第14話 ステラシーカーみはり
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ご近所の平和を守る魔法少女が頑張りますっ!
夜の自然公園。
石畳を下敷きに。
「……陸人、さん?」
俺はご近所さん――星宮みはりちゃんを押し倒していた。
「大丈夫? みはりちゃん?」
「え、はえ?」
みはりちゃんがキョトンとしてる間に、俺は彼女の体をざっと観察、ケガの有無を確かめる。
「よかった。ケガはないみたいだ」
「あ……」
「立てる?」
「は、はいふぇええ!?」
様子を見つつ、返事は待たずに彼女と手を繋げば、細っこい腰を抱いて持ち上げて。
「はわええっ!?」
「よしっ、と」
「り、りりり陸人さん?!」
手早く立たせたところで、みはりちゃんが杖を持ってない左手で、俺の服の裾を掴む。
「あ、あのあの! どうして陸人さんがここに……!?」
くりっくりに見開かれたブルーグレーの瞳から、特大級の戸惑いが窺えた。
「ブルルモォォォーーーーー!!!」
突進の勢いでそこそこ遠ざかっていた半透明の雄牛の怪物が振り返り、俺達を……いや、みはりちゃんを狙っている。
「陸人さん! ここは危険です! すぐに安全なところへ――っ!?」
気遣う彼女を手で制し、俺は努めて普段通りの笑顔を作って口を開く。
「――大丈夫。大体わかった……!」
「えっ」
言って、駆け出す。
こちらを狙う、雄牛に向かって。
「! 陸人さん?!」
「ブモォォーーーーーーーーーーーーー!!!」
背後から聞こえるみはりちゃんの声を、雄牛の咆哮が遮る。
奴の目が、俺をターゲットに選んだのを肌で感じた。
(タイミングをミスるなよ、俺! 3、2……)
巨体が身を屈め、石畳を踏みしめ、ミシリとそれをひび割れさせた……今!!
「ブモォォォ!!」
「そうらっ!」
突進! 急接近! 至近距離で…………回避っ!!
「ブモッ!?」
「っし! できる!」
「え……ええええーーーーーーー!?!?」
驚いたっぽい雄牛の声を、今度はみはりちゃんの驚愕の叫びが上書きした。
※ ※ ※
「牡牛座の突撃を……」
「……避けたぁ~~~!?!?」
みはりちゃんと黒猫さんから、耳心地のいいリアクションが届く。
それだけで、俺の身の内からさらなる力が湧いてくる!
「ちょちょちょ、どういう事!? どうやって避けたの!?」
黒猫さんから上がる疑問の声。
できれば振り返って顔を確かめたいが、我慢我慢。
急ブレーキをかけてる雄牛に注目したまま、俺は答えた。
「予備動作だ! あいつは全力突進する前、石畳を砕くくらいに右前足を強く踏み込む!」
「そうなの!?」
「そうなの!」
言いながら位置取りを変える。
間違っても雄牛の突進が、そのままみはりちゃん達へと向かわないように。
「ブモォォ!!」
「来る!」
次に迫る突進のタイミングも……!
「ふんぬらばっ!!」
「ブモォッ?!?!?!」
「避けた~!?」
来るのがわかっていたら、躱すのはそこまで難しくない!
相手が素直で真っ直ぐな突進なのも功を奏してる。
「ほ、ホントに避けれるんだ……!? な、生身でどんな運動神経してるのあのお兄さん……!」
「陸人さん! 大丈夫なんですかっ?」
心配そうな声で聞いてくるみはりちゃんに、右腕を掲げて大丈夫アピール。
そして。
「みはりちゃん!」
「は、はい!」
「みはりちゃんは、みはりちゃんのやるべき事をやって! こいつは俺が引きつけて、釘付けにするから!」
俺は俺の言うべき言葉を、みはりちゃんへと伝えた。
「……はい!」
よし!
みはりちゃんから頼もしくも力強い返事が来た! だから大丈夫!
(みはりちゃんがこれから何をやるのかはわからなくても、何かやれる事があるのは知っている! だから俺は、それを信じて助けるだけだ!)
全身に力が漲ってくる。
今ここで、俺にできる事があるのが、心の底から嬉しくてしょうがない。
鍛え続けたこの体、使い時はまさに……今!!
「来い! 牛の化け物!」
「ブルルモォォ~~~~~~~!!!」
近づいてチョロチョロする俺を鬱陶しがり、雄牛が吠える。
本能的な恐怖が全身ビリビリと震わせ支配しようとしてくるが、大きく息を吸って、吐いて、キャンセルだ!
「ブモォォーーーーーーーーーーーーー!!!」
「だぁぁぁぁぁっ!!!」
引きつけて……回避!
全身のバネを使って勢いよく飛び退り、巨体の一撃をギリギリで躱す!
吹き抜ける風圧で、体が少し浮かんで押された気がした。
「陸人さん!」
「みはりちゃん!」
大きく俺を呼ぶ声。
「離れ」
「離れるんだな! わかった!!」
「え、はい!!」
それを合図に全力ダッシュ!
脱兎の如く駆け抜けて、雄牛から距離を取る。
「行きます!」
再び響く、みはりちゃんの気合の入った声。
「わ……!」
声がしたのは、俺の頭よりも高い場所。
見上げれば、そこに。
(トビウオの、羽……?!)
夜空を泳ぐように滑らかに舞う、大きなトビウオの羽のイミテーションを靴から伸ばしたみはりちゃんの姿があった。
「星の力を秘めし輝石よ! 我が導きに従い、その力を解き放て! ――“解放”!」
再びの詠唱。放られる宝石!
杖の先に取りつけられた鐘……そこに埋め込まれている銀河を映したかのような模様の石に、輝きとともに取り込まれ!
「豊穣よ! 彼の者を縛る枷と成せ――乙女座!」
杖の先から現れるのは、銀に輝く半透明の女神。
「……お願い!」
「―――!」
みはりちゃんの願いに答え、女神が両手を天に掲げると。
「ブモォォ!?!?」
ちょうどUターンしようとして勢いをなくしていた雄牛を、突如として伸びた植物の蔦が絡め捕り、その身を封じ込めてしまった。
「ブモモッ!!」
「今だよ、みはりちゃん!」
「うん!」
拘束を破ろうと身を捩り出した雄牛に向かい、みはりちゃんが杖を正面に構える。
「地に迷いし星の輝石よ、星守が鐘の導きに従え! 保護!!」
呪文とともに振りかざした杖が振るわれて、辺りに鐘の音が響き渡る。
意外にもその音は、さっきも聞こえた羊飼いの鳴らす鐘の音と違っていて。
(これは……汽車の発進を告げるベルの音だ)
気づいた時には鐘の音が、杖から星の煌めきの波を作り出し、雄牛の巨躯を優しく包み、解いていた。
「ブ、モ……!」
興奮していた雄牛の目に落ち着きが宿ると、ゆっくりとその体は溶け消えて。
「あれは……」
ただ一つ。
綺麗な紫色の輝石を残して、雄牛はいなくなった。
「……もう、大丈夫。ちゃんと私が、送り還すからね」
宙に浮かぶ輝石を回収し、みはりちゃんが地上へと降り立つ。
「やった! 牡牛座の星輝石、回収だよ! ステラシーカーみはり、今回も大成功だ!」
そこに黒猫さんが駆け寄って、喜びにぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
「よかった……」
状況が落ち着いていくのを感じながら、俺もホッと一息をつく。
そのため息が聞かれたか、みはりちゃんと黒猫が、一斉にこっちへと視線を向けた。
二人一緒に大慌てで駆け寄ってくる。
「陸人さん!」
「みはりちゃん!」
勢いづいて飛んでくるかと思ったけど、すぐ目の前で急ブレーキ。
いつもの距離感にぴょんっと下がって、みはりちゃんは俺を見上げて口を開いた。
その顔は真っ赤だった。
※ ※ ※
「あ、あのあの! これはその! あの、ですね!」
右手に杖を持ったまま、両手をワタワタ振り回すみはりちゃん。
彼女のピッグテールが揺れるのとセットで杖の鐘も揺れてたが、不思議と音は小鈴みたいにか細くて……さすがは魔法の杖。余計な音は鳴らさない。
「えっとあの、その……!」
「大丈夫。だいたいわかってるから」
何とか説明しようと言葉を探すみはりちゃんの肩に手を置いて、俺はうんうんと頷いてみせる。
ついでに頭もポンポン撫でて、落ち着くようになだめていく。
「だいたいわかってる、ねぇ?」
「お?」
不意に、脛に感じる重さと感触……黒猫さんだ。
「だったら、どれだけわかってるか教えてくれる?」
後ろ足で器用に立って、右前足でちょいちょい手招きしながら、試すような問いかけ。
しゃべる猫との触れ合いとか、魔法少女と関わる上で体験したい事TOP5に入るくらいの大偉業に内心感動しっぱなしだが、ここは冷静に、冷静に。
黒猫さんの期待に応えるべく、俺は思考をフル回転させて回答する。
「多分、だが……」
「うん」
「みはりちゃんはキミと契約して、魔法少女になった。その内容はおそらくさっきみたいな怪物との相対……ではなく、その後にやってた石の回収。聞こえてきた単語と使われた力から察するに、星や星座に関する能力か加護が込められたアイテムなのかな? 今みたいに実害が発生する事もあって、それを可能な限り未然に防いだり問題発生後に速やかに対処するのがお役目なんじゃないかな?」
「………」
「はぇ……」
ひとまず一息で考えつく限りを口にしてみたが、黒猫さんもみはりちゃんもポカンとしてしまった。
「どう、かな? みはりちゃんが俺に外に出ないよう頼んだのが今回含めて3回。最初の出会いの時点で1つ回収してたとして見た能力の数とも合致するし、回収した石がそのままみはりちゃんの力になってくタイプだと思うんだけど……その反応から察するに、違ってた、かな?」
「うにゃー、ちがうちがうちがう。いや、違わなくて」
「?」
「逆逆。合ってる。合ってるよ。続きの考察も含めてびっくりするくらい合いすぎてて驚いたの」
「はい、はい! 陸人さんの説明でだいたい合ってます!」
こうさーんとばかりに石畳に転がってお腹を見せる黒猫さんと、ロック歌手みたいに激しく頷くみはりちゃん。
「いやぁ、今までのやり取りだけでそこまでわかるの? 正直怖いよお兄さん」
「違うよジョバンニ。陸人さんはそういうのを大学で研究してるって言ってたもの」
「それについてはみはりちゃんの言ったとおりだな」
同期ほどじゃないにしろ、俺も魔法少女のセオリーや知識は学んできたからな。
「なるほどー。この手の事案に強い人なんだー?」
「そうだよ! 陸人さんはとーってもすごいの!」
契約を結んだ黒猫さんと、和気あいあいに話をするみはりちゃんを見てるだけでも察せられるものがある。
(みはりちゃんもつむぎと同じ、魔女族契約型の魔法少女っぽいな)
お星様大好きなご近所さんに課せられた使命は、星にまつわる石の回収。
不思議な黒猫さんをお供に、魔法の杖を手にして夜のご町内を駆け回る……か。
――8割がた『カードマスターざくろ』だな! うん!!
「ねぇねぇ、お兄さん」
「ん? なんだい黒猫さん」
「ボクの事はジョバンニでいいよ、お兄さん。それでさ、お兄さんさえ良かったらなんだけど……」
「うん?」
「え、ちょっと待ってジョバンニ!」
よじよじと俺の肩まで登ってきた黒猫さんを、みはりちゃんが止めようとしたが、それより先に黒猫さん――ジョバンニの言葉が、俺の耳へと届けられた。
「これからもさ、何かあったらみはりを手伝ってよ」
「いいよ」
「変な事聞いたら……ええええ!?!? いいんですかーーーーー!?!?!?」
むしろ願ったり叶ったりだった。
「今回みたいな危ないミッションが、またないとも限らないしな。何より、俺自身が魔法少女を探求してる者として、みはりちゃんの事をもっと知りたいから」
「わ、私の事を!?」
「うん」
これで、魔法少女は三人目。
妹と、同期と、ご近所さん。
ここまで来たら、疑いようはないだろう。
(魔法少女は、この町にまだまだ……存在している!!)
不思議がいっぱい不思議ノ市。
この町が抱える不思議は本物だった。
「みはりちゃん。実は俺、魔法少女の知り合いが他にもいるんだ」
「へっ?」
「っていうか、一人は今、俺の家で妹やってる。記憶にないよね、俺の妹」
「えっ、妹さん!? ないですないです!!」
「だよなー」
「へぇー、他にもボク達みたいな子がいるんだ? すごいの?」
「すごいよ。二人とも。いつか会って貰いたいな」
「いいねぇ。上手くやったらもっと楽に……ごほんえほん。危険を回避できるかもだー」
「ジョバンニ、それって大丈夫なの? 確か内緒って」
「いいじゃない。円滑な任務遂行こそがボク達星守のお役目だしねー」
「詳しく」
確信があった。
この先もきっと、出会いはある。
リリーが、つむぎが、みはりちゃんが、俺と繋がってくれたように。
「それじゃ改めて、これから協力させてもらうよ。みはりちゃん」
「は、はい――」
「――いや、こう呼んだ方がいいか。改めてよろしく、ステラシーカーみはりちゃん」
「なっ! あっ、あうぅぅ! ぷひゃえっ」
ポッポー!!
「ありゃりゃ……こりゃ先が思いやられるねぇ」
「ははは。ごめんごめん」
「はひゅー……」
それでも今は、この瞬間を何よりも噛み締めよう。
かわいいかわいいご近所さんが、魔法少女だったなんて、特大のサプライズを。
「もー、陸人さーん!」
「ははは」
喜びに沸く俺達を照らす、夜天の星の瞬きが。
さっきよりも少しだけ、その明るさを増したように感じた。
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〔TIPS〕
※カードマスターざくろ……1998年のアニメ作品。うっかり手に取ったカードをぶちまけた結果、カードマスターとなってカードを集める「契約」を、封印の要であった神獣ガルーダと結んだ普通の少女比那名居ざくろが、ご近所で巻き起こる様々なカード由来の事件を解決しては回収していく現代ファンタジー。後々に物語傾向を変化させつつ続編が作られ、日ノ本に“萌え”の旋風を巻き起こした大きな要因だと語り継がれる名作です。ざくろたんはオレの嫁! です!
警察「あれから謎の倒壊事件起きなくなったなぁ、相変わらずこの町は不思議な事があるもんだ」
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