第02話 妹が魔法少女だった件
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兄と妹の温かな日常の風景です。
「私……リリーネイア・デカルマーニ・エターネーヴァは、あなたの本当の妹じゃ、ないんですっっ!!」
俺の妹、御伽守リリーはそう言いながら、見事な土下座スタイルを決めていた。
……魔法少女の格好で。
(OK,OK。思考を切り替えろ、御伽守陸人。状況を冷静に観察し、正しく取るべき行動を導き出せ)
まずは今、何が起こっているのか。
(俺の部屋で、自慢の妹リリーが、魔法少女の格好で、土下座している)
今日も何てことない一日を過ごした俺は、自室で火照った体を冷ましていた。
そこに珍しくリリーがやって来て、俺の許可を得て中に入ってきた。
リリーは魔法少女の格好(とてもよく似合っている)で、部屋に入るなり俺に美しい土下座を決めた。
……うん!
改めて現状把握に努めてみたが、新しい情報が、妹の魔法少女姿がよく似合っている以外に増えてないな!
「………」
(リリーは土下座をしたままだんまりで、まるで粛々と沙汰を待つ下手人のようだ)
パッと見、敗北した魔法少女にワビを入れさせてるシチュみたいで、妙な背徳感を覚えてよろしくない。
一介の魔法少女愛好家として理解は示せるが、リアルな魔法少女の敗北はNGである。
「……ふむ」
察するに、おおよそ尋常じゃない事態なのは間違いない。
目の前に広がる信じがたい光景に、俺の思考回路はショート寸前だ。
しかしそれでも、気になる単語はあった。
(リリーが、俺の本当の妹じゃない、か……)
正直何を言っているのかさっぱりなんだが、それでも。
(この子はそういう冗談を言う子じゃ、ないからな)
今日まで一緒に過ごした日々で、わかってる事は確かにあるのだから。
「リリー」
俺は腰を下ろして目線を近づけ、未だに頭を下げ続ける妹に呼びかける。
努めて優しく、彼女を怖がらせないように。
「よかったら、まずは詳しい話を聞かせてくれないか?」
「……はい」
問いかけに、彼女の少し震えが入った返事があって。
それから――。
「……実は私は」
「うん」
「……魔法の国からやって来た、次期女王候補なんです」
――なんだかとっても聞き馴染みのあるフレーズが飛び出して。
「……うん?」
「魔法の国エターネーヴァからやってきたプリンセス。それが私、リリーネイア・デカルマーニ・エターネーヴァなんです」
「……うん?」
改めて。
差し出された情報を呑み込むまでに、しばらくの時間を要するのだった。
そして、呑み込んだ結果――。
「どうして信じてくれないんですか!」
「信じられるワケないだろそんなもん!」
――盛大な兄妹ゲンカが勃発した。
※ ※ ※
俺こと御伽守陸人は、魔法少女が好きだ。
大学受験に合格するまで大真面目にその実在を信じ、そんな彼女達の助けになろうとあらゆる研鑽を重ね続けたくらいには、魔法少女という存在が大好きだ。
憧れの人は魔法少女をサポートする男キャラ達。彼らの生き様に倣うのと“誰かの役に立てる人になりなさい”という親の教えが悪魔合体した結果、人よりちょっと多芸になったのが密かな自慢である。
そんな人生の大部分に魔法少女が絡まってるような男でも、さすがに気づいた真実はある。
“この世界に、魔法少女なんていやしない”
今だっていて欲しいとは願っているが、実際はいないだろうって諦めている。
精々が、今も心の底から信じて頑張ってる誰かさんを否定せず、応援しようって決めてる程度だ。
「何が魔法の国からやって来たプリンセスだ! 今時その設定が通るアニメなんてないぞ!」
「今時とか関係ありません! 本当の本当にプリンセスなんですー!!」
だから、俺の目の前にいるのは魔法少女コスの妹でしかない。
まさか彼女がこんな冗談をぶちかましてくるような子だったとは、俺もまだまだ人を見る目が足りなかった。
「そんな格好して土下座ドッキリまで決めて、一体何が狙いだ?」
「何が狙いって」
「そんなかわいい上にバチバチに似合ってる魔法少女衣装なんて見せてきて、俺を誑しこもうって魂胆は見え見えなんだからな!」
「たらし……!? や、ちがっ……っていうか、可愛いって……!」
「何でも卒なくこなすとは思っていたが、そんな着こなしもできるんだな。すごいぞ!」
「!?!?」
「ケープ・コルセット付きのミニスカプリンセスドレス風か。『赤ずきんシャシャ』のアニオリプリンセスモードとか『ほの☆マギ』のフミさんを連想させるな。それに……」
「ひゃっ!」
「パッと見でもわかるが、生地も本物。かなりいいところの仕立てと見た」
床に膝つき目を凝らせば、より理解できるその仕事ぶり。
細部の細部に至るまで、類まれなる職人の技が冴え渡る、間違いなく一級品。
一度見たら忘れられないだろう、作り手がこだわり抜いた良デザインだ。
だがその衣装は、俺の記憶にあるどの魔法少女作品の物とも合致しない。
(つまりは……オリジナル?)
衝撃に、呼吸が止まった。
「や、あの、兄さん。そういう話ではなく……っ」
(いやいや落ち着け、御伽守陸人。不思議ノ市は不思議でいっぱい、こういう事はよくある事、そうだよな?)
ここは不思議がいっぱい不思議ノ市。
毎年ニュースで花の狂い咲きが報道されたり、妖精や妖怪の目撃例が絶えなかったり、やたらと隕石の落下事例があったり、昔から女性が活躍する話が多すぎて“女性活躍伝承”なんてまとめられて珍しがられてたりする、そんな町。
「ドレスの白とコルセットの黒が織りなすモノトーンカラーと、プラチナブロンドの髪がよく調和していて綺麗だ。本当にリリーのためだけに用意されたみたいに似合ってる」
「~~~~っ!!」
それでもさすがに、家族が突然オリジナル魔法少女のコスプレで土下座してくるなんてイベントはそうそう起きないはずだ。ハロウィンだって数週間後、まだ早い。
ならばここは、そんなレア体験を提供してくれた彼女には感謝を伝えなければ!
「土下座してても崩れない見事な衣装映え。いい物を見せてくれてありがとう、リリー」
こちらも深々と土下座を返して礼を尽くす。
「ど、どういたしまして……って、ま、待って! 待ってください兄さん! 話を終わろうとしないでください!!」
「ん?」
土下座したままのリリーが、はぁはぁ息を荒げていた。
「というよりどうして私、このタイミングで褒め殺しを受けて……?」
「そりゃそんな格好で魔法少女モノ大好きな兄の前に来たらそうもなる。かわいいし似合ってるし」
「かわっ、似合……もー!! なりませんよ! 私、土下座してるんですよ!? 謝罪してるんですっ!!」
「俺だって感謝の土下座を」
「それは兄さんが後から勝手にやった事ですよねぇ?!」
ぷりぷりと怒っているが、耳まで真っ赤だ。
それにちょっと涙目にもなっている……って、涙目?
「なんで、こう、兄さんは……もう!」
「すまない、リリー。泣くほどの事だったんだな」
「泣いてませんっ。泣いたら、ダメなんです……うぅ」
うめく彼女の頭を、綺麗なアーチを描く編み込みを乱さないよう、優しく撫でる。
久々に触れた白銀の髪は、相も変わらずサラツヤで。
「その格好も、リリーの本気の表れだったんだな」
「うぅ……そう、です。やっとわかってくれたんですね」
リリーが謝ってまで伝えたい事、そんなの決まってる。
「リリー」
「兄さん」
二人、見つめ合って通じ合ってるのを感じて。
「……今の俺から出せるのは、財布の中身とタンス貯金を合わせて10万とちょっとだぞ」
「え?」
「今回は何が欲しくてそんなコスプレを? 最近あれが欲しいこれが欲しいっておねだりしなくなって、兄さんちょっとさみし」
「ど~してそうなるんですか! お兄様のニブチンッ!!」
「へぶっ!」
次の瞬間。
ベッドのクッションが独りでに浮かび、俺の顔面に飛んできて衝突した。
「……え?」
ポトッと落ちたそれを手にして、俺はリリーとクッションを交互に見比べる。
「今の……って」
「魔法ですよ。ま・ほ・う! 私、本物の魔法使いなんですっ! ほらっ!」
リリーが指を振ると、クッションがまた独りでに浮かび、宙を舞う。
しかもしかもよく見たら、なんかキラキラのエフェクトっぽいのまで付いてる!!
「どうですか兄さん! この格好は伊達じゃないんです!」
「……う、う、うおおーーーーーーーーー!?!?!?」
御伽守陸人、大学一年の秋。
「魔法少女、いたーーーーーーーーーー!!」
「だからさっきからそう言ってるじゃないですか! 兄さん!!」
かわいいかわいい妹が、妹じゃなくて魔法少女だったと知りました。
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〔TIPS〕
※赤ずきんシャシャ……1994年作。魔法使いのたまごであるシャシャ(シャーシャ・レオーネ)が、仲間達と大騒ぎする日常コメディ。原作は漫画作品であるが、アニメ版オリジナルの設定として、シャシャが仲間の助けを借りてプリンセスモードに変身し強大な力を発揮する展開がある。グッズ商戦ですね!
※魔法少女ほのか☆マギア……2011年作品。普通の女の子である黒川ほのかが、謎の生物ワニャバ(犬猫鳥のキメラのような風貌のマスコット)や謎の転校生真白みことと出会い、大いなる運命に巻き込まれていくシリアスバトル。フミさんとは3話で退場する魔法少女の愛称。その退場の仕方のショッキングさが大いに話題になりました。3話まで見ろ!の元ネタとも。
なお、大騒ぎしても父はアトリエで集中しているので聞こえないものとする。
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