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おまけ召喚 第三部 雪深き学び舎に潜む影  作者: 草野 瀬津璃
第十一幕 侵略するは黒き闇
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六十二章 異変 2



 その後、幾つかの班を見送った頃、流衣はおかしい事態に気が付いた。

 何人かの生徒の服や髪に、アルモニカについていたみたいな記号じみたゴミがついているのだ。

 それには触れず、リストのチェックとハンコを押すだけで通したが、腑に落ちない。

 まるで無作為に選んでいるみたいに付いている。

「アル狙いじゃないのかな……?」

 敷物に座っているリドに顔を向けると、リドも難しい顔をしている。

「さてな。狙いをばれないようにする工作なのか、本当に適当に呪いをつけてるんだか分からねえよ。狙いが分からねえ」

 全くもってその通りだ。

「焦っても仕方ねえ。様子見してようぜ」

「うん、そうだね」

 そうして更に十組ほどが通り抜けた頃、オルクスが戻って来た。残りは二十組だ。全校生徒なのでなかなかに数がある。

「坊ちゃん、呪いの文字をつけられている者は、皆が皆、魔物の的になっているわけではないようですね。意味の分からない単語の断片もあります」

 オルクスが小声で教えてくれたことに、流衣とリドは更に頭を抱えた。

「意味分からない。何がしたいんだろう」

「そもそも、術者はどこにいるんだ?」

 警戒たっぷりに周りを見て、リドは周囲に呼びかけた。

「精霊、ちょっと行って、怪しい奴がいないか見てきてくれないか」

 そう声をかけた途端、ひゅうとリドの前で風が渦を巻き、突風を起こして吹きすぎていった。木々がざわざわとざわめく。

 やがてしばらくして再び風がざわめきとともに戻ってくると、リドは首を振った。

「この森の周辺にはいないってよ。町の方には不穏な気配があるが、姿が見えないらしい」

「町? 皆、町で文字をつけられたってことかな?」

「それなら、まだ分かるな。町や魔法学校には魔物避けの結界がある。そこから出て初めて効果が出たってんなら、分かりやすい理由だ」

 何したいのかは分からねえけど。

 冷静沈着に呟くリド。不愉快そうに眉を寄せる。

「理由は不明だが、アルモニカを巻き込んだのはムカつく」

 流衣も眉を吊り上げ、同意する。

「そうだね。犯人、捕まえなきゃ」

 ただの愉快犯にしても放置出来ない。

「面倒くさそうな相手ですね。一つ一つは小さすぎて、鼻の効く者でもよくよく見なければ気付かないでしょう。あの白竜や黒竜が見過ごすのも頷けます。わてとて、坊ちゃんが触ろうとしなければ、気付きませんでしたし」

 オルクスがぼやくのに、リドは笑う。

「呪いをゴミと勘違いする奴はそういねえだろうしな!」

「嬉しくないよー」

 流衣はがっくりと肩を落とす。

 なまじっか魔力が大きいのも考えものだ。“見えてしまう”のだから、気になるわけで。

「あ、サイモン君だ……」

 第三エリアから近付いてくる班を見て、流衣は緊張を覚えて一歩退いた。

 ふいっと学校を休んで、また出てきたりするサイモンだが、今回の課外授業はサボらずに出ているらしい。真面目なのかそうでないのかさっぱりだ。

「あのディルのとこの家臣もいるぞ」

「ほんとだ……」

 クレオも一緒にいる。

 心なしか、サイモン以外の五人は、サイモンとやや距離をあけて歩いている気がする。気まずそうだ。

 流石は敵ばかり作るサイモン。全学年にわたって危険視されているなんて流石としか言いようがない。

 斜め上の方向から感心しつつ、受付をする。

 その間、クレオが物言わずにじっと睨んでくるので居たたまれない。

 使い魔対決以降、すっかり敵視されてしまった。


 バキメキメキ、ドシャーン!


「ぎゃっ」

 雷が落ちたみたいな物凄い音が突然響き、流衣はカードにハンコを押しそこなって、変な位置に押してしまった。

「あ」

 それに焦るも、音の正体の方が気になって振り返る。

 第四エリアの向こうから、生徒達が十人ほど、慌ただしく駆けてくるのが見える。

「逃げろー!」

「りゅ、竜よ! 竜が出ましたわ!」

「やばいやばいやばい死ぬ―――! いや――っ!」

 青い顔をして、全力疾走してくる生徒達は、口々に不穏な言葉を叫んでいる。

 そのうちの一人、金髪を三つ編みにした女生徒が、人の姿を見て気が抜けたからか足元がおろそかになって転ぶ。

 その後ろ、木を倒し、地響きとともに水色がかった白銀に輝く(ドラゴン)が、グギャアアア! と空に向かって吠えた。

 その声に気圧されてか、すくんだまま動けないらしい。

 進路に少女がいるのに気付かずに歩いてくる竜を見て、あっけにとられていた流衣は、とっさに結界を張る。

「〈(かべ)〉!」

 音もなく、光が半円状に展開。少女の周囲に壁を作る。それは竜に踏まれても壊れることはなく、そのまま竜はそこを通過し、こちらにのしのし歩いてくる。

 尻尾を振り回し、周りの木々を倒し、また吠え、血走った青い目で周囲を睥睨する。まさに(ドラゴン)。凶悪そのもの。

「教練用に竜ってやりすぎじゃ……」

 身じろぎ出来ずに水の七を握りしめ、思わず呟く流衣。

「アホか! ここに竜なんかいるわけねえだろ! あの子を助けて、逃げるぞ!」

 耳元でリドが盛大に怒鳴り、腰に提げた二本のダガーを瞬時に構える。

「お前らも逃げろ! って、もう逃げてるか……」

 さっきまでそこにいた、来たばかりの班は二人を残してすでに逃走していた。残っているのはサイモンとクレオだけだ。

「クレオ君、何で逃げないの!?」

 サイモンはともかくクレオがいるのに驚いて、流衣が声を張り上げると、クレオは青い顔のまま剣を構えている。

「う、ううううるせえ! 女残して逃げられるか!」

 それをサイモンが鼻で笑う。

「はっ、単に足がすくんで動けないだけだろ。馬鹿が」

「んだとー!」

 青い顔を一変、逆上して顔が赤くなるクレオ。

「ルイ、お前逃げるのは得意だろ! ちょっとの間、(おとり)になってろ」

「へ!? ぎゃーっ、リド、何すんのさ!」

 ぽんと背中を軽く押されて竜の前に出され、流衣はふらりと前に出てから、目をむいた。大岩のような凶悪な竜の顔がすぐそこにあった。

 流衣は、へらっと引きつり笑いをすると、囮役を全うすべく、小さな爆発を起こす。

「ファイアー! うわぁぁ、ごめんなさいーっ!」

 そして、大声で攻撃したことを謝りながら、すぐさま身を翻して遁走(とんそう)する。クレオ達のいない、森の奥を進路に取る。

 爆発にのけぞった竜は、案の定、獲物を流衣に定めた。のしのしと流衣を追いかけて歩きだすので、その横を通り抜け、リドは女生徒の元に駆けつける。女生徒は、結界の中で目を回して気絶していた。

 それはそうだろう。普通はそうなる。

「ルイ! 結界、解除しろ!」

「ひー! 分かったから、この状況、どうにかしてー!」

 結界が消え、女生徒を救出すると、リドは女生徒を背負い、クレオとサイモンのいる地点まで戻る。

「すみませんが、彼女を宜しくお願いします」

「え!? おいっ!?」

 クレオに女生徒を預け、すぐさま身を翻すリド。サイモンがそれを面白そうに見る。

水晶竜(クリスタル・ドラゴン)か。極寒地帯の洞窟にしかいねえのに、また異常行動か? しかしここは校長の結界内。となると……」

 何やらぶつぶつと呟いているのに、クレオは青い顔で叫ぶ。

「なに悠長にしてるんですか、先輩! 逃げないと、食われますよ!」

 幾らか自身より上背のある女生徒を背負い、必死に言うクレオ。

「きゃんきゃんわめくな、うるさい。水晶竜の背に生える水晶、それに生えるコケは貴重な薬草になる。せっかくだから採取してくる」

「はあー!? 先輩、頭どうかしちゃってんじゃないですか!? 変人変人思ってましたけど、頭いかれてるんでしょ!」

「……殺すぞ」

「スミマセンデシタ!」

 頬の真横をスローイングナイフが駆け抜け、頬に切り傷をこしらえたクレオは、自らの失言を即座に謝った。サイモンの金の目には物騒な光が宿っていて、竜よりも恐ろしく見えたのだ。

(前に教祖様があのコケが欲しいって言ってたんだよな……)

 良くも悪くも、サイモンの世界は教祖中心に回っている。竜を倒す気はないが、採取するくらいは出来るだろうと踏んで、あっさり空に羽ばたいた。

 サイモンの姿が遠のくと、クレオは懲りずに呟いた。

「やっぱおかしい、あの先輩……」



 流衣は森を駆けていた。

 薮があってときどき服が枝に引っかかるが、後ろから追いかけてくる大きなトカゲが怖くて立ち止まれない。

「だから森に一人とか嫌だったんだよーっ! なんで竜が出てくるの!? この森、そんなにレベル高いのーっ!?」

 半泣きでわめきながらも、必死に走る。

 緩やかな坂道があることはあるが、ほぼ平坦の森なのでなんとか立ち止まらずに済んでいる。

『水晶竜は、寝ているところを起こすと凶暴ですが、普段は洞窟で寝ているだけの大人しい部類です。その背の水晶は高値で売れますし、水晶に生えるコケは高価な薬草として取引されておりますよ。ほら、ご覧下さい。ブレス攻撃もないですし、危ないのは牙と爪だけです』

 横を飛ぶオルクスは、能天気に解説する。

「その牙と爪が問題なんだよーっ!」

 ひぃぃと泣きそうになりながら、流衣はオルクスに抗議する。

『うーん、確かにそうですね。あの血走った目! 睡眠不足みたいです』

「問題悪化しただけじゃん!」

 流衣は更にゾッとする。

 睡眠不足なら、どうぞその辺で丸まってお休み下さいっていう感じだ。誰も止めないから。

 オルクスはひらりと流衣の側を離れると、水晶竜めがけて滑空する。そして、その小さな足で、水晶竜の横っ面を蹴り飛ばす。

「グギュルアア!?」

 蹴り飛ばされた水晶竜は、横に一回転して転んだ。

 流衣は足を止め、ぜいぜいと肩で息をしつつ、目を白黒させる。

「えー? ほんとにその姿でも強いの?」

『身が小さい分、タイミングが必要ですがね』

 ひらりと杖のてっぺんに舞い降りたオルクスは、しれっと返す。

「前にスノウギガスに吹っ飛ばされて、目を回してたじゃないか」

『不意打ちには弱いのです。制約がかかっているので、気合を入れないと防げないもので』

 なんだか色々と調整が大変みたいだ。

(っていうか、気合で防げるのがすごいというか……)

『魔法とて、この姿では制約がかかるので、大魔法は使えませんから。まあ、レベルより質で押すので問題はありません』

「そうなんだ……」

 初めて聞いた事実に、一応はいつもは手加減しているんだなと思う流衣。リドと喧嘩している時も、手加減しているのだろう。でなければ、リドがああしてピンピンしていられるわけがない。

「おい、無事か!」

 ざざざっと草の鳴る音がしたと思ったら、頭上からリドが降って来て、華麗に着地した。

「うん、無事だけど。どこから来たの?」

「木を伝ってきた」

 流衣は思わずすぐ側の木を見上げた。

 身軽なだけはあるが、実際にそういう動きをした人は初めて見た。すごい。

「囮にして悪かったな。あの女生徒は無事だ。他の生徒に預けてきた」

「良かった……」

 流衣がほっと胸を撫で下ろした時だ。のたのたと身を起こした水晶竜の背中に、黒い影が降り立ったのは。

「ええ!? サイモン君、何してんの、危ないよ!?」

 が、サイモンにはじろりと睨まれただけで、返事はなかった。

 なにやら竜の背中にしゃがんで何かしていたサイモンだが、左手に緑色のふかふかしたものを持って、すぐにその場を離れた。

「あのガキ、どさくさに紛れて薬草採取とはっ」

 オルクスが憎々しげにうめいている。

「まさかサイモン君の仕業じゃないよね!? この竜!」

 つい抗議してしまうと、近場の木の枝に降り立ったサイモンは馬鹿にするみたいに鼻を鳴らす。

「お前、俺が竜を呼び出せると本気で思ってんのか? おめでたい頭してるな」

「ううっ」

 そんな、本気で見下した目で見なくてもいいじゃないか。

 流衣は精神的ダメージを受けた胸に手を当てる。

「じゃあな。コレを回収できりゃ、用はない」

「ちょ、ちょっとサイモン君ーっ。後生だからせめて報告しといてーっ!」

 飛び去る背中に必死で叫ぶと、右手を上げて応える。

「覚えてたらな」

 うわあ。報告する気無いんだ。

 流衣は頭を抱える。

「せめて他の先生が助けに来てくれたらいいんだけど……」

「だーっ、ルイ! 他のことはいいから、先にこっち手助けしろ!」

「え?」

 水晶竜に視線を戻すと、水晶竜は竜巻に巻き込まれて動きを止めていた。リドが風を使って進行を押さえてくれていたらしい。

「結界に閉じ込めるなり、植物で動き封じるなりしてくれ! 俺の風じゃ、一時的にしか止められねえ!」

「わ、分かった。ごめん!」

 流衣は慌ててしゃがむと、右手を地面につける。

「地よ、緑の(かいな)()の者を包み、(いまし)めの鎖と成せ! 地這いの鎖(ヴァインズ・チェーン)!」

 足止めの術なら習得済みだ。

 逃げる時にいいなあと思って、真面目に習得した。

 他にも、足元の地面を泥にして動きを鈍らせる鈍重の術とか、氷をはって滑らせる滑氷(かっひょう)の術とか、地味だけれど効果的な術もあって、真面目に習った。落とし穴の術なんてものもある。

 召喚魔法と転移魔法だけ習うつもりだったが、地系統と相性が良いと分かった途端、セトに課題をプラスされてしまったのだ。何でも、理論だけなら召喚魔法と転移魔法だけ習えば分かるだろうが、実際に使おうとするなら、もしかすると神の園まで出掛けなくてはいけなくなるので、最低限でも身を守れないと危ないとかで。つくづくセトは親切な人だ。

 地からしゅるしゅると這いだした蔦は、水晶竜に絡まってその動きを止める。

「グギャッ? グギャアアア」

 じたばたもがく竜だが、動けないでいる。そこへ、〈壁〉の結界魔法をかけ、完全に竜を封じ込んだ。

 結界だけでは心もとなかったので、地の魔法も使った形である。

「……はあ、なんとか封じた」

 流衣はへなへなとしゃがみこむ。杖を握った両手が、真冬にも関わらず緊張で汗をかいていた。

 リドも風を解き、深い溜息を吐く。

「あー、疲れた。あのなルイ、お前、戦闘中に他に意識向けるのやめろよ。まじで死ぬぞ」

 小言がついて、流衣は素直に謝る。

「ごめん。フォローしてくれてありがとう」

 二人して、積雪した地面にへたりこんでいると、空から黒い影が舞い降りて来て、気軽な動作で飛び降りた。

「ご無事ですか、お二方。遅れて申し訳ありません。生徒達から報告を聞き、すぐさま向かったのですが……。おや、すでに解決なされたようで」

 トーリドだった。

 校長であるグレース・スノウリードの旦那であり、校長補佐をしている男だ。正体が黒竜で、人の姿をしているからか、羽もないのに人外の動きで登場したらしい。

「僕達に出来るのはここまでです。あとはどうにかして下さい……」

 流衣がそう言うと、トーリドは表情に欠ける顔で頷いた。

「勿論です。ああ、魔法は解いて下さって構いませんよ」

 そう言い置いて、水晶竜の方に歩いていく。

 流衣は怪訝に思ったが、トーリドの言う事を聞いて魔法を解除した。結界が消え、蔦が地面に戻っていくと、自由を取り戻した水晶竜は動き出そうとする。が、トーリドに睨まれてすぐに動きを止めた。

「どうも初めまして。私、トーリドと申します。あなた、私達の庭で何を勝手に暴れてらっしゃるんですか?」

「グギュルァ……」

 心なしか、水晶竜の睡眠不足の目に涙が浮かんだ気がする。

「起きたらここにいたと? ほうほう。つまりは、私どもの餌になりにきたと、そういうことで宜しいんですね……?」

「グギャ、グギャギャギャ!」

 慌てたように後ずさる水晶竜であるが、怒れる黒竜には通用しない。トーリドは酷薄な笑みを浮かべる。

 その姿が、ゆらりとゆらいだ。

 瞬きの後、巨大な黒竜が森に姿を現し、水晶竜を一口で飲み込んだ。そして、思い切り噛みしめる。

「グギャアアアア!」

 水晶竜の断末魔が響き、黒竜の口内から溢れた血が、ぼたたっと地面に落ちて黒い染みを作る。

(ヒィィィィッ)

 流衣は顔面蒼白で近場の木の影に飛び込んだ。リドも同じく逃げを選び、木を盾にするようにする。

 腰を抜かして木の後ろに座り込む流衣と、かろうじて座りこまずに幹にしがみつくようにしているリド。オルクスだけが涼しい顔をしている。


 ―――パキパキパキパキ、パリーン!


 頭上、どこか遠い所で何かにヒビが入る音がして、ついで、ガラスの割れる甲高い音が辺り一帯に響いた。

 濃い血臭の中、ふわりと人の姿に戻ったトーリドは、口元についた血を拭い、顔をしかめて空を見る。

「ちっ、結界が解けるとは! コレは罠か!」

 うめくように呟くや、黒衣を翻して空に飛び立つ。

「グレース!」

 どこか焦っている様子で、妻のいる方に向かうトーリド。

 置いてきぼりをくらった二人と一羽は、意味が分からず顔を見合わせるばかり。

「なんなんだ? いったい……。―――ってか、マジこええええ」

 ずるずると地面に座り込み、バクバクとうるさい胸を押さえて、心からの恐怖を口に出すリド。

「………こ、怖すぎだよ。トーリドさん、怒ると怖っ」

 流衣もぶるぶる震えながら、わななく声で呟く。

「それはそうでしょう。黒竜は凶暴で冷酷、非情で残忍なのです。こうして人の中で生きている者の方が珍しい。普通なら、人食いドラゴンと恐れられるところです」

 何を言ってるんだというように、オルクスが言うので、流衣は思わず尋ねる。

「じゃあ白竜は……?」

「怒らせれば恐ろしいですよ。竜ですからね。ですが、普通は、水や空気の綺麗な寒い土地で、のんびり過ごしている者が大半です。綺麗な水があれば生きていけますからね。黒竜は肉食なので、たいていは魔物を食べていますから、身の内にたまった毒も相当濃いのです。気性が知れるというものでしょう?」

「あの二人、よく結婚出来たな……」

 リドが心から不思議そうに言葉を漏らす。

「ですから、世にも奇妙で珍しい取り合わせだと申したのです。ほとんどの白竜は黒竜を毛嫌いしてますからね」

「グレースさん、大物だね……」

 あの怠惰な女性が、初めて立派に見えた。というか、変だ。変人だ。いや、変竜か?

「脅威は去りましたし、魔法学校に戻っては? あの通り、魔法学校にかけられた、侵入者妨害の結界が壊れてしまいましたし、何かあったのかもしれませんよ」

 オルクスの言葉に、流衣とリドはまた顔を見合わせた。

 これまでの奇妙な出来事は、これに由来していたのかもしれないと、口に出さずとも互いに思っていた。



 課外授業はおまけにしようと思ったんですが、本編に組みこんじゃいました。

 キリの良い所まで書いたので、ちょっと分量多めです。

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