第09話 御伽守陸人の新しい日常
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妹。
御伽守陸人、大学一年生。
一昨日、妹が妹じゃなくて魔法少女だと判明し、昨日、そんな魔法少女と改めて家族になった、どこにでもいたはずの普通じゃなくなった青年だ。
そうして俺を取り巻く環境が変わったとしても、時計の針は止まらない。
夜を越えればまた朝が来て、新しい一日が始まる。
「ん、んん……」
いつもより温かな気配の中、目を覚ます。
冬用の羽毛布団はまだ出してないはずだが、不思議と身じろぎが許されない、確かな柔らかさと体にかかる重さを感じて。
さらには鼻をくすぐる甘い匂いと、ほんの少しだけ混じるヒノキの香り。
すべてが俺を、緩やかな二度寝に誘う極上のかけら達。
今日は土曜で授業もないし、ふでん研に顔を出すのは午後からでもいい気がする。
そう判断した俺は、与えられる至福に身をゆだね目を閉じ――。
「……おはようございます、にぃさん♡」
「!?」
――ようとしたところで聞こえた声に、反射的に身を起こす。
ギュッ!
「うっ」
動かせたのは首から上だけ。
そこから下は、感じていた柔らかさの原因様が、その身をもって拘束していた。
片手をどうにか動かして、掛け布団を持ち上げる。
「あっ、ダメです。もうちょっとだけ、こうさせててください」
それはエルフか、妖精か。
「えへへ……兄さん♡」
カーテンの隙間から差し込む陽の光が、垂れたプラチナブロンドの長髪を輝かせる。
こちらを見つめるとろんとした深い青の瞳が、濃く艶めいて。
「……リリー」
「はい。あなたの妹の、御伽守リリーですよ。兄さん♡」
パジャマ姿の妹が、俺にのしかかりギュウッとしがみついていた。
魔法の国のプリンセスの名に恥じない、愛らしさを極めたような、安心しきった甘えた笑顔がそこにあった。
※ ※ ※
昨日の今日で、驚きの変化だと思う。
「リリー?」
「はい、なんでしょう、兄さん」
「なんでしょうも何も、ないと思うんだが……」
「いいえ。言ってもらわなければ、わかりませーん」
俺の胸元に鼻先を押し当て、すりすりと顔を擦りつけてくるリリー。
すんすん鳴らされると息がくすぐったくて。
のしかかられているせいで身じろぎするのも難しい。パーフェクトホールドだ。
(これは、明らかに……)
俺の勘が即座に答えを導き出す。
(……“家族”の触れ合いを、求められてる!)
寝起きでも、俺の思考は明瞭だった。
(これまでリリーは、偽りの家族関係を俺達と繋いできていた。けれど昨日のやり取りで、少なくとも俺とは本当の家族として……まぁ、ホームステイ先の一家くらいの扱いな可能性も否定できないが……より素直に関わっていけるようになったってワケだ)
昨日、リリーは言っていた。
俺達との、家族としての関わりのすべてが、彼女にとって嬉しいものだったって。
疑似家族という関わりの中ですらそんな気持ちを抱いてしまうほど、家族の愛情をずっと欲していた彼女が、初めてその気持ちを真っ直ぐにぶつけられるようになったのが、俺だ。
リリーを家族として認め、妹として認め、一緒に過ごそうって吐いた言葉を、撤回する気は毛頭ない。
(こうして素直に甘えようとしてるのだって、今の彼女の一生懸命に違いない)
その証拠に、こちらが真っ直ぐ視線を向ければ、リリーの白い肌の赤味が増す。
「あ、その、えっと……確かに大胆な事をした自覚はあるのですが……えっと」
動揺し、言葉を乱し、あっさりアワアワしだすくらいには、不器用すぎる主張で。
「大丈夫、大丈夫」
「ひゃっ! は? 抱きしめ……えぇ!?」
だったらそこを汲み取って、最大限に応えてみせるのが、今の俺の役割にほかならない。
家族として、兄として、俺が憧れた魔法少女を支える存在として、役目を全うする。
「ありがとう。俺もこうしてやりたかったんだ」
「は? ええええ!?!?」
まさか、家族の一員として魔法少女をサポートする事になるなんて、まぁないだろうと思っていたけれど。
実際こうして俺の腕の中に納まる小さな女の子が今、ここにいる。
「あ、あのあのあの、に、兄さんは……その……!」
「いいぞ。いっぱい甘えてくれて。リリーが望む事、なんだって手伝うから」
「~~~っ!!」
彼女が俺に兄を望むのだから、全力で兄を遂行する。
王家の試練なんていう、彼女が乗り越えるべき物語を、俺のすべてを用いて助けよう。
それこそが、俺が長年望んできた願い、それに繋がるものだから。
「リリー」
「ひゃいっ!」
いくらでも与えて、いくらでも満たしてみせる。
「愛してるぞ」
「はぇ……~~~~~~~~~~~~~っ!?!?!?!?」
キミの幸せのために。
「リリーは大事な大事な俺の家族で、俺の妹だ」
「………」
「あれ? リリー? リリー? ……あぁ、頑張りすぎちゃったか」
気づけばみはりちゃんみたいにふにゃふにゃになってしまったリリーをどかして、添い寝の形へもっていく。
隣ですっかり大人しくなったリリーが落ち着けるように、しばらくの間その綺麗な髪を、手櫛を入れるように撫で続けた。
※ ※ ※
「……兄さんは、ズルいです」
「ん。再起動できたか。じゃあそろそろ起きないとな」
「あっ、待ってくださ……」
「朝ご飯、何がいい?」
「…………パンがいいです」
「じゃあトーストと、軽くハムエッグで」
先にベッドを抜けると、リリーが掛布団にくるまって丸くなってしまった。
「リリー?」
「兄さんは先に行ってください。私はもう少しだけここでゴロゴロしますので」
「二度寝なら自分の部屋で」
「こ・こ・で! ゴロゴロしますので!」
「……はいはい」
すっかり甘えん坊を隠さなくなったリリーの姿に、少しだけ出会った頃を思い出す。
『いい? あなたはこれから私の兄として、私のために尽くしなさい! 私の事を一番に考えて、私の事を無視しないで、私の言う事をちゃんと聞くのよ。わかった!?』
わがまま100%だった、彼女の主張。
魔法の力があったとはいえ、それに素直に従ったのは……きっと。
(出会った時から彼女の力になりたいって……そう、俺自身が思ったからなんだろうな)
自分の気持ちをそう定義して、動き出す。
今日もまた、魔法少女だった、俺のかわいい妹との日常を始めるために。
「……しかし、魔法少女が二人、か」
朝食の用意を始めつつ、もう一人の魔法少女について想いを馳せる。
(妹だけじゃなく同期も魔法少女だった、んだよな)
昨日は色々なショックで聞き出せなかった事もある。
昨晩の顛末を伝える事も含めて、彼女とは……つむぎとは、しっかりと話をしよう。
(何はともあれ……魔法少女は、実在した!)
これまでの日常からは、明らかに変わった。
胸の奥底で燻って、けれど終ぞ燃え尽きる事のなかった想いがまた、煌々と燃え盛る。
子供の時間は終わりだ、なんて。
大学合格と共に一度は諦めた夢に、再び火が灯る。
(これはチャンスだ、御伽守陸人! 望んでた未来が、ないと諦めてた可能性が、一気に二つも来てくれたんだ。だったらもう、全力で挑むっきゃないだろ?)
“魔法少女を助ける人になりたい”
愛と希望と不思議な力で人々を幸せにする彼女達をこそ、助けられるような人になりたい。
そんな決意を胸に抱きつつ、俺はフライパン片手にてきぱき卵を割り入れる。
今はまず、最も近くの魔法少女で甘えん坊な妹のために尽くすのが、俺のサポ道の第一歩だ。
(まだまだ、まだまだ。これから積み上げていくんだ)
どんな道でも一歩ずつ。
付け合わせのサラダを用意して目玉焼きの完成を待ちながら、今の自分にどんな事ができるのか、考えを巡らせた。
第1章はここまで、となります。
以降は隔日投稿でこれまでより少しゆったりとしたペースで進めていく予定です。
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