第03話 昔は良くても今ダメな奴
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ジェネレーションギャップ。
「……まさか、本当に魔法の国からやってきたプリンセスだったなんてな」
「はい。改めて……私の本名はリリーネイア・デカルマーニ・エターネーヴァ。魔法の国エターネーヴァの次期女王候補です」
互いに取り乱した大騒動から少し後。
俺は妹(妹ではない)のリリーから、彼女の事情について聴いていた。
椅子に座り直した俺の視線の先、ベッドにあがった彼女は今、さっき飛ばしたクッションをぎゅっと抱きしめ、もぞもぞと悩ましげに足を動かしている。むっちりめの太ももは本人曰くチャームポイントだそうな。健康的でいいと思います。
「それで……王家の試練、だったか」
「はい。魔法の国の王族は、15の成人を迎える前に王家の試練を乗り越える必要があって。私の場合はそれが、人間界に行って営みに関わりながら“本当に大切な物”を見つける事、でした」
「なるほど」
聞いてる限り、王道オブ王道な奴だ。
魔法の国からやってきた少女が、人間界で様々なものと触れ合い成長し、大切な事を学んで帰る。
同期に聞かせたらきっと、大喜びで該当する作品群を羅列してくれるに違いない。
あまりにも魔法少女らしすぎて、現代感覚だと裏を警戒してしまうレベルだ。
「リリーがこの世界にやって来た経緯はわかった。それで、どうしてリリーは今になって、俺に土下座までして謝ったんだ?」
「それは……」
言い難い事なのか、リリーの深青の瞳が揺れ逸れる。
今も物凄く色々な事を考えているんだろう、冷や汗もだらだら、表情も迷いまくりで口元が歪み、ぷるぷると震えている。
明らかな不安、動揺、そして強い……自責の念。
いったいどんな理由があって、彼女が土下座するに至ったのか。
本当に裏があるんじゃないかと警戒する……警戒する、が。
「大丈夫、話してごらん。俺はリリーのお兄さんだからな。どんな事でも受け入れてみせる!」
見かねて、胸を張って叩いてみせる。
「兄さん……!」
リリーの表情がパッと明るくなった。
受け入れるって言葉が効いたのか、好物の辛口カレーを前にした時みたいなキラキラな目をしている。
(どうせ、偽りの家族を演じるのが辛くなったとかそんな感じだろう。だったとしても、今日まで俺がリリーの兄として過ごした時間は嘘じゃないはずだ)
そうだ、俺は彼女を信じる。信じたい!
本当の兄ではないっぽいけど、これまで家族同然に思って過ごしてきたんだからな!
この気持ちに、嘘はない!
「……もう、兄さんには敵いませんね。白状します」
「ああ! そうしてくれ」
「はい。私が兄さんに謝らないといけないと思ったその理由、それは……」
「それは?」
「家族を演じさせているのが辛くなって」
「なんだそんなこ……演じさせている?」
ん?
「……御伽守家に潜り込むために使った魔法は、兄さん達を洗脳し、私の事が大大大大大好きな家族を演じるよう都合良く心を操る魔法だったんです」
「………」
んんん?
「なんて?」
「洗脳しました。私の事を大好きな家族だと思うように」
「誰が?」
「私が」
「誰を?」
「兄さん達、御伽守家の皆さんを」
「………」
……っすぅー。
「ホワィ?」
「……その、家事とか色々、面倒臭くてやりたくなくて。そういうの、王宮暮らしで、やった事なかったから」
「………」
「居心地よさそうな家を見つけて住人を洗脳して、便利に扱き使っちゃえって、それでいいやって……やりました」
神妙に頭を垂れるリリーに対し、俺も思わず真顔になる。
「「………」」
お出しされたのは、思った以上に真面目なガチ謝罪案件だった。
※ ※ ※
「本当に、申し訳ありませんでした……」
部屋から出ていく時、気落ちした表情でリリーはそう言い残していった。
本当に心から反省した様子で、全身から深い後悔の念が滲み出ていた。
去り際彼女は俺の目の前、パッと衣装を寝間着に変えてみせ、改めて魔法を披露してくれた。
魔法は本当にあった。目に見える形で使われて、実際驚きもあったと思う。
でも……。
「……洗脳、洗脳かぁ」
思いっきり頭を抱える。
洗脳されてたなんてインパクトを前にしては、お着替え魔法も素直に喜ぶ事ができなかった。
「人の心を操作する魔法って、最近の物語じゃほぼほぼ禁忌だもんなぁ」
特に、私利私欲のために人の心を操るなんて事は、やっちゃいけないというのが通説だ。
それをリリーは、あろうことか自分の面倒事を肩代わりさせるためにやらかしたってワケだから、昨今のコンプラ的に完全アウトである。
マジカルロイヤル的にはセーフだったかもしれないが、現代日ノ本的にはアウトもアウトだ。
「リリー……」
覚えている記憶を探れば、妹だった彼女との日々が確かにある。
一緒にご飯を食べて、挨拶を重ねて、ケンカして、仲良くして、楽しい事も悲しい事も、たくさん経験した。
けれど、そんな思い出も、今年の春より前には存在しない。
指摘されるまで違和感一つ覚えなかったけど、確かにリリーとの付き合いは、たったそれだけの期間しかなかった。
既に俺への洗脳魔法は解かれてて、今、強烈な違和感が胸の奥に宿っている。
日常に異物が紛れ込んでいたという事実に、何とも言えないモヤついた気持ちが湧き上がっていた。
これが、操られていた状態への反動……なんだろうな。
彼女との日々のどこまでが自分の意志で、どこまでが操られていたのか。
俺にはわからなかった。
『利用し続ける事にもう耐えられなくなりました。ご迷惑をおかけした分を清算し、ここを去りたいと思います』
罪の告白と、その清算。
リリーの魔法の力なら、それこそすべてなかった事にして終わらせられるのだろう。
なんならすぐにでも彼女は実行しようとしていたが、今はまだ、その力は行使されていない。
「……とりあえず明日まで、って、言っちゃったからな」
魔法を使おうとしたリリーに対してとっさに口を挟み、俺は彼女の覚悟の清算を先送りにした。
考える時間が欲しいと、そう告げて。
とっさの判断だったとはいえ、どうして俺はそんな事をしてしまったのだろうか?
胸の奥の違和感のせいか、答えはとんと引き出せない。
「……よし!」
内なるモヤモヤを祓うべく、柏手を一回。気合を入れ直す。
(案ずるより産むが易し、だ)
気持ちを切り替える。こういった割り切りは俺の得意とするところだ。
いつまでも落ち込んだり悩んでたら、いざって時に動けないからな。
「まずは明日、大学で」
ストレッチと課題を手早く済ませ、ベッドにダイブする。
「俺にできる事はなんでもすぴー……」
悩ましげな問題こそ起こったが、俺の寝つきは常日頃と変わらず爆速だった。
御伽守陸人:気持ちの切り替え〇
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