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失踪事件の夜

 誰もいない夜の町はずれに声が響く。そこではカルサイトともう一人、黒いフードを被って同じ色のマントを着けた者がいた。

 二人は対峙しており、カルサイトの手には護衛用のナイフがあった。そして全身が黒く怪しい人物を不安が混ざった様子で睨んでいる。

 一方睨まれている相手は白い仮面をつけていた。不気味に映るその仮面で表情は伺えない機械のように無機質、という言葉が似合いそうだ。表情が全くわからない者を相手にするのは少々ではなくものすごく恐ろしい事なのだと思い知らされる。事実、カルサイトの手はがくがくと震えており、心は不安で仕方なく腰が引き気味になっている。

 そんな自分を奮い立たせるかのように、彼女は勇気を出してナイフを向けた。

「町に……何の用かしら。何か起こせるものなら起こしてみなさい、容赦はしないわ」

 だって、わたしは新人だけれどこの町を任されている一人だもの。

 震えながらも力強く言う。傍からみると笑ってしまうかもしれない姿だが、こんな言葉の一つでも言わねば全く動けないままでいるような気がした。

 だが今の状態では、攻撃どころか防御もできそうにないと思った。今までは実戦にせよ物事を知ることにせよ、先輩達がサポートをしてくれていた。

 それは頼もしかったのでそれにどれだけ自分が甘えていたのかがよく分かる。今の自分はこの場をどう対処すれば良いのかわからないからだ。情けないと自分でも思う。

 カルサイトは攻撃態勢に入った。相手はカルサイトからナイフを突き付けられていても何か言葉を発することはしなかった。それでカルサイトは少しだけ、相手は何もできないのかもしれないと思って少し余裕を取り戻した。

「とりあえず、怪しいあなたは事情聴取ね」

 彼女は「というわけで、近くまで同行願えるかしら」と言って相手に近づく。

 この怪しい者は捕まえた方がよさそうだ。そんなことを感じてナイフを向けながら先輩から教えてもらった通りに一気に距離を詰めた。

 その時だった。もうすぐ触れることもできそうなところまで詰めたことを確認した黒いフードの者は、軽く手を掲げる。カルサイトは距離を取ろうと後戻りしかけたが、素早い動きで相手はカルサイトになにかを突き付ける。

 それは金色のバトンのような細長い棒状の武器で、それを突き付けられて思わず動きを止めてしまった。

 バトンには繊細な装飾が施されていた。このバトンの持ち主と思われる者から嫌な空気が漂う。それがだんだん張り詰めていき、カルサイトは今自分が怖いと言う感情を持っていることに改めて気付かされる。

 マントの人物はバトンを振り上げる。殴られると思い頭を守るようにナイフを振ったのはカルサイトのほう。

 だが、次の瞬間にカルサイトに強い電撃が襲う。声にならない悲鳴をあげた。

 バチバチと電気の光と音が夜の闇の中に響き渡る。彼女は全く動けないでおり、マントの者は表情もわからないまま軽く頷くと、今度はバトンを横に振った。

「…………ごめんなさい」

 電気の光が収まったかと思うと、カルサイトの姿はそこにはなかった。それを確認したマントの者は「ごめんなさい」の言葉を何度かこぼす。

 カルサイトという女性は姿を消した。月明かりが照らす、夜の日の出来事だった。


  ●


 カルサイトが消える少し前の時刻には唯一明かりがついてる建物があった。明かりはオレンジ色の優しい光を灯すランプで、それがある小さな建物の中には二人の青年がいる。

 ランプの明かりで顔が明らかになる。一人の銀色の髪に緑の帽子をかぶった精悍な顔の青年は、建物の窓から少しだけ身を乗り出した。その時に彼は、一番印象に残る、」顔を横断する傷に軽く触れる。

「どうしたの、ヴィオラ?今日は傷が疼くの?」

 ヴィオラという青年は緑の瞳を別の方向へ向けた。そこには少し背の低い、心配そうな表情を向けているもう一人の青年。わざと癖をつけたと思われる金髪がふわりと踊る。彼が「どうしたの」と問う前に、ヴィオラはその質問が来ることをわかっていたかのように「何か聞こえた気がした」と言った。

「コーベライトは何か聞こえたか?」

「いや、何も」

 首を傾げるのはコーベライト。ヴィオラは不思議がっている彼にもう一度「何か、聞こえた気がしたんだ」と言った。

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