第01話 御伽守陸人の日常
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新しい物語、開幕です!
幼い頃、ホウキに乗って夜空を舞う“魔女”を見た。
ベッド脇、2階の窓越しに見る月明かりのシルエットは、母から聞いた物語の数々で大活躍する、女魔法使い達の姿そのものだった。
『……えっ!?』
そんな彼女を見ていたところで起こった、本当に不思議な出来事。
魔女はとても遠く、遠くにいたはずなのに。
俺と目を合わせ、手を振ってくれたのだ。
『~~~! お父さん! お父さんっ!』
堪らず駆け出し、1階のアトリエにいた父に飛びついたのを今でも忘れない。
どうしたんだいと優しく声をかけてくれた父に向かって、俺は――。
『――魔法少女! 魔法少女見た! お母さんが言ってた通り! 魔法少女って本当にいたんだ!!』
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まだ、夏の気配が残ってる10月の朝。
洗面所の鏡を前に、身嗜みを整えながら俺は、昨日見た夢について考える。
(……しっかしまぁ、我ながらまた懐かしい夢を見たもんだ)
ホウキに乗った魔女みたいな人に、手を振ってもらった時の夢。
あれは確か、小学校にあがってすぐの頃の思い出だ。
今となっては本当に見たのかも怪しい、姿形の朧げな、けれど鮮明に心に刻まれた記憶。
魔法少女“愛好家”――御伽守陸人を形作る原点だ。
「……これでよしっと」
黒髪にひと房だけ混じってる母譲りの茶髪を指で弾いて、ヘアセット完了。
大学生男子らしく遊ばせたウルフカットの完成に、今日も大満足だ。
改めて……御伽守陸人、私立不思議ノ大学文学部一年。
どこにでもいるごく普通の日ノ本人で趣味人な俺の、何てことのない一日が今日も始まる。
※ ※ ※
「おはよう父さん、リリー」
「おはよう、陸人」
「おはようございます、兄さん」
仕事で海外にいる母さんを除いた、俺、父さん、妹の三人で食卓を囲む。
今日の朝食はベーコンエッグをメインに据えた洋風朝ご飯。作り慣れた朝食TOP3に入るおなじみの献立だ。
「ごちそうさま」
食べ終えて、そそくさとアトリエへ戻っていく父さんを見送ったら、残った食器を片付けて、大学へ向かう準備をする。
「リリーの中学はそろそろ前期の学期末か。学校に忘れ物しないようにな?」
「しませんよ。それに、秋休みなんてほんの数日なんですから、そもそも持ち帰る物もほとんどありません」
「なるほど、それもそっか」
「もう……兄さんは心配しすぎです。春の頃とは違うんですから、私をもっと信頼してください」
「ははは、ごめんごめん」
ここ半年ですっかり清楚で淑女らしくなった妹に逆に説教されつつ、二人並んで玄関を出る。
「「行ってきます」」
重なる声。
けれど、向かう方向は別々で。
「それじゃ行ってらっしゃい。リリー」
「はい。兄さんも、くれぐれも気をつけて」
「わかった、ありがとう」
これももう、慣れたやり取り。
「……じー」
「?」
ただ今日は、妹からのいつもより強火な視線を浴びて歩きだす。
「天気予報は晴れ、時々、曇り!」
今日の不思議ノ市の空は、フランスパンみたいな形の雲が流れていた。
※ ※ ※
不思議ノ大学までは電車で一駅……なのだけど、都心部と違いその一駅の距離は長く、徒歩で行くにはちょっとツラい。
だもんでまずは住宅街を通り、駅へと向かう。
「あっ! おはようございます! 陸人さん!」
「おはよう、みはりちゃん。その車輪の髪飾り、よく似合ってるよ。かわいい」
「かわっ!? あっ、あっ……ぽひゃぇっ」
ぽっぽ~~~~!!
「あー……」
その道中、照れると真っ赤になってけむりを噴き出す、かわいいかわいいご近所さんとご一緒したり。
「あらまぁいいのかい? 最近は筋肉も衰えてしまってねぇ……」
大きな荷物を背負ったお婆さんを手伝ったり。
「うわぁー! ありがと! 野生のヒーローみたいなお兄ちゃん!」
「こら、よしおちゃん! でも確かに、スタントマンとかしてらしたり?」
木の上に引っかかってた風船を回収したり。
「クゥーン、ァゥン(申し訳ねぇ、兄ちゃん。もう少しで車に轢かれるところだったぜ)」
「えーん、まろーん!!」
「はい、どうぞ。リードはしっかり握ってようね」
「……おにいさま(ぽっ)」
大学側の駅前で、うっかり道路に飛び出たペットの子犬を助けたり。
「おはよう御伽守、今日も忙しないな! 課題忘れるなよ!」
「はい! やってあるんで後で持ってきます教授!」
おおむね今日も、いつも通りに大学到着。
授業を受けて課題を届け、空いた時間にサークル棟へと向かう。
「やぁやぁ! 首を長くして待っていたよ、助手く~んっ!」
「おはようつむぎ……って待った近い近い!」
「さぁさ! 今日も私と一緒に、世界の真実について熱く語ろうじゃないかぁ!」
所属するサークル『ふでん研』で、同期と合流。
白衣にメガネの研究者フォルムからお出しされる、スタイル抜群な彼女からの過剰なスキンシップに四苦八苦しつつ(嫌ではない、断じて)、研究課題について熱く語らう。
「やだーっ! 助手くん! バイトを休んでもっと私と語り合うんだっ!」
「ダメダメ。こういうのは切り替えが大事なんだ。はい、離れて離れて!」
「うわぁー! 助手くんの鬼ぃ~!」
楽しい時間はすぐ過ぎて、全力抱きつきで妨害してくる同期を無理矢理引っぺがし(嫌ではない、断じて)、バイト先へ。
叔母が経営している雑貨屋で諸々雑務や力仕事をこなし、じゃれてくる従妹を同期と同じ要領でかわしつつ、つつがなく勤務完了。
近くのお菓子屋さんでお土産を買い、足早に帰宅する。
朝見た物によく似たフランスパンの雲が、半分くらい齧られた姿で夕暮れ空を流れていた。
※ ※ ※
「ただいま」
帰宅後、サクッと晩御飯。今朝と同じく三人で食卓を囲む。食後に買ってきたクッキーを出したら、父には喜ばれたが妹には呆れられてしまった。
プラチナブロンドの長い髪を逆立たせながら無駄遣いを叱る彼女の姿に、俺も父も頭が上がらない。
「もう、兄さんは……本当にもう、まったく」
「ははは、ごめんごめん」
「本当に……本当に……」
「?」
何やらむっつり顔で部屋に戻った妹を見送り、洗い物等諸々家事をこなしていく。
自分の風呂番がやってきたのでありがたく頂戴し、ゆったりと湯船に浸かり、今日の疲労を入浴剤入りの湯に溶かした。
「ふぅー」
ほかほかに茹だった体を自室の椅子に預け、火照りを冷ます。後は日課のストレッチや大学の課題を済ませたら、今日という日は完遂だ。
(今日も一日、いつも通りの何てことない日常だったな)
そんな事をしみじみ思いつつ未だ現役の扇風機で涼んでいると、何かのフラグが立ったのか、いつもと違う事が起こった。
こんこん。
控えめなノック音。
「兄さん」
「リリーか」
レアイベント、妹襲来である。
「…………その、入ってもいいですか?」
「もちろん」
おずおずといった様子でお出しされたお願いを、即座に了承する。
ドアを開けようと立ち上がれば、その間にリリーがドアを開け、中へと入ってきた。
音につられて視線を向けて……カッと目を見開く。
「……なん、だと?」
現れたのは、確かに妹のリリーだった。
けれど、いつも通りとは程遠い、俺の知らないリリーだった。
(なんなんだぁその格好は?!)
白黒モノトーンを基調とする大きな大きなつば広帽子を被り、同じくモノトーンに金の刺繍を施したふんわりゆったりとしたケープ、さらにはコルセット一体型のドレスめいた衣装……そう、衣装としか形容しようがない衣服を着て、彼女は立っていた。
帽子のつばを摘まんで半ば顔を隠そうとしながら、もう一方の手でスカートの裾を掴んで伸ばし、緊張した様子で身を縮こませている。
その姿を、一言で評するなら――。
「――魔法、少女?」
「………」
戸惑う俺を前にして、半開きだったドアをお尻で閉じた彼女はゆっくりと歩み寄り。
そして――。
「――今まで騙し続けて、ほんっとうに! 申し訳ありませんでした~~~~~っ!!!」
ババーーンッ!!
なんて、効果音が出てきそうなくらいに。
「私……リリーネイア・デカルマーニ・エターネーヴァは、あなたの本当の妹じゃ、ないんですっっ!!」
それはそれは見事な、日ノ本最大謝罪の意を示す奥義……DOGEZAを決めたのだった。
父:黒髪 母:茶髪 陸人:黒髪(一房茶) 妹:プラチナブロンド(白銀髪)
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