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五十二章 初めての友達? 2



 アルモニカはイライラしていた。

 三年の教室、左端の前から三番目の席で本を広げて視線を落としつつ、カツカツと桜色の爪がテーブルの盤面を叩く。その度に隣の席のホーリィ・サリベッティが怯えたような顔をするのだが、あいにく視線は本の文面に釘付けなので気付かない。

(何故じゃ。こんなに努力しておるのに、一向に取っ掛かりが出来ぬ)

 セトに大見栄を切った手前、憤然とクラスメイトに話しかけてみるのだが、皆そろって(おび)えたような顔をして、取り繕った笑顔を浮かべ、他愛の無いことを返事して離れていく。

 何故だ。

 怯えるとか、意味分からん。

 クラスメイトを怖がらせる程、話した覚えは一つもない。

(ああ、訳が分からぬ。意味不明じゃーっ)

 切れた拍子に握った(こぶし)を本に叩きつけると、ホーリィは涙目になって「ひぇっ」と悲鳴を上げた。無論、アルモニカは気付かない。

「全く、役に立たぬ本じゃ!」

 何が『簡単に作れる、友達の作り方』じゃ! 実践しても逃げられるばかりではないか!

「きゃーっすいませんすいませんっ、平民のわたくしなんかが隣ですみませんっ。だからどうか蛙にしないで下さいぃぃ」

 金髪を三つ編みにしたホーリィは頭を抱えて小さな悲鳴を上げている。

 しかしやっぱり聞いていないアルモニカは、窓から外へ視線を向ける。ふうと溜息をつく。

 それを見たホーリィは、助かったぁとばかりに安堵の息をついた。

(お父様の言ってることはおかしい。茶を飲めばそれで友達なんじゃなかったのか? まず、茶の席にすら呼べない場合はどうすればいいのじゃろう……)

 黙々と考えていると、担任教師が入って来てホームルームが始まった。簡単な連絡事項を述べ、すぐに終わる。

 教師が出ていくと、教室はざわつきに包まれた。

「やあ、グレッセン女史(じょし)

「む?」

 相変わらず外を眺めていたアルモニカは、声の方を振り返る。クラス委員長のオード・イザルド・アイングラフだ。短い藍色の髪と薄い灰色の目をした少年。南方に領地を持つ貴族で、アルモニカはいけすかない奴と判定していた。

 社交界は女王率いる穏健派と女王の叔父であるエダ公爵率いる過激派に分かれているのだが、貴族の子息が集まるこの学校もまた社交界の縮図であり、魔法使い派と騎士派に分かれている一方で、北と東の領地派閥vs西と南の領地派閥が存在している。今は、エダ侯爵が王座についている為に、西と南の領地派閥が圧倒的優勢だ。三年の教室では、オードが過激派の代表格だった。

 が、そのオードですら、アルモニカを前にすれば少々怯えた顔をする。研究ばかりしているせいで生徒の中で浮いているとアルモニカは勘違いしているのだが、実際は、親しくなりすぎると蛙にされるという身も蓋もない噂があるせいで皆避けているのだ。噂など歯牙にもかけないアルモニカは、勿論そんな事情を知らない。

「オルドリッジ教諭の新任助手が、君に用があるそうだぞ」

 ひきつり気味な笑みを浮かべつつ、オードは教室の入り口を示す。

「助手?」

 片眉を跳ね上げ、入口を一瞥する。

 アルモニカはただ見ただけだったが、きつい顔立ちのせいでクラスメイトには睨んでいるように見えた。だから皆、アルモニカに用があるなんていう勇気ある客人の冥福を祈った。

「ちょっ、ちょっと。誰か止めた方が宜しいんではなくて!?」

「わ、わたくしは知りませんわ。あなたが行けば宜しいのでは?」

「嫌ですわよ、そんなの。ここでこそ殿方の出番ですわ!」

「あいにくとあの方に立ち向かう勇気は持ち合わせておりません。申し訳ありませんね、レディー」

 ひそひそこそこそと互いに役を押し付け合うクラスメイト達。

 戸口に立っている外国人の容貌をした少年――服装からして少年のはずだが少女かもしれない――が、地味な割に何故か思わず手を貸してしまいたくなるような雰囲気をしていたので、女生徒達は揃って悲鳴を上げた。

「きゃああ、どうしましょう。あんないたいけな小ネズミちゃん、真っ赤な猫に一撃でのされてしまいますわ!」

 真っ赤な猫というのは、もちろんアルモニカのことだ。

「いやあ、猫が向かって行きますわ! 誰かお止めしてぇ」

 頬に手を当てて、小さな声で絶叫している女生徒達。声を張り上げない辺りは淑女っぽい。

 だが、アルモニカと少年が幾つか言葉を交わすだけで済んだので、皆、一気に胸をなで下ろした。

「きゃああっ、猫に連れて行かれてますわ。やばいですわ、まずいですわ」

「ききききっと、蛙にぃーっ」

「いやーっ」

 かと思えば、荷物を持って助手の少年と歩き出してしまったので、クラスメイト達は大混乱に叩き落とされたのだった。


      *


「猫とネズミと蛙がどうかしたんですかね?」

 教室を離れてしばらくし、周りに人がいなくなるやオルクスが不思議そうに呟いた。アルモニカでも聞こえるようにと声に出して言った言葉に、アルモニカも首を傾げる。

「そういえば微妙に騒がしかったのう。誰かの使い魔が逃げ出したのではないか?」

「猫とネズミと蛙がいっぺんに?」

 流衣も首を傾げる。考えてみると笑える光景だ。

「まあどうでもいい。それより、さっきの話じゃが。校内を案内してやってもいいが、交換条件がある」

「え」

 まさかそうくるとは思っていなかったので、流衣は軽く衝撃を受けてアルモニカを振り向いた。隣を歩いているアルモニカは、ちらちらと学校を囲む壁を見ている。

「ワシは街に出たことがない故、学生街(がくせいがい)の方に連れてってくれ。一人じゃ少々不安での……」

 言いづらそうにもごもごとアルモニカは言う。

「街に出るのはいいけど、学生街って?」

 そんなことで良いならお安い御用だ。案内出来る程詳しくはないが、アルモニカを一人で放り出す方が余程危なっかしいので、流衣がいる方がマシだと思う。

「アカデミアタウンの通称だ。生徒達は主にこっちの名で呼んでいる」

「へえ、学生の街って意味では分かりやすいね」

「うむ、そうじゃな。それでお主、どこに行きたいんじゃ?」

「一通りぐるっと見て回りたいんだけど……。」

 流衣の言葉に、アルモニカは難しそうな顔をする。

「校舎内も巡っていたら今日中では無理じゃぞ?」

「校舎はいいよ。生徒がたくさんいて怖いから。色んな建物あるから、場所の把握をしておかないと迷子になった時に困ると思ってさ」

 校舎を正門側の道に出た所から右手に見える、高い壁に囲まれた場所を示す。

「例えば、あれって何かな」

「あれは鍛練場じゃ。近くに行ってみよう。……歩くと面倒じゃから転移で行くぞ」

 アルモニカはがしっと流衣の腕を掴むと、呪文を唱える。

「風よ、運び手となりて、我らを道の先へ送り届けよ。トランスポート!」

「ちょっ」

 流衣が何か言う前に、あっさり転移してしまった。

 景色の切り替わりにくらりと目眩を覚える。何度転移してもこれだけは慣れない。

「ここが鍛練場じゃ」

 流衣の腕から手を離したアルモニカは、何事も無かったかのように言う。

 灰色の分厚い壁に囲まれた鍛練場の入口の扉は黒い鉄柵のようになっている。その隙間から中を覗くと、ウィングクロスの鍛練場のように、端の方にカカシが三つ立っていて、あとはだだっ広い空間が広がっていた。何人かの生徒が青色の服を着て剣の素振りをしたり、稽古試合をしている。

「いや、アル。ここまで転移して貰って悪いけど、先に外套取ってきた方が良かったんじゃない?」

 転移する前に、流衣はそれを言いたかったのだ。言う暇がなかったけれど。

「安心せい。この学校の制服には熱遮断やちょっとした魔法ならば防ぐことの出来る防護の陣が刺繍されておる。お陰で、ただの制服にしては恐ろしく値が張る代物じゃ」

 だから寒くないぞとアルモニカはあっさりと言う。

(さ、流石はお金持ちの学校……。僕は物凄く場違いな気がしてきたぞ)

 流衣は内心で怖気づく。二百年続いている学校だからか校舎は結構古いけれど、それがますます格式の高さをアピールしているようだ。門から見るだけなら、学校というより古城のようである。

「お主とて、なかなか良い代物のマントを羽織っておるではないか。それとこのマントは同じくらいの値じゃよ」

「ああ、それくらいか。へえ……。アルって家がお金持ちなのに、意外に金銭感覚しっかりしてるんだね」

 家から出たことがほとんど無い割に、その辺の感覚がしっかりしているので驚きだ。

「クソ爺の所におれば、嫌でも金勘定が出来るようになるわ。あの爺も校長と同じで金好きだからのう。研究の材料費のことでよく喧嘩しておったせいか、身についてしまったんじゃ」

 はんと鼻で笑うアルモニカ。様になりすぎていて、思わず拍手したくなった。

「あ、危ない!」

 その時、誰かの叫ぶ声がした。入口からそっちを見たら、何か銀色のものがくるくると旋回しながらこっちに飛んできて――

 ガンッ!

 扉に当たって弾かれ、地面にぐっさりと突き刺さった。

 二人してそれをぽかんと見つめ、ほぼ同時に距離を取る。今更遅い。


「うっわ、剣!?」

「何じゃ敵襲か!?」


 狼狽する二人に対し、呑気な声がかかる。

「おう、わりいわりい。勢い余ってぶん投げちまった」

 粗野な言葉で謝ってくる少年は、流衣達の方まで歩いてくると、アルモニカを見てぎょっと身を引いた。

「げっ、グレッセン女史! すみませんでした、先輩! だから蛙にはしないでくれ!」

 突然、頭を下げてきた少年に、アルモニカと流衣はきょとんとする。

「蛙……?」

「アルって誰かを蛙に出来るの? そういう魔法ってあるんだ」

「って出来るか、ド阿呆! ワシは闇魔法使いではないのだぞ!」

「いだっ、本で殴らないでよ!」

 薄っぺらい教本でとはいえ、思い切りはたかれて流衣は頭を押さえてうめく。

 というか、何。闇属性の魔法には、人を蛙にする魔法があるのか?

 疑問に思っていると、カッカと湯気を頭から出しかねない勢いで怒っているアルモニカは、くどくどと流衣に小言を言う。

「第一、呪いとて人間の姿形を変えるものなど存在せぬわ! 変身の術を使えるのは、竜族のみと相場が決まっておろう! 本当にお主は物を知らぬ奴じゃ!」

『あとはわてみたいな上位の使い魔だけですよ』

 オルクスがえっへんと胸を張って付け足す。

「お主もじゃ! ふざけたことを抜かしておると、その口、糸で縫うぞ!」

 ぶち切れたアルモニカは、猫を被ることも忘れて怒鳴る。怒鳴られた少年は肩をすくめたが、すぐに笑みを浮かべた。

「あ、なーんだ。やっぱりあの噂ってガセだったんだ。そうっすよね、いかにそれっぽくても、蛙になんて出来ねえよな」

「それっぽいとはどういう意味じゃ!」

 それにまた髪を逆立てて怒るアルモニカ。流衣はまあまあと宥める。

「アル、落ち着きなよ。友達作りたいんでしょ、笑顔笑顔」

 頬に指を押し当てて口角を引き上げてみせると、アルモニカはむうと黙り込み、無理矢理笑った。引きつった笑みだ。

「ぶっ」

 思わず吹き出してしまうと、また本で殴られた。痛い。

「お主、ワシをおちょくっとるのか……?」

 ひいいい。怒りのオーラが半端ない。

 青ざめる流衣だが、少年の物問いたげな視線を感じてそちらを見る。

「お前、セト先生の助手だろ。えーと、名前忘れたけど。今日、クラスに来てた」

「ルイ・オリベです。あのクラスの生徒だったんですね、気付かなくてすみません」

 出来るだけ生徒と仲良くしたい流衣である。慌てて謝る。

「いや、それはいいんだが。……グレッセン女史と知り合いなのか?」

「ふふん。ただの知り合いにあらず、友人じゃ!」

 誇らしげに胸を張るアルモニカを、流衣はやや呆れて見やる。

「アル、良いの? 淑女っぽい話し方しなくて……」

「いいんじゃ、もうすでに使っておるから今更じゃろう」

「まあ、君が良いなら良いんだけどさ」

 そう答えながら、流衣は少年に向き直る。

「アルとは〈塔〉で知り合った友達なんです」

「ふーん……。〈塔〉所属には見えないけどな」

 じろじろと見てくる少年は、薄茶の髪と灰色の目をしているやんちゃそうなお坊ちゃんという印象だ。流衣より背が低いし、十二歳かそこらだろうと思う。

「僕は杖連盟には所属してないので、違いますよ。前にヘイゼルさんに新人と勘違いされて料理作らせられたり、ヘイゼルさん家に引きずられてったりして、こうなってますけど」

 大急ぎで両手を振って否定すると、少年は面食らった顔になる。

「魔法使いなんだよな?」

「はい」

「無所属?」

「ウィングクロスには属してます」

「……ふぅん」

 品定めをするようにじろじろと見てくる少年に、笑顔が引きつりかけてきたところで、アルモニカが口を挟む。腰に手を当て、胡乱気に少年を見る。

「そもそもお主はさっきから何なのじゃ。名乗りを求めるのに対し、自らは名乗らず詮索ばかり。最低限の礼儀もわきまえておらぬのか、未熟者めが。一年とて、ワシは容赦はせぬぞ」

 確かに容赦ない口ぶりだ。

 辛辣な物言いに、流衣は内心で感心する。有言実行で小気味良い。

 アルモニカに睨まれて、少年はうっと顔をしかめ、急いで口を開く。

「俺はクレオドール・ジャック・レーネス。レヤード侯爵家の家臣で、レーネス伯爵家の跡継ぎだ。呼ぶ時はクレオ様でいーぜ」

 何気なく紹介を聞いていて、流衣はぎょっとした。

(ディルの実家の家臣! あ、でも何か納得)

 鍛練場で剣を振るっているのがよく似合っている感じだ。顔立ちは良いのだが、どこか野性味溢れる雰囲気だ。口調も粗っぽいが、爽やかな雰囲気のせいで嫌な感じではない。

「お主は我が校の校訓を忘れたのか? 『ひとたび門をくぐれば、皆、背筋を正せ。そこに身分の差別はあらず。ただ高め合う同志あり』この格調高い言葉を!」

 何か悦に入っているアルモニカ。どうだ素晴らしかろうとキラキラした目で問うので、流衣は苦笑を浮かべつつ肯定する。

「そ、そだね。すごい、アルが先輩っぽい」

「抜かせ。ワシは先輩じゃ」

「ええー、先輩。そんな校訓ありましたっけ?」

「クレオ、お主、何をとんちんかんなことを言うておる! 生徒手帳の第一ページ目に書いてあるじゃろうが!」

 さっき知りあったばかりだろうに、旧友みたいに怒鳴りつけているアルモニカに、クレオはムッとするどころかケラケラ笑っている。アルモニカに怒られて笑ってられるなんて、将来大物になりそうだよ、君。

「クレオ、いつ戻ってくる気だよ」

「そうですよ。ロイスの相手ばかりではつまらないです」

「うるせーよ、一言余計だディオン」

「ディオンじゃなくてディオヌです!」

 鍛練場の奥から、模擬剣(もぎけん)を手にした少年が二人、文句を言い合いながら歩いて来る。

 二人はアルモニカを目にした時点で顔色を変えたが、クレオの取り成しで硬直が溶けた。

「蛙……蛙……」

 耐えきれずにアルモニカに背中を向けて流衣が笑いをこらえていると、怒りで顔を真っ赤にしたアルモニカがぶち切れた。

「ええい! 笑うな、馬鹿者めが! いいか、あのクソ爺にばらしおったらお主、明日の朝日を拝めぬと思えっ!」

「ぎゃあ、ごめんなさい! ヘイゼルさんには黙ってるから! すみませんでした!」

 がっしりと襟首を掴まれた上、視線だけで(りゅう)を射殺しそうな殺気のこもった目で睨まれ、流衣はすぐさま白旗を振る。ひいいい怖いっ。

「何やってんだよ、お前ら」

 流衣が泡をくっていると、呆れた声が割り込んだ。

「わーっ、リド! 助かったーっ!」

 どういうわけか茶トラのデブ猫を腕に抱えているリドが、濃緑色の用務員の制服姿で立っていた。

 チャンスを生かし、逃げ出す流衣。ささっと二メートルばかり安全圏を確保する。

「姫さんもさ、もうちっと淑女らしくしろよ。神殿の奴らが泣くぜ?」

「其奴が悪いんじゃ。ワシが乙女ということを忘れておるのがいかん」

 唇を尖らせて反論するアルモニカ。

「「乙女……?」」

 思わず声を揃えてしまったら、どぎつい視線が飛んできた。流衣は更に一歩退いた。アルモニカは鼻を鳴らし、視線をリドの抱えるデブ猫に据える。

「ふん。しかし、何じゃその不細工な猫は」

「ああ、これ? 迷子になってたのを探してて、さっき捕まえたんだ。女子寮の寮監に届けに行くとこ。そしたらお前らが騒いでるのが聞こえてきたからよ。ほんと(やかま)しいぜ、お前ら。百エナ・ケルテル先からでも聞こえたぞ」

 リドはややうんざりした様子である。

 だが流衣は気に留めず、猫を見て目をキラキラ輝かせる。一方、肩の上のオルクスはそんな主人の態度を見て、「猫ごときが」と猫を睨んだ。

「猫だ。可愛いなあ。使い魔? 飼い猫?」

「さてな。貴族様の猫だから俺は知らん。あー、ルイ。俺、今日は帰り遅くなるから、アランザ家具店の対応しておいてくれよ」

「ああ、うん。十八時だったっけ? 分かったよ、任せといて」

「では、失礼しました。お坊ちゃん方」

 本当にただ通りかかっただけらしい。ついでというように用事を頼むと、リドは流衣達の後ろにいる貴族の子息に一礼してから去る。

「かっけー! なんだあの人。なんなんだ、あの格好良さ!」

 リドが立ち去った後、何やら感動しているクレオ少年がいたが、友人たちの反応は冷たい。

「そうですか? ただの使用人ではないですか」

「そーそー。俺は断然、ヴァン様派だな。あの漆黒の静かなたたずまい。憧れるぜ!」

「何言ってるんですか、ご当主様が一番に決まっているでしょう!」

 ディオヌとロイスはそう言いながら、どこかで聞いた名前を出してもめている。

「家具店がどうかしたのか?」

 そんな少年達を尻目に、自分の興味を優先するアルモニカの問いに、猫を見かけて上機嫌になったままで流衣は返事する。

「校長先生が用意してくれた家がゴーストハウスでさ、あのままだと怖いから、一部改装するんだ。何せ、天井も壁も真っ黒なんだよ」

「ほう。ゴーストが出るような瘴気(しょうき)だらけの家なのか? 出張で浄化してやろうか」

「ははは。変な人が住んでただけで、そんなんじゃないよ。ああでも、暇な時は遊びにおいでよ。地の曜日ならリドもいると思うし」


「「行く!!」」


「へ?」

 アルモニカならともかく、クレオまで返事をしたので流衣は目を瞬いた。アルモニカがしらっとした目でクレオを見る。

「何故、お主が返事をする。家に招かれたのはワシじゃ!」

 アルモニカの方が年上だと思うが、クレオと身長がほとんど変わらないので同級生に見えなくもない。

「へへーんだ、先輩。助手と俺は友達なんだから良いだろ」

「友達!?」

「いつからじゃ!」

「たった今。俺が決めた。決定!」

 アルモニカは口をへの字に曲げた。

「何じゃその屁理屈は! お父様が言っておったぞ、一緒にお茶をしたら友人なんだと! お茶をしておらぬではないか!」

「ええ、そこ!?」

 流衣は思わず突っ込みを入れてしまう。

 真剣な顔ですっとぼけたことを言っているアルモニカを、クレオとその友人二人も唖然と見つめた。天然記念物でも見るような目で。

 クレオはにやりと笑み、指を振る。

「ちっちっち、先輩、そりゃ違うぜ」

「む? 何がじゃ?」

「友達っていうのはな、自分が友達って決めればそれで友達なんだ」

「そういうものなのか!?」

 目から鱗が落ちたという様子で話に食い付くアルモニカ。クレオは更ににやっと笑う。

「先輩、友達を作りたいらしいじゃないですか。いいでしょう、このクレオドール・ジャック・レーネス。友人作成の指南役になって差し上げます!」

 アルモニカの濃緑色の目が期待に輝く。

「おおっ、真か! それは是非宜しく頼む! 何じゃ、良い奴ではないかお主っ!」

「ってわけで、お邪魔するけど良いよな? 助手さん」

「は……」

 いい笑顔で問うてくるクレオを見て、瞬時にそれがアルモニカを丸めこむ策だったと気付く流衣。

(う、うーん。でも、アルに友達みたいなのが出来そうだし、いいのかな……?)

 流衣は少し悩んだものの、結局頷いておいた。

 まあ、貴族が来たとして、アルモニカがいるのならまずい事態にはならないだろう。……多分。




 もっとスピーディーに行けたらいいんですが、ゆっくりじゃないと無理そうです。のんびりした気持ちでお付き合い下さい。 

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