スタートラインにはまだ足りない!!
八、
「まさか二人が入ってきたのに気が付いていなかったのかい?」
ぐ、普通にあの二人は入ってきていたのか?考え事をしていたのでまったく気が付かなかった。これは俺が悪いのか?
「・・・・おばさんが仕掛けたんですか?」
「そんなことするわけないじゃないか。あの二人が自ら言ってきたんだよ。」
え、そんなことってあるのか?クラスの中で唯一彼女のいない俺のために神様が与えてくれたイベントか?
「ほら、鼻の下を伸ばしてないでさっさと朝飯を食べてくれないか?」
「あ、は、はい。」
俺はさっさと着替えて一人で先に朝食を食べに行った。ちなみに今日の朝食は卵かけご飯であった。
朝食も食べ終わった後、おばさんのところに向かった。おばさんの家に伝わるらしい、なんだかわからない格闘技を教えてもらうためである。
「さて、おまえはまだまだ基本にもたどりつけていないので、今日、それに入りたいと思う。」
「はい、わかりました。」
おばさんは確かに強いが、稽古では俺に何にもしてこない。おばさんが言うには実際にその場でその習ったものを試せということだ。まぁ、今のところは町の不良に絡まれたことぐらいしかないからいいのだが、もしかしたら加奈みたいなことがあるかもしれないのでこれからは真剣にやっていきたいと思ったのだ。
午前中はその稽古をずっとやり、午後からはおつかいである。
「輝さん、どこに行くんですか?」
「ちょうどいいわ。輝、この町を教えてよ。」
葵と加奈もいっしょについてきた。ああ、なんだか嬉しいきぶんだぁ。
「まずはおつかいを頼まれているから先にそっちを終わらせて、その後に加奈たちにこの町を教えてやるよ。」
おばさんから頼まれたものは次のものである。シャンプー、リンス、卵、トマト・・・・あと、看板。看板以外は何とかなりそうだが、看板なんてスーパーに売っているのか?俺は一度も見たことがないが・・・・。ああ、なるほど・・・・これはどこかの道場に行けばあるかもしれないな。売っているかは謎だが。
このとき俺はそんな簡単に考えていたが、甘かった。多分、糖分に換算した場合は間違いなく糖尿病になっていたに違いない。
スーパーで頼まれたものほとんどを買うことに成功した。このミッションは簡単であった。そして、俺は今、二人に町のいろいろなところを教えている。
「・・・・で、ここが俺がよく行く店かな?」
「へぇ、輝さんって本屋によく行くんですね?」
「どうせ、エッチな本を立ち読み、もしくは年齢偽って買っているんでしょ?」
ぐ、うるせぇな・・・今日はあの爺さんとこにお供え物をしようと考えていたが、この二人がいたら不可能だ。今日は諦めよう。
「この町は裏通りなんかはちょっと危険だから二人とも気をつけてくれよ。危ないお兄さんやおじさんについていったらだめだからな?特に、物で釣ってきそうな奴と甘い言葉で誘惑してくるなんて奴は言語道断だ。」
ちょっと、保護者っぽいことを言ってしまったが別にこの二人なら大丈夫だろう。あれ、何でそこで俺を見るの?
「私は物でつられて今、ここにいますよ?」
「私は甘い言葉で今ここにいるわよ?」
あ・・・・。
「・・・・俺は危なくない人間だ。」
「どうでしょうかね?」
「そうよね、あやしいもんよ。」
ぐ、返す言葉がみつからねぇな。いや、俺は安全な人間だ!!
とりあえず本屋から離れてとある方角に歩き出す。安心してほしいが別に路地裏に行くわけではない。俺が一度も来たことがないところである。おばさんから昔聞いた話だが、そこら辺にはいろいろな道場があるらしい。もしかしたら看板が売っているかもしれない。
そして、俺は目に入った道場に適当に入った。多分、ここまでは良かったに違いない。この後の行動が間違いだったのだ。
「すいませーん、看板ください!!」
謎の拳法や木刀を振り回していた人物たちの視線が俺に突き刺さる。間違いなくこの視線は俺を敵と分析したに違いない。なぜだ?
「・・・・輝さん、なぜこんなところで道場破りなんてするんですか?」
へ、道場・・・破り?
「ほら、ここのボスみたいなやつが輝のところにきたわよ。がんばってね?」
加奈が指差す方向には熊のような男がこっちに歩いてきていた。その目には間違いなく獲物を狩るときの熊の目をしている。
「ほう、貴様みたいな貧弱な野郎が俺たちを倒しにきたのか?・・・試してやろう!!」
思いっきり振りかぶった拳を俺の平均的だと思っている顔に・・・いや、やはりあんなぱんちを食らったら間違いなく今より酷い顔になるに違いない。だが、おばさんのものよりスピードは間違いなく遅いので対処可能だ。軽く右に重心を傾けて・・・・相手の手を引きカウンター!!
「てりゃぁ」
「ぐ・・・・」
掛け声がしょぼいのは仕方がない。俺はかっこいい掛け声なんて思いつけないのだ。誰かが教えてくれるのならぜひともそれを使わせてもらいたい。まぁ、とりあえずは相手の・・・なかなかごつい顔に渾身とはいかないが結構威力のあるだろう一撃を食らわせることに成功した。相手は床に倒れ動かなくなった。
「せ、先生!!」
「大変だ!熊先生がやられたぞ!!みんな、今のうちに逃げるんだ。」
うわっ、先生を見捨てて逃げていったよ。道場の反対側の扉を開けて少数ながらいたここの門下生であろう人物たちは我先にと逃げ出してしまった。熊先生と呼ばれた人物はやってきた襲撃者の気を引く材料とされてしまったようだ。・・・・襲撃者であろう俺としてはこれは人道に反すると思うがね・・・。
「・・・ふふ、完敗だ。貴様に看板をくれてやろう・・・・だが、最後に名前を教えてほしい。」
「えーっと、白川 輝だ。」
「そうか。」
未練がなくなったのか熊先生という人物は再び気絶してしまったようだ。これで間違いなく俺の夢に出てくることはないだろう。化けて出てくるのは俺の爺さんだけで十分だ。
「さ、そろそろ帰りましょうか?」
「輝、いつまで突っ立ってるのよ。看板はもらったんでしょ?」
俺は気絶している人物に向かって手を合わせてその場を去った。
ここでこれからの進路予定ですが・・・・そろそろ学校に行くべきではないかと思いました。学校で一暴れ。いや、窓を破ったりするわけではありませんので安心してください。