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五十八章 新たな犠牲者 2



「あれ、リド!?」

 校長室を出て、ホール横を通り過ぎた時、出入り口にリドがいるのを見て、驚いてそっちに駆け寄る。

「今日はゴーストハウスにいるって言ってなかったっけ?」

「夕方からホールの後片付けって言わなかったか?」

 逆に不思議そうに問い返された。

 濃緑色の用務員の服装で、他の用務員と椅子を運び出している。

「聞いてなかったけど。……これ、どこに運ぶの?」

 全校生徒が座るだけの椅子をどこから持って来たんだろう。不思議に思っての問いに、両肩に二つ椅子を器用に乗せて歩きながらリドは答える。

「食堂だよ。いつもはあそこに置いてる椅子なんだ。なんだ、手伝ってくれるんなら手伝ってくれていいぜ?」

 遠回しに手伝えと言っているようだ。

 用務員や侍女や侍従が手分けして運んでいる。大変そうだ。流衣はこの後は暇だから手伝おう。そうしたら早く仕事の件を話し合える。

「オーケー。手伝うよ」

「よろしく~」

 流衣は身を翻し、ホールに入って片隅に鞄と杖を置くと、他の人達に混ざって椅子を運ぶ手伝いをする。花柄の布張りをされた、背もたれ付きの椅子だ。しかもオーク材でそれなりに重量がある。非力な流衣がリドのようにして運べるわけもなく、一つを両手で抱えて運ぶ。

「あ、オルクス。僕、こっちの手伝いしてるから、その間にアルにさっきのこと訊いてきてもらっていい?」

『了解いたしました』

 オルクスは一つ返事で飛び立っていった。

 そして、流衣が三往復目に差し掛かった所で戻って来て、あちらも進展無しだと教えてくれた。

(進展無しかあ。まあ、アルも友達作りから始めてたし、そんなものかな)

 あとはリドくらいか。

 いや、念の為、ディルにも変わったことはなかったか訊きに行くべきかもしれない。

『坊ちゃん、わてもお手伝いしますね!』

 食堂に三脚目を運び終え、再びホールに戻った流衣に、オルクスが明るく言う。

「え?」

 手伝い?

 流衣がきょとんとした時、オルクスは宙でホバリングしたまま、浮遊の術を使った。椅子が十脚、ふわりと宙に浮かび上がり、縦一列に綺麗に並ぶ。それを引き連れ、オルクスは出口から食堂へと向かって行った。

「おおー」

 思わず拍手してしまうと、オルクスが出ていったのと反対にホールに入って来たリドが呆れた顔をした。

「お前が一番驚いてどうする」

「いや、驚くでしょ」

 流衣はそう返しつつ、また一脚持って運んでいく。

(浮遊の術って便利だなあ。僕も覚えた方が良さそう)

 ものすごく必要性を感じる。



 オルクスのお陰でものすごく仕事が早く終わったと、用務員さんを始め侍従や侍女さん達にまで感謝されてしまった。

 何故か流衣に声をかけてくるので、オルクスに言ってあげて下さいと言ったら、変な顔をされた。使い魔の功績は主人の功績でしょう? とすごく不思議そうに言われた。確かにオルクスの立場は流衣の使い魔だが、流衣自身は使い魔扱いをしていないので、変な感じだ。でも、一応丁寧にどういたしましてと返しておいた。あまり不審がられたくない。

 それに礼を言われてオルクスが上機嫌だからそれでいいや。

「俺の方も進展無しだな。せいぜい見かけても、上級貴族が下級貴族を虐めてる現場とか、告白現場とか、そんなんかな。ああ、あと、悪戯してるのも見かけた。ちゃんと上にちくっといたぜ」

 帰り際に寄ったアカデミアタウン内にある雪の雫亭という大衆食堂で、肉料理を口に運びながら、リドはにやりと笑った。

「なかなか濃い生活してたんだね……」

 流衣は唖然とする。

 飄々と雑事をこなしているようだから、何も問題は起きていないのだと思っていた。

「まーな。全部、出くわす前に避けてたから何ともねえよ。貴族のことには関わりたくねえし」

 まあそうだろう。厄介事のにおいがぷんぷんする。

「でもよ、ここまで手掛かり出ないってのも不思議なもんだよな。せめてこう、被害者に共通点とかあればいいんだが」

 食堂の端っこの席だから、小声で話していれば、他の客の話声や食器の音などで話は聞こえない。

 普通に食事をして会話をしているようにしながら、実際は事件の話し合いをしていた。

 ビーフシチューをスプーンですくい、濃厚な味に少し重かったかなあとやや後悔しながら、流衣は考える。

 そういえば、被害者については詳しく教えてくれていない。貴族絡みだから仕方がないのだろうけれど、でも、魔力増幅剤なんてものを望むのだから、きっと。

「魔力が低いのを気にしてる人ってことだろうけど……。でも、流通させてる人が学校内にいない場合は、どうなるか分からないよね」

「学校内で受け渡ししてるとは限らないってことか。それだとなかなか尻尾を掴めないのも頷ける……」

 リドも首を僅かに傾げる。

 なにか腑に落ちない様子で、眉間に指先を当てて、天井を睨んで唸りだす。

「なんか、気に食わねえな。四人目は、シルヴェラントから来た留学生ねえ」

「魔法を使える人が故郷に少ないから、学びに来てるって言ってたよ。遠い所から来たのにこんなことになるなんて、可哀想だよね……」

「でもそいつ、友達いねえんだろ?」

「友達がいないかは知らないけど、貴族からは冷たくされるって言ってたね」

 ますます気に入らなそうに眉を寄せるリド。

「――おかしくねえか?」

「へ?」

 何が? 流衣は目を点にする。リドの言いたいことがさっぱり分からない。

「だってよぉ、そいつ、言葉が不自由で、知り合いも少なくて、で、どこから例のやつの話を仕入れるんだよ。案外、普通に町で売ってたり、もしくは形がそれっぽくないとかだったりしてな」

 流衣は根本的な問題に初めて気付く。

 薬だとかサプリメントだと聞いていたから、形を勝手に丸薬で想像していたが、そういえば実際の形を知らないのだ。

「あれってどういう見た目してるの? 水? 丸薬? 粉?」

「俺が調べた分だと、黒い色をした丸薬だったな。潰す分にはいいけど、水に溶くのはいけないらしい」

「え、いつ調べたのさ」

「これでも俺、薬草学に興味があるんでね。俺が図書館に入るのは無理だから、本屋をうろついたりしてたんだ。そこで見つけた本にたまたま載ってただけだ」

 見習い神官生活以来、リドはすっかり読書家になっている。

 たまにリビングで本を広げて書き物をしていたが、自由にしていいけれど勉強はちゃんとしなさいということで、グレッセン家からウィングクロスの郵便ポートに送られてくる課題を片付けているだけだと思っていた。歴史ならオルクス、数学なら流衣が助言出来るので、たまに手伝っていたのだ。

「僕なんて召喚魔法と転移魔法の文献とか、歴史書とかばっかり見てたのに……。なんかごめん」

 二歳しか変わらないのに、ほんと大人だなあ。

 すっかりへこんでしまう。

「お前にとっちゃ、それが必要なんだから仕方ねえだろ。ここに来るのが第一目標だったんだから、悪いことじゃない。それにちゃんと伝手も作れてる。落ち込む要素はねえ。俺はこういうのが向いてるだけで、つまりは向き不向きってわけだな」

 あっけらかんと諭された。

 うぐぐ。なんか、こうして話していると、リドはグレッセン卿に似ていると思う。相手を不快にさせずに納得させる話し方とか。

 やや短気なところは、それはもうアルモニカとそっくりで、この兄妹は両親のどこからその短気を拾ってきたのか常々不思議ではあるが。言ったら怒りそうだから言わないけど。

「ありがとう、リド。あ、そうだ!」

 流衣は良いアイデアを思いついた。

 もしどこか店で手に入れたのだとしたら、あの人ならファリドの行動を知っているかもしれない。

「モレクさんに話を聞いてみるよ」

「モレク?」

「ファリド君付きの侍従さんだよ。故郷から一緒に来たって言ってたし、ファリド君のよく行く場所とか、ここ最近の話を聞けるかもしれない」

「そりゃいい。そっちは任せる。俺は仕事が無い時にでも、町中見回ってみるよ」

 そうして、リドはにっと口端を上げて付け足す。

「ほら見ろ、お前のやってることも無駄じゃねえんだよ」

「う、ほんとだ。ありがとう……」

 リドは神官向きだ。頼れそうな兄貴分な見た目だし、実際に頼りになる。きっと実家の後を継いだら、良い相談役として信頼されそうだ。

 そんな親友の足を引っ張るわけにもいかない。流衣も流衣なりに頑張ろう。

 流衣は決意も新たに、明日の予定を頭の中で練るのだった。



 またちょっと少なめですが、キリが良いので上げておきます。

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