シリアス展開を望む御爺様
九、
看板を俺が背負い、葵と加奈がそれぞれ小さなスーパーの袋を持っている。手伝ってくれるのはうれしいが俺としてはこの重たい看板をどうにかしてほしい。
「意外と強いのね?見た目はちょっと細いけど・・・」
「別に強いわけじゃねぇよ。たまたま偶然のラッキーだったのさ。」
勝負事なんか運で決まると俺は思っている。その場の状況、天気、今日の運勢で人生なんて変わってしまうものだ。
「だけど、怪我しなくてよかったですよ。」
ああ、心配してくれてありがとよ、葵。おばさんにそんなこといわれたことなんて一度もないからなぁ。いつも怪我した時はおじさんがしてくれるし・・・・。
「葵、ありがとな。」
「いえいえ、同じ屋根の下に住むもの同士、心配するのは当然のことですよ。」
「わ、私だって心配したのよ?」
「ああ、加奈もありがとな・・・」
加奈は確か俺にがんばれといってくれたからな。
「・・・・ところでさぁ、二人とも看板なんて何に使うと思う?」
俺がふとした疑問を二人に聞いてみると葵と加奈は考え込んだ。凄い考えようである。たとえるなら、解く事がなかなか難しい数学の文章問題を先に解いて先生に誉めてもらおうといった感じである。いや、真剣に考えてくれるのはうれしいのだが、そこまでする必要はないと思うのだが・・・・
「・・・・まな板ですかね?」
「・・・いや、表札を作るのよ!!」
前者なら、別に看板を買ってこいとは言わないだろう。そして後者なら、こんなでかいもんはいらんだろう?
二人は俺の顔を見ている。何かを期待しているのはわかっているのだが・・・・このどちらかを正解にするのはちょっとおかしいだろうな。
「・・・・いや、俺は・・・コレクションだと思う。」
二人は俺の顔をじっと見ている。俺としては思いっきりボケてみたのだが、もしかして滑ったか?
「ああ、なるほど・・・流石輝さんですね。考えることもできませんでしたよ。」
「輝にしてはやるじゃない・・・今度なんか問題があっても絶対先に解いてやるからね!!」
この二人は天然かもしれないな。まぁ、答えは家に着いておばさんに聞けばわかるんだがな。そろそろ家につく頃だし。いや、また家の前におばさんが立っていた。
「おかえり、思ったより遅かったじゃないか?」
「いや、実はシャンプーとリンスの違いをこの二人に聞かれたんですよ。」
あの時はかなり苦戦したぜ。ふ、熊先生という人物より強敵だった。
「まぁ、看板はあっさりゲットすることができたのでよかったですけどね。」
「そうか、では明日から週に一回は看板を持ってきてくれよ。あれは私のコレクションにするかね。」
うわ、俺の感があたってしまった。どうしたもんかね・・・。
「ああ、それといい忘れたが看板をもらいに行くときは必ず誰かと二人で行くことだ。この約束を破った場合はさて、どうしてやろうかね?」
おばさんの怖いところはあえて何もいわないところだ。他の人はどうか知らないが俺はそんなことをされるとかなり心が不安定となる。
「・・・・それとな、今から山に行ってもらいたいんだが・・・・?」
おばさんがここまで俺にお使いを頼むのはちょっと危険視したほうがいい兆候だ。看板どころかどこかの首領の首でもとってこいといわれているようなものでもある。
「場所はどこですか?」
まぁ、俺としてはいろいろとお世話になっているのは間違いないのだから俺のできる範囲ではできるだけしているのだ。うんうん、どうせ今回もろくなことがないんだろなぁ。
「・・・ほら、この町の近くにあるあの山だ。言っておくが輝一人だけで行ってもらう。で、とあるものをとってきてもらいたい。」
俺の住んでいる町のかなり近くに山がある。しかも俺の家から結構近くといっても距離があるのだが・・・・まぁ、いけない距離ではない。そして、おばさんが俺に頼んだものは山の頂上にあるらしい小屋に忘れてきた水筒だそうだ。
「じゃ、行ってくるよ。葵、加奈。」
「はい、いってらっしゃい。」
「変な人物についていったらだめよ?」
その返事に苦笑しながら俺は自転車にまたがり家を後にした。まだ、夕日ではないくらいなのでもしかしたら早くに帰れるかもしれなかった。
すこしかかって、獣道から山に登ることにする。おばさんが言うにはこの道が一番の近道なのだそうだ。だが、山をなめてはいけない。今はまだ結構明るいがもし、暗くなってしまったら迷子になってしまう可能性もある。
そして、あっさりと俺は迷子になった。しかもまだ明るい。
「・・・・さて、どっちからきたかな?」
何の鳥だかわからない泣き声を聞いたりしているがゆったりとしている場合ではない。すでに遭難しているのだ。こうなったら耳を研ぎ澄まして川があるところを見つけて下っていこう。そうすればいずれ町にたどり着くに違いない。いや、そうであってほしいものだ。
川の流れがある方向に歩いていくと・・・不幸なことに頭上の木が折れたようで、かわすことのできなかった俺はそれをもろに食らって意識を遠いかなたに飛ばしてしまった。
「はぁ、あっさり輝は死んでしまうのぉ。これで二回目じゃよ。」
「・・・・人間って意外にもろいんだな、爺さん。」
「まぁ、そんなもんじゃ。どうじゃ、また生き返らせようか?それともわしと一緒にきてハーレムを満喫でもするか?最初に言っておくが天国はわしの領土じゃからおまえには地獄に行ってもらうがな。」
「ぜひとも生き返らせてもらいたい。まだなぁんにもしてないんだ!!それはそうと爺さん、聞きたいことがある。」
「なんじゃ?天国のおねぇさんの平均的なスリーサイズか?悪いがまだ、わしも把握してない部分があるから残念じゃがすべてを教えてやることなんてできないぞ?」
「いや、そうじゃなくてだ。いったい竜が何で女の子になるんだ?それが疑問でならん!!」
「・・・いいか、輝。言葉は知っていて初めて意味のなすものとなる。知らなければ意味がないからなぁ。おまえは知ろうとしない、もしくは知っているのに気が付いていないだけじゃ。それに、そういうことは生きている誰かに聞くことじゃ。さて、なぞなぞはこれで終わり。さらばじゃ。・・・・礼を言うぞ輝。今回はシリアスなおじいさんを演じることができた。」
「よく言うぜ、まったくいつもとかわらないくせして・・・・」
そして、俺はこれ以上何も教えてくれないだろうと思われる爺さんと別れたのであった。
ここで予告しておきますが・・・・まだまだ竜は出ると思います。いや、二桁になる可能性は余りありませんが・・・・少なくとも後、二匹?は出ると思います。