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親子間の心配事

 ヴィオラは夢を見ていた。今まで見たことのないような大きな樹木。そのそばに自分は立っていた。なんの木だろう。一歩近づいて見上げると、木からするりとなにか光に包まれたものが出て来た。夢の中のヴィオラは一歩下がる。

「下がらないで。悲しくなるから」

 光は木の下で浮き、言葉を発した。言葉を話せるのかとも思い、光の要求により下がらずに今度は三歩歩み寄った。光は嬉しそうに光った。

「嬉しい。ありがとう」

「君は……この木にいつもいるのか?」

 ヴィオラがそう問うと、光は「そうよ」と言い、光は人の形になる。光が一瞬煌めき目を閉じる。目をおそるおそるというように開くと、ヴィオラの目の前にいるのは同じくらいの年齢の少女が立っていた。髪の毛は赤く、衣装も赤かった。全身赤色の少女は呟くように、だがヴィオラに相談するように言った。

「これからどうすればいいのか、わからないの」

 ヴィオラには、少女が憂いに沈んでいるように見えた。「何を悩んでいるんだ?」と問うと、少女は赤い目でヴィオラを見た。

「私でよかったのかしら」

 少女は呟くように言う。何に悩んでいるのかと言う問いに答えてくれなかったが、少女がとても悩んでいることを感じた。悩み事を聞こうともう一度尋ねる。だが少女はふるふると首を振って、笑う。

「貴方のこと、呼んでいる人がいるわよ」

 そういえば頭の中で自分の名を呼んでいる声が聞こえていることに気づく。赤い少女は笑って「また会いましょう。話はその時に」と大きな樹木ごと少女はうっすらと消えてヴィオラは夢からさめた。

「ヴィオラ」

 ベッドで横になっているうちに眠ってしまったようだ。ふと時計を見るといつもの自分の起床時間で、起こしてくれたのはヴィオラの父だった。

「時計の目覚まし設定をしてなかったんだな。はやくしないと遅刻するぞ」

「…………え?」

 ヴィオラはもう一度時計を見る。先ほどは寝ぼけていたのか、時計の針はいつもの起床時間をさしていたはず。なのだが、改めて見るとヴィオラは一気に目を覚ました。

「一時間間違えた!」

「……はやく準備をしなさい」

 飛び起きるヴィオラに父は呆れたようなため息をつく。下の階からはおいしそうな匂いが漂っていて、母が朝食を作ってくれていたことがわかる。

「母さんも、遅いって言っていたぞ」

 ばたばたと登校の準備をしていたヴィオラは「そうだ、卵の様子も見にいいかなないと……!」と独り言を言いながら準備をする。そんな様子の息子を見ながら、ヴィオラの父は眉間にしわを寄せた。ヴィオラはばたばたしているために気がつかなかったのだが、ふと父の方を見る。

「…………なんか変なところある?父さん?」

 父は考える仕草をして唸った。ヴィオラが父をよくよく見ていると、父はヴィオラの左手の甲を見ていた。

「お前、光の証をつけたな?」

 見破られたことにびっくりする。父は眉間に皺をよせたまま「誰かに別の卵のことを頼まれたのか?」と言った。まさにその通りのことなので、ヴィオラは目を逸らした。

「光の証をつけるということは、どういうことか分かってつけたか?」

 ヴィオラは黙る。そういえば自分は光の証のことを、よく知らない。考えているヴィオラを見ながら父は「じゃあ、今からちゃんと聞け」と口を開く。

「誰に頼まれたのかは知らんが……光の証をつけたということは、自分のエネルギーのコントロールが上手くなりやすくなると同時に、卵を狙う犯罪者のターゲットになりやすいってことだ。特に育成学校に行くようになってわかりはじめたと思うが……人それぞれには能力がある」

 そこで話を止める。また父は考えるような仕草をして、唸る。

「能力……それはわかっているよ」

「もし、光の証をつけている人間を見つけることができる能力者がいれば、大変なことにもなる」

 そこら辺のことをわかってつけたのか?と問うとヴィオラは「能力者のことは考えてなかったけど、大変なことになりそうなのはわかっている」とまっすぐな目を父に向けて言った。父は盛大なため息をついた。

「いいか、ヴィオラ。卵を狙う奴らはたくさんいる。俺の分の卵の世話を頼んだのは、まぎれもない父親である俺だ。これから卵が孵化の準備をするにつれ、大変なこともあるだろう……だが、命や自由に動ける身体は親からもらったものだ」

 だから大切にするんだぞ、親不幸なことはするな。

低いトーンの声で言い、父は部屋を出ていった。

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