すまなかった。我々も域内に入り込んだ獣人達を討伐していたのだが、どうやらあなた達のお陰でその必要もなくなったみたいだ。感謝します」
片腕を身体の前に置き、形式ばった礼をする。
「あ、いや、別にあたし達は、あはは……」
リーゼロッテは気まずそうに笑って誤魔化した。辺りを見渡すと、自分の魔術による凄惨な様子が広がっていたためだ。
「それにしても、凄い魔術だ。私も魔術は使えるが、あなた程の使い手は見たことがない。と、ああ、失礼。私はロイド・ヴィオル・イェソド。我らが次期族長候補シア様がお世話になったようで、感謝いたします」
ロイドと名乗った青年は、再び形式ばった礼をした。
「シア……と言いましたね」
「詳しい話は、我々のイェソドにて。里まで案内いたします」
「待って、レオンは――」
「リーゼロッテ、今は一先ず里へと向かいましょう」