第10話 調部つむぎは語りたい
いつも応援ありがとうございます。
捻りなく真正面から魔法少女に書いている本作。
楽しんでいただけると幸いです。
という事で、第2章開幕です!!
不思議ノ伝承研究室。略して『ふでん研』。
大学の授業がない土曜であっても当然のように活動している、その部屋で。
「なるほど、なるほど」
俺の同期で同志、しかしてその実態は魔法少女で小学生だった調部つむぎが、これまでと同じ白衣の大学生モードで俺からの報告を受けていた。
「ひとまずは、収まるところに収まったようで何よりだと言っておこうか」
「ありがとう」
椅子に腰かけタイトスカートから伸びる黒タイツの足を組み、いつものように胸を強調するポーズでこちらと向き合う彼女に対し、今の俺が向ける心情はちょっと変わっていた。
(小学生……か)
目の前のメガメ美人は、あくまで仮の姿。
調部紡という少女が魔法の力で変化した、本来ならばいるはずのない存在。
それがどんなに俺好みだったとしても、偽りなのは間違いなくて。
(そうだと思って見てみれば、これまでの彼女の振る舞いが、全部愛らしく思えてくるな)
要は、子供が精一杯に大人を演じようとしていたってワケだ。
そして今も変わらず彼女が大人の姿でいるって事は、見た目相応に見て欲しい、そんな意思表示だと受け取れて。
「いやほんと、こんな短期間で魔法少女と二人も出会えるなんて、思ってもいなかったよ」
自然と、どう向き合うべきか、自分の中で定まった。
「しかも、つむぎ自身が魔法少女だったっていうんだから驚きだ」
「…………それについては隠していてすまない。打ち明けるには勇気がいる話だったのでね」
ワザとらしく肩をすくめて言ってみせれば、少しの間を置き、つむぎも額に手を当てて、大げさに首を振って応えてくれた。
視線を交わす。
クリアパープルの瞳がわずかに揺れて。
二人の口元に、小さな笑みが浮かんだ。
「いや、言えないのも無理はないって。普通はこんな話、到底信じられないからな」
「ハッハッハ。そうだろうさ! だが幸いな事に、もう隠す必要はなくなった。その点についてはキミの妹もどき……もとい、リリーくんに感謝しなければな」
基本はこれまでと同じ、同期で同志。
そして、少なくともつむぎが大人の姿でいる限りは。
「よかったら……聞かせてくれるか? 調部つむぎっていう、魔法少女について」
「もちろんさ。ぜひ聞いてくれ。キミにはむしろ、私についてもっと知っていてもらいたいのだからね」
対等に、一人の大人として、見る。
「私、調部つむぎこと天才小学生の調部紡は……」
タイツを擦らせ伸びる足を組み替えて、腰まで届くウェービーロングな紫髪を、撫でるように軽く手で払いフワリと広げ。
「……“魔法少女ものがたり論”に照らせば、魔女族契約型に属する魔法少女となるだろう」
そうして、魔法少女研究家調部つむぎによる自己解説は始まった。
※ ※ ※
「魔女族契約型とは、簡単に言えば――魔女、歴史と伝統に連なる能力・技術を持った者で――契約、何某かと契約を果たしその能力を得たタイプ、となる。魔女族の物語傾向はミッション。道具話や自己実現、日常と非日常の仲介などが挙げられるだろう」
「日常と非日常の仲介?」
「魔女族の物語は人々の日常と特に繋がりやすいんだ。人類史上の魔女にも近しい存在だからね。彼女達はその立場から、日常・非日常を問わず身の回りで発生する様々な問題、それら一つ一つを自身の力を使って解決していく。人の心に寄り添いこっそりお手伝いをしたり、平穏な日常を守るため密かに超常的な問題と向き合ったりする……なんてのが、魔女族の王道だね」
「なるほど」
森の奥の小屋の中、お鍋をぐるぐる薬を作る魔女のイメージが浮かぶ。
かつて実在した彼女達は、薬学や知識を扱い、薬師や賢者として地域住民と関わりを持っていた。
(不思議な力を用いながら、人々の日常と密接に繋がっていた存在、か)
日常と非日常の狭間にその身を置く者、それが魔女族ってワケだな。
「魔女族の魔法少女ってのは始め、魔法の力を持ってないパターンも少なくない。彼女達は不思議な何かと契約したりお礼を貰ったり、先代から技術を受け継いだりなどしてその力を獲得する。そうした経緯から彼女達は、稀人族のように不思議な力を“宿している”のではなく、日常から非日常へと繋がる不思議な力を“受け取る”魔法少女だとも言えるだろう」
注釈をつけながら、つむぎが白衣の胸ポケットから何やらごそごそと取り出そうとする。
たわわに揺れるそこから出てきたのは、1本の万年筆だった。
「自己に由来しない力を使うって意味では、“借り物”の力を使う存在だとも言える……私のこれみたいにね?」
「その万年筆が?」
「ああ」
一見何の変哲もない万年筆に見える。
だがよくよく見てみると、キャップの部分に何か不思議な文様が描かれていた。
「この万年筆はある日、私の元へ突然に届けられたんだ」
つむぎが万年筆のキャップを外し、空中にそのペン先を走らせる。
すると、彼女の紡いだ動きに沿って、宙に光の線が描かれる。
“大人”と書かれたそれは数秒と持たず霧散して、後には何も残らない。
「この万年筆を送ってきた人物は、添えた手紙で自分をマーリンだと名乗っていた」
「マーリン!?」
有名な伝承に登場する魔法使いの名前だ。
もしかして本物の……!?
「いや、どう考えても偽名だろう」
「ですよねー」
無念。
魔法少女がいるならマーリンくらいいるかもしれないが、少なくとも何の脈絡もなく万年筆を送る人物がマーリンだとは思えない。
「私の両親がよく出先の土産を贈ってくれるのだが、それに紛れ込むような形でこれは届いてね。両親に一応それとなく確認したんだが、知らぬ存ぜぬでな」
「ふむ……」
謎の人物から贈られた謎のアイテム。
実に胡散臭くて、実に不思議で……実に彼女好みなプレゼントだ。
「それを使ったら、今の姿になったのか?」
「その通り! 手紙には短くこう書いてあったんだ――“その万年筆で、なりたい自分を書くといい”と。だから私は“大人”と試しに書いてみた。そうしたら本当にそうなったんだよ。『マジカルアンジェ・プリティーアミ』の竹河穏のようにね!」
万年筆を指で器用にくるくると回すつむぎ。
当時の事を思い出しているのか、万年筆に向けられる彼女の薄紫の目が細まって見えた。
(調部紡が、魔法少女に“なった”経緯)
それは、不思議と謎に満ちた、得体のしれないエピソードと共にあった。
だが。
「ふふっ。前々から小学生の身に限界を感じていたのでね。これのおかげで私は今、私のやりたい事をやれる環境を作る事ができているんだ。実にワンダフル!」
その得体のしれない物を手にした本人は、心の底から楽しげに笑っていて。
「要は、力だ。技術であっても道具であっても、手にした者がそれをどう扱うか。魔女族の背負う物語は、そここそが肝なのだよ」
今の大人の姿こそが、彼女が望んで在りたいと願う姿なのだと、伝わってくるからこそ。
「私は知りたい。この不思議ノ市の事を、そこに住まうだろう多くの魔法少女達の事を。それらと触れ合う事で、私はより深くこの世界について理解を得て、より強くこの世界のワンダフルに触れる事ができるんだ」
その大元に、純粋で小さな子供がいる事を、俺は意識させられる。
「……助手くぅん?」
「ん?」
なでなで。
「いや、その、何と言うワケじゃあないん、だが……」
「んー」
なでなでなでなで。
「……ぅ、ぁぅ」
「んー」
なでなでなでなでなでなでなで。
「…………うあーーーー!! 明らかな子ども扱いはやめたまえ!!」
「ハッ!?」
気づけば俺は、つむぎのそばまで移動して、その頭を撫でてしまっていた。
※ ※ ※
「す、すまない……!」
「まったく! まったくだぞ、助手くん! こんなにセクシーな大人の女性を捕まえてなでなでとは、デリカシーってものがないんじゃないかい!?」
「大人の女性? ……あっ」
しまった。
「あーーーー!! そういう事を言うんだね!? そうかそうかキミはそういう奴なんだな! じゃあ私にだって考えがあるぞ! えいっ!」
「うおあっ!?」
およそ大人の女性がするはずのない飛び掛かりを受けて、俺はつむぎに押し倒される。
ガシャリと音を立てて尻餅をついたのは、椅子の上。
ちょうど、膝上でつむぎを抱っこする格好で抑え込まれる。
タイツ越しの柔らかな太ももの感触が、俺の太ももの上に圧しかかった。
「ふっふっふ。捕まえたぞ、助手くん?」
獲物を前に舌なめずりする女豹のように、つむぎが妖しく笑みを浮かべる。
これまでにないレベルでの密着に思わずドギマギしていると、肩を掴まれグッと彼女の顔が迫ってきて。
「キミのせいで、私の乙女心はズタズタだ。これはぜひとも責任を取ってもらわねばならない」
「っ……」
吐息がかかる。
視界いっぱいにつむぎの綺麗な、頬の辺りに赤みを増した顔が広がって。
はらりと垂れた彼女の髪のひと房が、俺の頬をくすぐった。
「……せてくれ」
「?」
「会わせてくれ!」
至近距離で、つむぎが俺に向けていた視線は。
「キミの妹、リリーくんを、私に紹介してくれたまえよっ!」
どこまでも無邪気で、知的探求心に満ちた笑顔と共にあった。
そして、当然の事ながら。
俺に彼女からの提案を拒否する理由は存在しなかった。
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〔TIPS〕
※マジカルアンジェ・プリティーアミ……1983年作品。普通の少女竹河穏が、光の国から迷子になっていた妖精キラキラを助け、そのお礼に変身ステッキと契約し、憧れのアイドルとなってスターダムを駆け上がっていくアイドルもの。契約期間は一年、プリティーアミとなった穏は、芸能界でトップアイドルに輝けるのか、現実のアイドル活動とも連携して放映され人気を博しました。
来年の新作アニメ。魔法の姉妹ルルット〇リィ、楽しみですね!
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