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幕間9



「……サイモン」

 後始末を部下に押し付け、単身、魔法学校に帰ったサイモンは、男子寮の裏にある池の近くを通りがかった時、名を呼ばれた。無言で振り返ると、池の周り、ちょうど木陰になっていて寮からは見えない位置に少女が一人立っている。

 サイモンより一つ年上の少女は、緩くウェーブをえがいた腰まである薄桃色の髪に小さな薔薇の飾りがついた銀製のカチューシャをしていて、それが空気の薄い彼女の控え目そうな見た目によく似合っていた。まあそんなことはサイモンにはどうでもいいのだが。伏し目がちな橙色の目は、サイモンの足元を見つめる始末。見るからに気が弱そうだ。

 こういう部類の人間がサイモンは嫌いだったが、教祖に学校で見かけたら宜しくと頼まれている手前、無下には出来ない。

 そう、この少女もまた、サイモンと同じく魔王信仰を掲げる〈悪魔の瞳〉のメンバーの一人だ。

「シェリカ、何か用」

 そっけなく問うと、シェリカはこくと小さく頷く。

「使い魔で、見てた。あの噂の子と、随分親しいみたい。……なんか、変」

「何が言いたい」

「……別に。足元すくわれるんじゃないかって心配してる、だけ」

 ぽそぽそと呟くように言うシェリカを見ていてイライラしてきたが、なんとか堪える。

 この女は、没落貴族で、借金のかたに親に娼館に売られかけて、そこを教祖に助けられた。教祖が実家に援助し、学費まで出しているのだ。だから親や貴族社会に失望していて、助けてくれた教祖を妄信している。サイモンから見れば目障りな小物だが、教祖の為になる人材だから邪魔扱いは出来ない。

「ふん、俺がとちるわけがないだろ。余計な心配をするな、お前の仕事に俺は絡まない。この辺りに潜んでるネルソフの炙り出しが今の任務だからな」

 シェリカはちらとサイモンを見た。

「ネルソフ、いるの」

 断定のような疑問。

「まだ分からねえが、教祖様が言うんだから間違いない。何が狙いか見極め次第、こっちで潰しとく」

「……そう。教祖様の言葉なら信憑性が高い。分かった」

 サイモンの言葉は何も説得力を持たないらしい。またイラッとしたが、耐える。

「お前こそ、何かヘマしてないだろうな」

 ふるふると首を振るシェリカ。

「問題無い。――貴族達に混迷を。教祖様のお考え通りに」

 何かの相言葉のようにシェリカは呟く。

「次の週末は白の文学祭。私には都合が良い」

 サイモンはシェリカに背を向ける。

「そうか、何も問題ないならいい」

 が、数歩歩いた所で振り返る。

「だが、失敗した時は覚悟しろ。証拠もろとも俺が始末してやる」

「大丈夫」

 シェリカの表情が初めて動いた。僅かに笑みのようなものを浮かべる。

「教祖様に不利なら、私は自分から消える」

 神を仰ぐような盲目的な言葉に、サイモンは悪寒を覚えた。

 この女の何が気に入らないのか、初めて気付く。

 こいつには個という感情が欠けているのだ。

 頭の中で要注意人物に入れておく。こういう奴は、一歩間違えれば教祖に災いを運ぶだろう。そうなりそうならば、こちらで始末しよう。

「ああ、そう。そうしてくれたらこっちも楽だ」

 そう返し、あとは振り向かずにその場を去る。

 シェリカの温度のない視線が追いかけてくるような気がし、自然と足を速めていた。



 味方にも容赦ないサイモン君です。

 人物関係がごちゃごちゃしてて非常に書きにくい……。でも学校なのに人が少ないのもどうだろうと思うから、出しているよ。

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