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温かな和解

「何があって俺の顔に傷ができたのか、詳しく教えてほしい」

 ヴィオラの先ほどの緊張感はどこへ行ったのか、身を乗り出しながらシルエットに問う。シルエットは「お話、聞いてくれるぅ?」と言うとヴィオラは「ああ、聞きたい」と言った。

「よかったぁ」

 安堵の笑みを見せるシルエットは話し始める。

「幼いころのヴィオラ君の体内にね、エネルギーがかなり溜まっていて逃がす方法がわからないって、ヴィオラ君の両親があたしに訪ねてきたことがあったのぉ」

「……それ、本当なのか?」

「ええ。あたしっていうよりは、あたしの両親に訪ねて来たのだけれどねぇ」

そう言って息をついた。

「ヴィオラ君のご両親は、ヴィオラ君を強いエネルギーから救い出したかったのねぇ。訪ねてきてくれたとき、泣いていたのを覚えているわぁ」

 ヴィオラは黙り、そういえば昔に母から「貴方はエネルギーをものすごく溜めこんでいて、逃がすのが大変だったのよ」と寂しそうに言ったのを思い出した。

 一瞬だけまた脳裏に黒いワンピースの女の子がよぎった。その女の子の姿は今まで曖昧だったが、今度は姿も正体もはっきりとわかる。

 シルエットは続けた。

「だからね、当時のあたしは愚かだったと思うの。だってエネルギーを逃がす方法は他にもあったはずなのに、あたしは自分の能力である、エネルギーを感知する力のままに、力を使ったわぁ。エネルギーを逃がす方法は他にもあったと思うのだけれど、キミの顔に傷をつけてしまったのぉ……」

 そう言ってシルエットは悲しそうな表情になり「ごめん、ごめんねぇ」と言った。ヴィオラにとってその「ごめんね」は、彼女の心からの言葉だと感じた。

 シルエットは涙を流す。ユーディアは彼女の背中をさする。そうしながら「ヴィオラ君は傷のことで長年悩んでいたと思う」と言う。

「そう……かもしれない。いつのまにか傷のことを考えている時もあった」

 ヴィオラは心の中で悩んでいた塊が溶けていくのを感じていた。

 長年の悩みが解決したという言葉が当てはまっているだろうか。ヴィオラは傷の話を聞き、傷に触れて「そうか……」と言った。

「原因を教えてくれてありがとうございます」

 敬意の気持ちで敬語を使った。シルエットは顔を上げて「ヴィオラ君、許してくれるのぉ?」と涙ながらに聞いた。

「はい。これで長年の悩みが解決しました」

 ヴィオラはそう言って笑った。彼は「そうだったのか……」と、もう一度言った。それは今のヴィオラが一つの謎を知って安堵したというようなかんじでもあった。

「俺からも聞きたいことが」

 ヴィオラの発言に「どうぞ」とユーディアは促す。ヴィオラは手を掲げて大鎌を出して見せる。

「この鎌、似ていると思っていたけど、本来は武器の形と装飾まで似るものなんですか?」

 ユーディアとシルエットはヴィオラの鎌をじっと見つめ、考えた。

「たぶん」

 先に口を開いたのはユーディアのほうだった。

「昔にヴィオラ君がシルエットに触れられたから、知らないうちにコピーしてしまったのだと思うよ」

 その言葉に納得するヴィオラ、だが「あれ、俺コピー能力の事言いましたっけ」と首を傾げる。

「あの試合、あたしたちは屋上で見ていたのよぉ」

「ああ、だからか……」

「すごいわねぇ、コピー能力。大事にしないとねぇ」

 シルエットの言葉に頷く。話が終わったと思うとユーディアが口を開いた。

「……では、私達は出頭しに行くよ」

「え」

 ユーディアはシルエットの手を引き、笑顔で言った。そしてドアを開く。

「行っちゃうん……ですね」

 フローライトは寂しそうな顔をしていたが、今から自首しに行くというシルエットとユーディアは笑顔で「また会いにくるよ」と言う。そう言った後に二人は出頭しに行ってしまった。残された三人は、その背中を見送ることしかできないでいた。

 フローライトは泣いていた。それはシルエットが捕まることに泣いているのではなく「シルエットさん、足を洗ってくれるんですね」という、嬉しさの涙だった。コーベライトはその頭をぽんぽんと撫でる。

 二人の姿が見えなくなったのを確認した後、ヴィオラはコーベライトとフローライトに「今日は会わせてくれてありがとう」と笑う。

「そんな……ヴィオラさんの悩みが解けてよかったです」

 フローライトは涙ながらに言う。そんなフローライトを見ながらヴィオラはコーベライトと顔を見合わせて笑った。そして家に戻ろうとした、その時だった。

 シルエットとユーディアが行った反対方向からすごい音が鳴った。

 それは電気を誰かが発した音だった。コーベライトが電気技の使い手なので、すぐにわかった。すぐに三人はその音が響いた場所へ走る。先ほどの電撃技は、まだ太陽が昇っているというのに光っており、目立つ。音がした場所に着くと、フローライトは口元に両手を当てた。

 現場を見て言葉を失う。その場所には一人の黒いマントをはおった仮面をつけた人物がおり、それはトーナメントで割り込んできた者と似ていた。

「失踪事件……?また?」

 その場所にはマントの人物以外に人はおらず、そのマントの人物は背中を向けていたが失踪現場に必ずあるという焼き焦げた跡があり、三人は失踪事件が起こったのだと確信した。

 ふと、マントをはおっている者の武器が見えた。その武器はとても見覚えのある者で、ヴィオラはいつの間にか口に出してその人物の名を呼んでいた。

「ルア!」

 心の中では「まさか」と思っていたが、トーナメントの時によく見ていた赤い斧がルアの物と全く一緒だった。

 そのルアと思われる人物は、くるりとこちらを向く。仮面越しで目があった。ルアかどうかはわからなかったが、その人物はマントをくるりと翻すと溶けるように姿を消した。

「ルア……なのか?」

 ヴィオラはそう呟いていた。コーベライトは頷き「あの斧はルアのものだよ」と言った。

 見慣れた、失踪したクラスメイトの赤い斧が眼に焼き付いて離れない。


 その頃、一人しかいない広い学校の職員室ではキルカルが難しそうな顔をして書類と向き合っていた。その顔は疲労の色が伺え、体調が悪そうだとわかるものだった。

 ふと、キルカルは机の中を開き一枚の写真を見た。写真を見ると顔が自然とほころぶ。

「……がんばらないといけないねぇ」

 独り言のように呟くと、職員室のドアが開いた。キルカルは写真を見られたくないのか、さっと机の中に写真を仕舞い、引き出しを閉める。

 入って来たのはアマで、キルカルを見て「キルカル先生、調子が優れないのでは?」と言う。その言葉にキルカルは笑ってみせ「大丈夫だよ」と言った。

「そうだといいのですが……ご無理はなさらず」

「ああ、ありがとう」

 そう言ってアマは自分の机に座る。自分も報告書類を片づけなければいけないと思っていると、ふとあるものが目に入って来た。

「あれ、どの先生のマントでしょうか?」

「ん?」

 職員室の中にはキルカルとアマしかいないので、アマの問いには当然キルカルにしか聞こえない。キルカルはアマの視線の先を見ると「あのマントかい?」と尋ねる。

「そうです。その赤い刺繍の入ったマントです……誰のでしょうか。おしゃれだと思います」

 赤い刺繍の入ったマントを、キルカルはじっと見つめ「誰のだろうね」と言い、書類を片づける作業に戻る。

 アマは笑って「今お茶を入れますね」と席を立った。

「いつもありがとう」

「いえ、当然のことですから」

 そう言ってアマはにっこりと笑うのだった。

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