嘘
SNSで気になる彼女にメッセージを送った。会話の始まりは、しりとり。よくある、話の切り出し方がわからない人間の始め方だ。
日を重ねるごとにメッセージもしりとり以外の会話になり、電話をする回数も増えていった。彼女の返答はすべて、私にとっての理想郷だった。ボケればツッコミが入り、そのたびに彼女が満面の笑みで笑っているのが、携帯越しでも伝わるほどだった。
一週間後、彼女と私は付き合うことになった。出会ったことはなく、SNSでのメッセージと電話だけの関係。いわゆるネット恋愛というものだ。
どれほど仲が良くても、会話が弾んでも、所詮はネット恋愛だ。だが、その所詮が、実際に会うことでより良い関係へ繋がればいいと、私は思っていた。
しかし、お付き合いをして二週間後、私たちは破局という形で幕を閉じた。原因は、私による“プライベートの侵食”だった。
友達との予定をキャンセルせざるを得ないほどのメッセージの量と、頻繁な電話の誘いが、彼女を追い詰めていた。だが私は思っていた。断ってくれれば、そちらを優先するのに、と。
なぜ彼女は断らなかったのか。いや、断らなかったのではなく、断れなかったのだろう。
足りない頭で、何度も考えた。
だが今ならこう思う。彼女にとって私は、ただの電話相手だったはずだ。それでもその時間を楽しみにしていた私を失望させたくないという、彼女なりの優しさだったのだと。
当時の私は、そんなことを考える余裕もなく、「所詮ネット恋愛だ、クソくらえ」と、汚い言葉を吐いていたのだろう。それから他の人と付き合いながらも、彼女のことが頭から離れることはなかった。上書きされることもなかった。
二年の月日が経った。風が冷たくなり始める季節、私は再びSNSで気になる人にメッセージを送った。
見覚えのある絵文字。聞き慣れたツッコミ。アカウントは変わっていたが、すぐにわかった。
来世でまた、SNSでも現実でも出会うなら、この人がいい。そんな、少し厨二じみたことを思ったほどだ。「元気だった?」「この二年、誰かと付き合った?」上司の悪口や、どうでもいい日常の話。そんな他愛ない会話を交わした。趣味の話をし、誰かの愚痴を聞き、ただ言葉を重ねていく中で、やはり私は、この人じゃなければダメなのだと、心の奥で感じていた。
それは、あの頃とは違う始まりだった。以前のような勢いではなく、静かに距離が縮まっていく感覚だった。同じタイミングで、彼女も私も告白のメッセージを送っていた。
画面越しの言葉が、同じ方向を向いていたことを知ったとき、少しだけ笑ってしまった。
それから一週間後、初めて彼女と会った。
画面の中でしか知らなかった彼女が、現実の輪郭を持ってそこにいた。待ち合わせ場所で手を振る姿も、笑い方も、電話越しに想像していたままだった。どこかへ出かけて、くだらないことで笑って、気づけば終電の時間になっていた。別れ際、まだ帰りたくないと思ったのは、おそらく私だけではなかったはず。
言葉よりも先に距離が縮まっていく感覚だけが残っていた。気がつけば、彼女はもう“画面の向こう”ではなかった。こんな奇跡が、私の人生に起こるなんて1ミリも思っていなかった。
これからも彼女と、いろんな場所へ行くのだろう。寒い日にコンビニへ行ったり、眠れない夜に電話をしたり、そんな当たり前を重ねていくのだと思っていた。
ただ、ふとした瞬間に思ってしまう。
こんな甘い恋を、一度は経験してみたかったのだと。




