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貴方の声がかすれて聞こえる

 眠りから無理やり起こされたような感覚だ。脳は眠りかけているのに体が眠ることを許さない。

 半分眠っているような脳が、ある指令を下す。意識が朦朧としており、一歩踏み出す足も、本来ならば軽く動かせるのだが今は鈍く重い。

 これからどうしようか。そう思うと、一つの言葉が脳裏をよぎる。

「この条件をクリアしなければ……」

 思わず呟く。それから、その言われた言葉の続きを思い出す。思い出したところではっとなり、眠さで歪んでいた視界と、ごちゃごちゃとしていた思考が一気に整い目が覚める感覚を覚える。

 それから、何故か身体が震えだす。だが、これからの事を考えると身体がだんだんと震えることをやめて落ち着きを取り戻した。大きく息を吸って、吐く。深呼吸すれば少しは落ち着くと思った。

 落ち着いて夜の街を見渡す。眠気がまた中途半端に襲ってくる。その時に一瞬背後に誰かがいるような気がした。だが周囲を見渡しても誰もいない。気のせいか、と目の前がまた少し朦朧としている中で思った。

 誰かに何か指示のようなものを出されている気がしている。夜の道を見、自分は何かをしなければいけないと思いはじめた。

 その時に、夜の道を歩く一人の女性が視界に入ってきたのだった。


  ●


 部屋の中でラジオの音が流れている。ラジオの内容は、暗い話。その話が夜の街に響き、この時間でもラジオを流している人は多い。だからだろうか、街は全体的に沈んでいるように感じる。

 それもそうだ。最近、失踪事件が多発しているのだ。

 それは一件だけでは済まずに遠い地にも起こっている事件。近い地でも街の中でも大胆におこっている事件だが、犯人を捕まえるどころか犯人の手掛かりが全く見つからないので捜査は難航している。

 不思議で大きな事件として記者達はこぞって事件を取り上げる。それはどのような事件かを伝えて人々に上手く伝わっているが、カルサイトにとっては不快でしかなかった。彼女の目からは、この事件は表では心配そうにしていても裏では面白く扱われているとしか見えなかったからだ。

 そして、たまに流される付近の住人の様子も、そんなに深刻そうに取っていないのかとも感じている。真面目すぎるのか私は、とカルサイトは思った。

 まだ流される内容があるのか、カルサイトのラジオはしゃべることを止めることを知らない。仕方なく息をつきながら電源のボタンを押して黙らせる。

 最近は嫌になるくらいのニュースや特別番組が目立つ。真実を話しているのかわからない番組や記事には嫌気がさす。内容が不安をあおうものばかりで、自分まで不安な基部にさせられる。

 不安だけれど私は大丈夫。そう自分に言って暗い外に出て行った。


 一人の女性が夜の道を歩いているが、周囲には人の影はなかった。

 これから前に起こったばかりの失踪事件の現場へ行く。何度も、そして色々な場所で起こっている失踪事件。事件の手掛かりになりそうなものや情報は、はっきり言って何もない。それでもカルサイトや失踪事件に挑む特捜班や協力チームは諦めの色を見せない。

 そのことはカルサイトの中の意志と言う炎を燃やしている。強く燃えているものを心の内に秘めて、ふと彼女は星もまばらな夜の空を見上げる。

 不気味な夜だなと、事件が起こりはじめてからの毎日はそう思うようになった。月も星も眺めているのが好きだったカルサイトだが、今は少しずつ違ってきている。空に浮かぶ月や星もぼやけているように感じて、なんとなく不気味だと思うのだ。

 その不気味な夜の中を歩きながら、そういえば昔に「不気味な夜には何かが起こりやすいのよ」と、噂好きの友人が言っていたことを思い出した。そんなことを今思い出すなんて嫌だと過去の記憶を振り払うように頭を振った。

 本当、嫌なことが多いわね。

 そう、また思う。今話題となっている失踪事件が発生したのは、結構最近のことではないかと思う。

 失踪事件が増加してきた頃に、自分は今まで居心地が良いと思っていた世の中を見る目を変えてしまった。色で例えるなら黒で、音で例えるなら低音でゆっくりと紡がれるバイオリンのようなかんじだ。

 そんなことを考えながら捜索現場へ歩いて向かう。そこで先ほど考えた友達の言葉ではないが、不気味な夜に本当に何かが起こるなんて思っていなかった。

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