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第07話 魔法少女はそこにいる

いつも応援ありがとうございます。


感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。

楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。

誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。


稀人族との向き合い方。

 玄関をくぐり、靴置きにリリーの靴があるのを確かめる。


「ただいまー」

「……おかえりなさい」


 小さいながらもリリーの返事が届く。嬉しくて、少しホッとする。

 俺は手早く靴を脱ぎ、リリーの靴の隣にそれを置いて、声のした方へと向かった。



「………」


 制服。

 リリーはリビングのソファに腰かけ、テレビを見ていた。

 机のそばに鞄が放ってある辺り、家に帰ってすぐこの場所に位置取ったのだろう。


『あれがロケットシンボリぃー!? あれのどこが太めの駄馬なんじゃー!』

『へっへーん。減量したんだもの、努力の勝利よ!』


 テレビでは、時代を感じさせる古いセル画アニメが映し出されている。

 アレはつむぎとの話題にも出ていた『マジカルプリンセス・ミルキーマム』の第1期、その第1話だ。


(一緒に見たの、1ヶ月位前だったかな?)


 今にして思えばあの時、彼女はどんな気持ちでこの話を見ていたのだろうか。


『ロケットシンボリ! 前髪リーゼントの差でロケットシンボリの勝利ですー!』

『やったー! さすがはマムだー!』

『優駿の鞍上、謎の女性ジョッキーは一体何者なのでしょうか!?』

「………」


 他人の家に潜り込み、魔法の力で家族になった、魔法少女(ミルキーマム)の行動に。



「……リリー」

「っ」


 リモコンを手に取り、動画を止めて声をかける。

 リリーの小さな肩がびくりと震え、彼女の顔がゆっくりとこちらに向けられた。


「にっ……、………」


 兄さんと声に出そうとした口が、キュッと真一文字に閉ざされて。


 その代わり。

 真っ直ぐ鋭い深い青の視線が、俺からの言葉を強く欲してこちらを見つめる。



「「………」」


 カチカチ、と。

 壁に掛けられた丸時計が刻む針音が、いやに大きく俺の耳に届いていた。



      ※      ※      ※



「んぐ、んっんっ……」


 グラスに注いだ麦茶を、リリーが喉を鳴らして飲み干す。

 話をする前に甘い物を入れた方がいいだろうと用意したそれと、砂糖たっぷりのお煎餅との相性は中々のはず。


「……ふぅ。ごちそうさまでした」


 食べ終えたリリーがウェットティッシュで丁寧に口元を拭き、手を合わせる。

 そんな彼女を隣に座って見届けてから、俺は努めて穏やかに口を開いた。



「リリー。昨日の話なんだが……」

「はい」


 ソファの上で向かい合う。

 ブレザー姿のリリーは、この世の物とは思えないほどに綺麗だ。


 つい昨日まで彼女を自慢の妹だと思ってた俺は、今、彼女にどういう目を向けたらいいのかわからない。

 だからただ、ありのままを映そうと、真っ直ぐに見つめる。



「リリーが魔法少女で、俺達家族を利用するつもりで入り込み、魔法をかけて、自分の都合のいいように操ったって事は、理解した」

「はい……」

「普通に考えて、人の心を強制的に操るなんてのはやっちゃいけないし、その上動機が自分勝手な物だったワケだから、情状酌量の余地はそこにはない」

「はい……」

「リリーのした事は、間違いなく、罪だと思う」

「っ、はい……」


 こう言われるのは予想通りだったんだろう。

 反論も言い訳もなく、神妙に俺の言葉を聞きながら、リリーは険しい顔で頷いていた。


 自分がやらかした事がどれだけダメな事だったのか、それを理解し、後悔している人間の顔だった。


「ごめんなさい……」


 溢れた水が零れるように、彼女の口から謝罪が漏れる。

 涙こそ流してないが、それを堪えるように太ももに置いた手が、ギュッと握りこまれた。


 ……こんな顔は、長々と見ていたいものじゃあないな。



「ただなぁ、それを罰する法律って俺知らないんだよ。妹になりすましたところは詐欺罪に当たるかもしれないけど」


 現実にも、洗脳それ自体を罰する法律というのはない。

 洗脳した後にやらせた行動、その教唆などに罪科が付き、罰せられるのが通例だ。


 そもそも、人が人の心に働きかけて変化を促す事自体は自然な事、だからだろう。


 だから――。



「――だから、魔法がどうの以前に、人を騙しちゃいけませんって話なんだよなこれは」


 騙した人、リリー。

 騙された人、俺。


 だったら。


「リリー」

「はい……」


 俺は優しくリリーに声をかけ、直後。



「軽々しく人の心を操る魔法なんて、使っちゃいけません。めっ」


 ペシッ。


「あいつっ……え、へっ!?」


 注意して、軽くおでこにデコピンを入れる。

 罪には罰を。


「はい。罰則執行、これにて完遂」


 俺からの罰は、これでいい。



      ※      ※      ※



「え、あの、にいさ……」

「以上。俺から悪い事したリリーへの罰はおしまいだ」

「ええっ!?」


 俺の下した裁定が意外だったのか、急にワタワタし始めるリリー。

 いや、だとか、そんな、だとか。口からぽろぽろ言葉を零しながら、全身で挙動不審を表現する。


「いや、あの、兄さんっ。私、私がした事は……!」

「そうだな。悪い事をしたな。でも、俺はそれを俺なりに納得する形で罰したから、俺からはもう何もない」

「ええーーーーっ!?」


 何度だって新鮮な驚きを繰り返すリリーに、俺はもうちょっとだけ自分の気持ちを伝える事にした。

 慌てる彼女の手を握り、ジッと彼女を見つめて。


「いやそんな、だって……!」

「リリー」

「~~っ!!」


 名前を呼んで、俺に向き合うように促す。

 緊張と驚きで興奮しているのか、彼女の青い瞳は潤み、色白だった頬は赤く染まっている。


 それでも聞く耳を持ってくれたと判断して、俺は口を開いた。



「リリー、俺はな。リリーが魔法少女だってわかって、それが本当だったって理解して……すごく驚いたけど、同時に、嬉しかったんだ」

「!」


 リリーは、俺が魔法少女好きだって知っている。

 彼女達のような存在に憧れて、彼女達を支えられるような人になりたいって夢を知っている。

 だから伝わるはずだ。


 ずっと会いたかった存在がここにいるっていう、その喜びを。



「俺の家に魔法少女がいて、俺と一緒に生活していた。俺はずっと憧れの存在と日々を過ごして、兄として、その子の手伝いができてた。それって俺に限った話でいえば、最っ高の日々だったんだよ」


 これは、正しいとか正しくないとかを語る話ではなく。

 俺の気持ちがどうなんだ、って話だ。


「騙されてた? 上等だ。扱き使われてた? 望むところだ。リリーが俺の家に来てからの半年間は、今思い返しても、俺にとっては楽しい思い出しかない。嫌だった、迷惑だったなんて、一切思ってない」

「にい、さん……」

「毎朝の挨拶が面倒臭いとごねてたのも、家事当番決めるの嫌がって、決まった後もしばらくはサボろうとしてたのも……」

「兄さん?」

「悪戯を叱られて泣き喚いてたのも、あれしろこれしろってわがまま言ってたのも……」

「兄さん?!」

「魔法が解けた今も変わらず、やっぱり楽しい思い出なんだよ」

「……っ!」


 そう。

 魔法が解けても、違和感を覚えても。


 俺の心はそれ以上に、彼女との日々を明るく素敵な物だと感じていた。

 異物だなんてとんでもない。あそこにいたのはやっぱり妹で、しかも魔法少女だったんだ。



「洗脳とか関係なく、俺の心がこう言ってるんだ。リリーとの日々は最高だったって」


 嘘偽りなく、断言する。

 突然に沸いた家族だったが、そんな誰かさんと過ごす日常は、良い物だったと。


 例えリリーが魔法少女じゃなかったとしても、彼女という妹がいた日々が、俺にとってはメリットだったと。

 そう、言い切れた。



「だからな、リリー」


 続ける言葉は、俺の望み、俺の願い。

 ただただずっと、俺が持ち続けてきた心に従った言葉。


「これからも、俺と一緒にここで過ごして欲しい。魔法少女であるキミの、助けになりたい」

「!? ぁ……ぁぁ……!」

「そして、さっきからもうずっと、俺の事を“兄さん”って呼び続けてる子の、兄でいさせて欲しい」


 満面の笑顔を見せて、言い切ってやる。



「リリー。どうか、王族の試練が終わるまで。キミがここにいられる限界いっぱい、俺の家族でいてください」

「~~~~~~~~っ!!」



 勢いよく抱き着いてきたリリーを、真っ向から受け止める。


「うぇ、ぇぅ、にいさ……わた、わたし……!」


 胸に感じる湿り気は、リリーが涙を流しているからだろう。

 それが嬉し涙なのだと、俺は確信していた。



      ※      ※      ※



「にいさ、私、ここで過ごした日々が、ほんとに、ほんとうに……幸せで……!」

「うん、うん」

「魔法の国じゃ、パパもママも忙しくて、家族……一緒のごはんとか、なくて……! でも、ここで、御伽守家で、ぜんぶ、ぜんぶできて、うれしくて……! 叱られるのも、その後で、褒めて、くれるのも……! ぜんぶ、ぜんぶ、嬉しく、てっ!!」

「そっか、よしよし」


 吐露される言葉の端々から、察するに余りある感情を読み取っていく。


(リリーの本当の望み。それは……家族と過ごす時間、だったんだな)


 俺が感じた違和感の正体。

 それは、ここを離れようとする彼女から感じた、深い悲しみだった。


(リリーはここでの生活を捨てたいとは思っていなかった。でもそれは便利な生活を失いたくなかったとか、そういう意味じゃなくって……ただ純粋に“家族”を失いたくなかったんだ)


 かき集めた記憶のパーツが教えてくれた。

 彼女からのシグナルは、俺達がこれまで紡いできた日々の中にあった。



(思い返せば、確かにリリーは稀人族支配型魔法少女……()()()


 春。彼女が来てすぐの頃の記憶は、確かにワガママな言動が目立っていた。トラブルも日常茶飯事で、何度も叱って指導した覚えもたくさんある。


(でもそれも、すぐに落ち着いていった)


 朝の挨拶に始まり、家事のやり方、外での立ち居振る舞い。

 彼女は今日に至るまで、そのひとつひとつを丁寧に学び、実践し、人として素晴らしいとされる所作を身に着けていった。


 俺はそれを、彼女の兄として見守り続けていた。


(最近の完璧な淑女してるリリーを見て、半年前には喚いて地団太を踏んだりしてただなんて、誰が想像できるんだろうな?)


 ワガママな言動だって今にして思えば、家族に対して甘えてたんだろう。

 そうでないなら必要最低限だけ関わって、後は魔法で文字通りの操り人形にしてしまえばよかったんだから。



(魔法で何でもできるはずの彼女が、今、こうしてちゃんと自分から謝れたり、自然に淑女然とした立ち振る舞いができる。それが何より、彼女が変わったという証だ)


 そして俺は、彼女の兄だった俺は、知っている。

 そうやってひとつひとつを学び進めてきたリリーが……どんな顔を浮かべていたかを。


『……おはよう、ございます。兄さうわぁっ! 返事にしても大声すぎます! 嬉しいって……もぅ、家族に挨拶するのなんて当然です』

『ぐむむぅ、油汚れってこんなに落ちないんですか? 魔法だったら……ぶつぶつ……』

『ひゃっ、どうして頭を撫でて……え、頑張ったから? そ、そんなの……もぅ……』

『ぎゃー! 待って、待ってください兄さん! まだ部屋が片付いてないんです! これまでよりだいぶ遅い? それは……その、乙女の問題です!!』

『ごめんなさい。……これで、合ってるんですよね? 兄さん?』

『ふふっ兄さん、今晩は辛いのにしましょう。辛いの、いいですよね』

『うあー、暑いです。暑くて溶けます。兄さん、コンビニにアイスを買いに行きましょう』

『え、さっきと違ってキリッとしてる? 当然です。獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすと言うように、アイスを買いに行く時であっても、兄さんとお出かけする時は気合を入れるんです』

『兄さん? 兄さん! もー、またボーッとして。このアニメを一緒に観るって言ったの兄さんなんですからね!? え? マムが私に似てた? そ、そそそそんな事はないです!!』


 これらの思い出に、魔法なんて関わってない。

 俺とリリーの紡いだ日々には、魔法で無理矢理繋いだ絆とは違う想いが、確かに育まれていたんだ。


 それは俺だけじゃなく……彼女の中にも。


『兄さんっ』


 そう俺を呼ぶ彼女はいつだって……明るく輝く、愛に溢れた笑顔を浮かべていたんだから。



「私、ここにいていいんですか? 騙して、利用して、そんな、悪い事したのに……!」

「俺が許すよ。父さんと母さんについては、時が来たらちゃんと打ち明けて、一緒に謝ろうな?」


 リリーの罪の清算は、まだ終わっちゃいない。

 いつかはまた、この罪と向き合って乗り越えなきゃいけない時が来るだろう。


 それでも。


「大丈夫。俺が絶対に手を貸すから」


 そこには俺がいる。

 俺が全力で、リリーにとって、みんなにとって、いい結果になるように頑張るから。



「リリー。これからも俺の家族として、妹として、よろしくな」

「…………はいっ! 兄さん! 本当に……ありがとうございます!」



 胸の中、こちらを見上げて笑顔を見せるリリーの白銀の髪を……俺はそっと撫で梳いた。

 こうして俺の妹(妹ではない)は、魔法少女で、変わらず俺の妹をしてくれる事になったのだった。

「元ネタの放送年的に、多分ルドルフじゃなくてスピードの方ですね」


応援、高評価してもらえると更新にますます力が入ります!

ぜひぜひよろしくお願いします!!

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