五十二章 初めての友達? 3
――友達を作る前に、まず蛙に関する誤解を解くべし。
翌朝。友人作成の指南役になったクレオの助言を受け、アルモニカはさっそく実行に移すことにした。
ホームルーム前で僅かに騒がしい教室内で、手っ取り早く隣席から攻めることにする。
「お早うございます、ホーリィさん」
「うえぇっ!? おはっお早うございます!?」
隣席で鞄から教材を取り出していたホーリィは、驚いた拍子に鞄の中身を床にぶちまけた。
今までこんな風に親しげに挨拶されたことは無かった。
茶色い目を驚嘆に染め、あたふたと荷物をかき集めてから、席に座り直す。クラスメイト達もまた、違和感を覚えて二人に注目する。緊張をはらんだざわめきで教室内の空気が揺れる。
アルモニカはホーリィの挙動を見て、頭痛がしてくる思いだった。怯えられている原因は、やはりあれだ。
「つかぬことを伺いますけれど、ホーリィさん」
「なっ何でしょう。わたくしに答えられることでしたら何でも聞いて下さい!」
人の好いホーリィは、反射的にそう返す。小さな鼻に乗っている大きな丸眼鏡がずり落ちるのを、慌てて眼鏡の弦を持って支え直す。
「わたくし、昨日初めて知ったのですが。なんでもわたくしに蛙にされるという妙な噂が立っているそうではないですか、本当ですの?」
外交モードとなって猫を被ったアルモニカは、いかにも育ちの良いお嬢様という口ぶりで問う。
内心では、そんなへんてこな噂を流した張本人を探し出し、首根っこを引っ掴んで窓から突き落としてやりたいとすら思っていたが、顔や声には億尾も出さない。
アルモニカの質問に、教室中が静まり返った。緊張の度合いが増し、不安と恐れで皆視線を交わし合う。
「うぇ、ええと、そのぉ……」
ホーリィは涙目になる。そうです、と肯定したいけれど、そんなことをしたら自分は蛙になってしまうのではないか?
クラスメイト達の空気とホーリィの態度から真実だと察し、アルモニカは盛大に溜息をつく。
「……はぁ、そうですの。馬鹿ではありませんの? あなたも、あなた達もです!」
アルモニカは勢いよく立ち上がり、憤然とクラスメイト達を睨みつける。
「そんな魔法、この世に存在するわけがないでしょう! 変身の術は竜族のみしか使えないなど、常識でしょう! 全く、下らない! 魔法学校に通っているはずですのに、そんな変な噂を鵜呑みにするなどと修行が足りていませんわ!」
バン!
アルモニカはテーブルを思い切り叩いた。
アルモニカの目が完全に据わっているのを見て、クラスメイト達はいっせいにビクリとする。蛙云々は抜きにしても十分に迫力があった。
だが、誰かが安堵のため息をついたのをきっかけに、教室内は明るいざわめきに包まれる。誰も謝ったりはしなかったが、誤解が解けただけで良しとしようとアルモニカは胸中で頷く。
「そ、そうだったんですかぁ。アルモニカ様って研究にのめりこんでばっかりだから、それくらい出来てもおかしくないって思ってたんです。天才でも出来ないことってあるんですね!」
今までの恐怖から解放されたホーリィは、両手を組んで、それはそれは失礼なことを浮き浮きと言った。
アルモニカの頬が引きつる。
「……喧嘩売ってるんですの?」
「まさか! そんなわけないじゃないですかぁ」
慌てて両手を振るホーリィ。にこにこと嬉しげに微笑むのを、アルモニカは訝しく思う。
「どうして笑ってるんです?」
「え、だって。アルモニカ様がわたくしの名前を覚えて下さってたのが嬉しくて。知らないと思ってました」
「知ってるに決まってるでしょう。クラスメイト全員の名前くらい覚えてますわよ」
この発言には、クラス中がどよっとした。
意外だ……。
誰もがそう思った。
「社交の必要な場では当然でしょう? それに、エアリーゼに住む神官達の名前を覚えるより楽ですわ」
アルモニカは、エアリーゼに住む神官達の名前も全員把握している。入れ替わりがそれなりにある分、エアリーゼの方が大変だ。だが、将来、上に立つ者としてはそれくらいこなすのは当然だと思っている。
「そ、そうなんですか……、神官さんってたくさんいるのに、すごくていらっしゃるんですね」
「家族の名前ですもの、すごくなんかありません」
きっぱりと言うアルモニカに、ホーリィは初めて親近感を抱いた。神官達を家族と表現しているのが、平民であるホーリィには好意的に感じられたのだ。ホーリィも、実家である商家の従業員のことを家族のようなものだと思って接しているから。
そこで担任教師が教室に入ってきた為、会話は打ち切られてしまい、それが少し残念だった。
一方で、見事に誤解を解くのに成功したアルモニカは、これで友人作成への道のりは近くなるはずだと思い、上機嫌でこれからの学校生活に期待した。すでに取っ掛かりが出来ていることには、微塵も気付かなかった。
*
水の曜日。
休日だった火の曜日にリビングの改装を終え、流衣は朝から機嫌が良かった。壁紙の接着剤が乾く三日程はリビングを使用出来ないが、あの真っ黒な部屋が一つ減った意味はとても大きい。もちろん精神的安息の意味で、だ。
今日の講義は二時間目からで、魔法学応用の講義だ。三年生からの選択性だという。今日も聴講するのかと思っていたら、今日は完全にアシスタントだという。教室の前の隅に椅子を置いて待機しておき、必要なら実演の手伝いをする。
「今日の講義は、先週教えた魔法陣の応用だ。簡単な明かりの魔法陣で準備運動をしてから、結界張りを行う」
流衣は椅子に座って講義するセトに視線を据えたまま、おおっと思う。明かりの魔法陣を作ったことはないが、結界張りなら習得済みだ。
「では、まずは私が実際にしてみよう。まず、紙に円を書く。その中央に魔力入りの魔昌石を置く。あとは明かりの呪文を唱えるだけだ」
セトが紙にペンで円を書き、呪文を唱えると、円のすぐ上に光の玉が浮かんで一瞬で消えた。
「このように、魔法陣とは位置の固定を決定する。そして、魔昌石を置くことで、その魔力を動力として、魔力が切れるまで永続的に魔法を継続することが出来る。魔昌石は、術者の代わりというわけだ」
セトは言い、生徒達が持参している魔昌石をテーブルの上に出させ、流衣には白紙の配布を指示する。
「よし、紙は行き渡ったな? 魔昌石の魔力の補給については、前々回に指導した通りだ。実践あるのみ、とにかくやってみなさい」
セトの言葉とともに、教室のあちこちで生徒達が実演を開始する。
前の方の窓際の席に座るアルモニカが見えたが、彼女はつまらなさそうにあっさりクリアした。魔法道具の発明家には目を閉じていても出来るくらいの簡単な作業だと思われる。
流衣も試すようにと紙を渡されて試してみたが、とても簡単な魔法だ。こんなに便利なのに、蝋燭や油を用いたカンテラの方が普及しているのが不思議なくらいである。流衣が安い値段の宿ばかりを選んで泊まっているのがいけないのだろうか。
応用して明かりの魔法道具のカンテラなどを思い浮かべたが、そもそも魔法を使えるのならカンテラなど持たずとも、所持品に魔法をかけた方が手に何も持たずに済んで便利だ。部屋でだってそうで、暗いなら天井に魔法をかけてしまえばいいだけである。
なるほど、簡単な魔法すら学べない一般人には明かりの魔法道具が出回らないわけだ。ということは、出回っている明かりの魔法道具は装飾品としての意味合いが大きいのだろうか?
そんなことを考えながら、明かりを消して、持っている紙を手すさびに回していると、教室の扉が開いた。
黒髪金目の黒い翼を背に生やした少年が気だるげに入室してきて、静かな足取りで教室を横切っていく。そして、後ろの席に座った。
「………!」
あまりに自然すぎて唖然とした。獣人や亜人は人間の生徒に比べればずっと少ないから目立つというのもあるが、どう見ても見たことのある少年だったので驚いた。驚いたというものじゃない、おったまげたぐらいのレベルだ。
え、他人の空似? 本物? それとも悪夢?
口をパクパクさせて少年を見ていたら、セトが少年に注意する。
「こら、サイモン・アーツ。一言くらい詫びを言ったらどうだ。堂々と遅刻してきおって」
うわあ、とうとう自分は耳までおかしくなったらしい。
サイモンって聞こえた。
目をこすったり耳を軽く叩いてみたりしてみる流衣。でもなかなか少年の像は消えない。
「…………」
サイモンはちらりとセトを一瞥しただけで、何も返さない。
「出席日数ギリギリしか授業に出ない、学校にいないことの方が多い。真面目に取り組んでいる他の生徒達に申し訳ないとは思わないのかね」
普段から腹にすえかねていたらしく、小言を口にするセトに、サイモンはあっさり返す。
「俺は魔力がほとんど無いから、魔法なんて学んでも無意味。学校も興味ないが、義理の父親が通えと言うから来ている。その保護者にも咎められたことはない。何故申し訳ないと思わなくてはいけない?」
教室中がざわっとする。あいつがこんなに話してるの初めて聞いた。そんな囁き声が聞こえてきた。
鋭い切り返しに言葉をつまらせるセトに、サイモンは駄目押しする。
「それに、あんたより義父の方が教え方が上手い」
あまりにもあまりな一言に、セトの顔が渋面一色になる。
すると、今度は生徒の一人が立ち上がった。
「そこまで言うのなら、退学したらどうだ? 正直、君みたいな生徒は目ざわりなんだ」
「それは俺の成績がお前より良いからか? オード・イザルド・アイングラフ伯爵」
少しだけ不思議そうに返すサイモン。オードの顔が怒りでだろうか、赤くなる。
「なんだと、貴様っ。私を愚弄する気か!」
声を荒げるオードに対し、サイモンは冷静そのものだ。
「その言葉の使い方は間違っている。愚弄というのは、相手を見下す言葉だ。俺はお前には興味がないから、それには該当しない」
「…………っ」
相手の気持ちを逆撫でする見本のような光景だ。
今にもサイモンに殴りかかりそうなオードをクラスメイト達は止める。
「よせ、オード殿」
「あいつにだけは手を出すな。みんな返り討ちにされている噂を知らんのか」
口々に止めるクラスメイト。サイモンはいつもこうなので、敵が多い。だが嫌悪した輩に喧嘩を売られても、雇ったごろつきをけしかけても、皆ことごとく返り討ちだ。生徒はまだいい。ごろつきの中には命を奪われた者もいるらしいと噂になっている。
「喧嘩を売りたいのならいつでも来るといい。闇討ちでも何でも構わない。ただし義父に手を出す気なら、一家皆殺しくらい覚悟しておけ」
とても面倒臭そうに口にされた言葉に、教室内はシーンと静まり返った。
面倒そうな態度に反し、金の目だけは不気味に光っている。それを真正面から直視してしまったオードはごくりと唾を飲み、平静を装って舌打ちする。
「もういい。貴様の相手をしていると虫酸が走る」
そう言ってオードが席に座り直すのを、クラスメイト達はほっと胸を撫で下ろして見る。
血の雨が降る事態になるのかと戦々恐々としていた流衣もまた、ほーっと息を吐いた。
(サイモン君て、あの態度が普通なんだ……)
流衣の弱気な態度が嫌いだから酷いことばかり口にするのかと思っていた。いや、それもあるだろうけど、普段から辛辣なのならそんなに気にしなくていいのかもしれない。ある意味では正直な分、心をえぐる言葉の破壊力は凄まじいけれども。サイモンと比較すれば、アルモニカの暴言が可愛く思えるくらいだ。
「ごほん。サイモンとオード、君達は後で私の研究室に来なさい」
妙な空気になったのをごまかすように咳払いをしてから、セトは切り出す。
「なっ、何故ですかオルドリッジ先生! そいつはともかく私まで!」
「今は私の授業中だ。教師である私が注意するのは良いとしても、生徒である君が出る幕ではない。感情の制御もこの学校では学ぶべき事柄だ。喧嘩をけしかけようとしたのだから、反省しなさい。そしてサイモンは遅刻したことを反省するように」
わなわなと震えつつ、黙って頷くオード。一方、サイモンはやはり興味が無さそうにセトをちらりと見た。
そして、そこでようやく流衣に気付く。
「オルドリッジ教諭、そいつ、何でここにいるんだ?」
「ん? ああ、彼は私の新任の助手だ。ルイ・オリベという。外国人だが言葉は流暢だ。少々常識が怪しいところがあるらしいから、そこは大目に見てやってくれ」
「ふぅん、助手なのか」
ひぃぃぃ。気付かれた上に視線が痛い。
流衣は顔面蒼白で引きつった頬を無理矢理動かして笑みを作り、初対面を装って頭を下げる。
「よ、よろしくお願いします」
ついでに、サイモンの視線がこちらを向いた途端、肩に乗るオルクスの空気も激烈に悪くなった。イラついているのか、肩に爪が食いこんで痛い。
サイモンは返事はせず、そのままちらりと窓の外を見た。
再開した授業はつつがなく進んでいったが、まさかの事態に流衣は内心穏やかではなかった。
(と、とりあえず、ナイフが出てこないように気を付けよう)
そう固く心に誓い、出来る限りサイモンには近づかないようにする決心を固めた。
*
セトの研究室への道すがら、流衣は首を傾げた。
何故、またもや女生徒達からお菓子を貰ったのだろう。
両腕いっぱいに山になっているお菓子に、疑問がつきない。
「ルイ!」
「ん?」
教室から追いかけてきたらしいアルモニカに呼び止められ、流衣は足を止める。
「セト先生の研究室に行くのじゃろ? 食堂までは同じ道故、ワシも共に行くぞ」
そう言って隣に並ぶアルモニカ。ウェーブを描いた赤い髪が腰の辺りでぴょこぴょこ揺れる。
「うん」
流衣は返事をして、腕から零れ落ちかけたお菓子の包みを抱え直す。それを見たアルモニカの目に剣呑な光が浮かぶ。
「女子どもに餌付けされおって……」
「不思議だよねえ、何でお菓子くれるんだろ。もしかして、遠回しに僕にもっと太れって言ってるのかな」
幾ら食べてもひょろいままの自身を見下ろす流衣。カップケーキやクッキー程度の焼き菓子では、そこまで太らないと思うのだが。
「小さい子どもに飴をやるのと同じじゃろ。この鈍すぎ小動物めがっ」
何やらぷりぷりと怒っているアルモニカ。
いや、意味分からないんですけど。
「そこまで小さくないよ、ひどいなあ! アルだって小さいじゃないかっ」
「ワシは良いんじゃ、女じゃから!」
「背が低いのは僕の民族の特徴なんだから、仕方ないじゃない! 僕だって、兄さんみたいに背が高くなりたいのにっ」
「……なんだお前、兄がいるのか?」
「うん。って、うわあっ!」
右横からの問いに、流衣はお菓子を放り出して逃げに走った。黒い翼を背にした少年が、ひっそりと立っている。
「何用じゃ、サイモン・アーツ。言っておくが、こ奴はワシの友人じゃ。ごろつきどもに相手するように、妙な手出しをするでないぞ!」
廊下の反対側の壁まで逃げた流衣に対し、アルモニカは一歩前に出る。
どうやらサイモンはアルモニカの中でも要注意人物のようで、開口一番に警告した。
「風の姫はその口ぶりが本性か。爺みたいだな」
「うるさいわ、余計なお世話じゃ!」
キッとサイモンをねめつけるアルモニカ。こうしているとタメみたいに見えるが、アルモニカは流衣やサイモンより年下だ。恐らく、サイモンの方が入学した歳が遅かったのだろう。
「安心しろ、風の姫。そいつとは前にちょっと色々あっただけだ。特に、そのオウムとな」
流衣はオルクスを腕に抱え込んだ。
「言っとくけど、サイモン君! オルクスに何もしないで……下さい!」
思わず敬語を付け足したのは、サイモンが怖いからだ。長い物には巻かれろって言うじゃないか。ああ、だからそんな冷たい目で見ないでよ、アル。
「何じゃ、知り合いなのか? また妙な輩と……」
「学校一の変人の座を射止めた変人に言われたくない」
「うるさいわっ、変人と二度も言いおって! 学校で一番危険視されとる輩に言われる筋合いはないわっ!」
売り言葉に買い言葉。騒々しく言い返すアルモニカ。
すれ違う生徒達は、恐怖の対象である男子生徒と女生徒の睨みあいにどよつく。まさかの妙な学校一の名を冠している二人に挟まれている流衣はというと、口出しする勇気がないので恐々と見守っている。
「坊ちゃん、それはわての台詞です故っ。カラス族の子ども、坊ちゃんに迷惑をかけるようでしたら、わてがまた鼻っ柱をへし折りに行きますよ!」
小さな声であるがぎゃんぎゃんわめきたてるオルクスを、サイモンはあっさり流衣の腕から取り上げる。
「ふぅん、こうしてるとただのオウムなんだな」
「失敬な!」
ばたばたと翼を振り回すが、首の後ろを掴まれているせいで動けない。それにぶち切れたオルクスは、サイモンの手のすぐ上に火の玉を出す。
「!」
熱さに思わず手を離したのを見て、流衣はすかさずオルクスを奪い返す。
火の玉はすぐに消えたが、軽く火傷した手をひらりと振るサイモン。不機嫌になることはなく、むしろ愉快げに目を細める。
「だからオルクスに何もしないで下さいってば! オルクス止めるのも大変なんですよ!」
『きーっ、坊ちゃん、離して下さい! このクソガキ、ぎったんぎったんのけちょんけちょんにっ』
「俺じゃなくてオウムを止めるって意味か。ふん」
気に食わなさそうに鼻を鳴らすサイモン。流衣はきょとんとする。
「だって、オルクスに敵う人なんて見たことないから。こないだのスノウギガスくらいじゃないかな、オルクスを放り投げたの……」
「ほう。流石はオルクス様。そんなに強いのか」
感心するアルモニカに、流衣は頷く。
「制約を解除したら、だけどね」
「オウムのままでも強いですよ! 勘違いしないで下さい、アルモニカ嬢!」
小声で反論するオルクスであるが、小さなオウムの姿をしているので説得力はない。
「オウム、今度、俺と手合わせしろ。こちらから出向いてやる」
サイモンはオルクスに一方的に要求を突き付ける。
「出向くって……えーと。住んでる所、教えませんよ僕!」
「調べるからいい」
恐怖の宣言をし、その場をあっさり離れていくサイモン。流衣はオルクスを抱えたままフリーズする。
「何で気に入られちゃってるんだよ、オルクス……」
『申し訳ありません。わてにも分かりません。あの子どもは戦闘能力に自信を持っているようでしたから、その自信を折ってやれば坊ちゃんに関わる気を失くすだろうと踏んでいましたのに……。逆効果だったんでしょうか』
確かに、オルクスは華麗にサイモンの自信を粉砕していた気がする。何故なんだろう。もしかして、単なる戦闘好きの危ない人なんじゃ……。
想像したら怖くなったので、身震いしつつ、流衣は廊下にばらまいてしまったお菓子をせっせと拾い始める。人から貰った物だ。大事に扱わなくては。
「サイモン君のことはともかく、お菓子貰ったからお礼しに行かなきゃね……。お菓子にお菓子を返していいかなあ」
怖いことからはとりあえず目を反らし、お返しについて考え始める流衣。そんな流衣を、アルモニカは呆れた目で見た。
「お主、肝がすわっておるのかおらぬのかどっちなんじゃ。大した奴じゃの」
こんなクラスメイトいたら怖いですね。……どっちも。
でもアルモニカだったら友達にしたら面白そうかもですね。