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大丈夫と断言はできない

「先生、連れてきました」

「あ、ああ……。ありがとう」

 キルカルは困ったような表情をしながら笑う。それは見様によっては、何かの決断をしようとしているように見え、これから何を言われるのかと二人は少し怖くなった

「先生、それに先輩。なにか話があるんですか?」

 ヴィオラが難しい顔をしてこちらを見ているキルカルに問う。見たところ机の上には書類などのものはない。ソラも緊張している顔ではないので、停学とかそういう類の話ではないなと感じた。そんなことを考えているとキルカルは、自分の背後に大切そうに布で包んである卵を指さした。

「この卵のこと、今日知ったんだよね?」

 その言葉で、なんだか嫌な予感がするのは自分だけだろうかとヴィオラが思っていると「先生、まさか俺達に記憶封印術かけるとか、そんなのですか?」とコーベライトはびっくりしたように聞いた。キルカルは笑い「違うよ。そんなことはしないよ」と笑った。

 キルカルは赤ぶちの眼鏡を上げ「記憶封印か……そんなのではないんだけれど、ちょっと近いかもしれない」と言う。言いながら見せるキルカルの笑みが、ますますヴィオラとコーベライトを不安にさせた。そんな二人を見ながらキルカルはソラに「見せてあげてくれないかな?」と目をやる。

「あ、はい」

 ソラは長袖の服をまくり、腕を見せた。一見その腕には何もないようにみえたが、ヴィオラは何かを見つけたように「あ」と言う。

「これ知ってる?」

 ソラは尋ねる。コーベライトは息をのんだ。なぜならソラの腕には入れ墨のように光が刻まれていた。コーベライトはソラを見る。

「これね、光の証って言うんだ」

 光の証を隠すようにソラはまくった服を元通りに直す。ヴィオラとコーベライトは黙ったままだった。その様子をソラは不思議に思い、小首を傾げた。

 キルカルとソラは、二人が光の証を知らないということを前提で話していると思うのだが、ヴィオラとコーベライトは光の証を知っていた。ヴィオラの父から卵の世話を頼まれたときに、ヴィオラの父も光の証を背中に刻んでいたからだ。本来は二人も刻まなければいけないものらしいのだが、ヴィオラの父はそれをしなかった。

 知らないふり知らないふり、と言い聞かせる。そんなことをするのは無意味なことだとわかりつつ「光が、刻まれてましたね」とヴィオラは冷や汗が背中にしたたるのを感じながら、絞り出すように言った。

「ごめんね、本当にごめん。僕が最初二人に「卵の世話をしてほしい」みたいなこと言ったのを覚えている?」

「はい」

「今回のことで卵のことを知ってしまったから、っていうのは無理矢理で言い方がすごく悪いんだけれど……卵の世話を一緒にしてくれないかな?」

 お願い!とソラは申し訳なさそうな顔で二人に頭を下げる。二人は困惑した様子でおり、ヴィオラはしばらく考えているとコーベライトは「俺は大丈夫ですよ」と言った。

「ほんと?」

「はい」

 コーベライトは他にも世話をしている卵のことは隠しつつ、言った。ヴィオラは唸るように考えており、しばらく考える。考え抜いた後、口を開く。

「俺も大丈夫です」

 ヴィオラとコーベライトは顔を見合わせて笑う。他にも世話をする卵があるというのに、ソラに賛同したのは気に入られようとかいうものではない。純粋に二人が学校の卵も護りたいと思ったからだ。

「じゃあ、卵を世話してくれることになった二人にも、光の証をつけるよ。いいかな?」

 キルカルは言った。二人は「はい!」と返事をするとキルカルは微笑み、指を鳴らした。ふっと身体に熱いものが走った。だが次の瞬間にはコーベライトは肩に、ヴィオラは左手の甲から熱いものが抜けていったのを感じた。こうして自分達は光の証をつけたんだ、と二人は感じた。

 ソラは本当に嬉しそうな顔をして「これからよろしくね」と手を伸ばした。二人はちょっと戸惑ったような表情を見せながらも「よろしくお願いします」と固い握手を交わした。

 ソラには内緒にしているが、学校の卵を含む自分達の卵をこれからも護っていこうと、二人は強く決心した。


 光の証をつけるという出来事が朝だったので、三人は持ってきていた着替えに変えてそのまま学校の授業に出た。寝ていないが、興奮して眠れる状態ではない。

そのままコーベライトは帰宅した。ドアノブを閉め、そっと息をつく。

「あんまり目立たないんだなぁ……目立ったらそれはそれで困るけどさ」

 呟きながら彼は自分の肩を見る。服に隠れてみえないが、ここには証がついているんだと感じる。光の証がまだ少しだけ熱い。光の証を見た時、正直、痛そうだとか熱そうだとか思っていたが、実際はそうではない。

 肩に付いている光の証。それは少し温かいものが肩に乗っているというかんじで、コーベライトは誰かが背後から自分を抱きしめているような錯覚を受けるのだった。少しくすぐったいので、口元を少し緩ませた。そしてそんな自分が恥ずかしくなって顔の前で手をふるふると振る。

「ああ……もうなんか疲れた」

 恥ずかしいと同時に急激な疲れに襲われた。今日も捜索はあるが、その時間までは寝ていようと、自室に行こうとした時だった。

「……お兄ちゃん?」

「うぉ!」

 途中にフローライトがいて驚く。さっきまでの行動を全部見られていたのだろうか、フローライトは怪訝そうな顔をしていた。フローライトが何故そのような顔をしているのかがわからず「フローライト?」と尋ねると、コーベライトは彼女が自分の肩をみていることに気がついた。隠し事をするように目を逸らした。

「ねぇ、お兄ちゃん」

 呼ばれた声に、びくりとする。

「肩……なにかあったの?」

「え?」

 フローライトは間違いなくコーベライトの肩を見ていた。服で覆われているその光は目立つものではない。

 だが、フローライトには全部お見通しなのだ。

「何か光の模様みたいなのがついているね」

 フローライトは近づいてきてコーベライトの肩に手を置く。その肩に手をくという行為が、さっきの想像した誰かが自分を抱きしめている、というものに似ていてた。

「あったかい光だね」

「そうだな」

「でもこえって、何か大切なものなのかな?強い力を感じる」

 その言葉にもどきりとしてしまい、気がつけばフローライトの手をやんわりと離していた。フローライトの 宙に浮いた手、少し気まずそうな空間の中、コーベライトは「大丈夫だよ」と言った。

 心配そうに見るフローライトは、笑顔の兄を不安げに見つめることしかできないでいる。

「そういえば、フロラはエネルギーとかを見る能力を持っていたよね」

彼はフローライトの能力のことを思い出し、だからフローライトは自分の肩に刻まれた光の証を見ることができたのかと思った。

「うん……光の形がなんであれ、私はエネルギーを見ることができるわ」

 フローライトは顔を伏せる。そして顔を上げた時には「お兄ちゃんには、昨日と違う大きなエネルギーを感じるの」と言った。

 彼女には笑って誤魔化すなんてことはできないのをは分かっている。だから、だからこそ余計に今日見た学校の卵のことを言えないでおり、隠し事をしているというどこか悲しい感情がコーベライトの中に渦巻いていた。

 口で「大丈夫」を繰り返す代わりに、心の中で「ごめんね」を一言呟いた。

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