第7話 風の中の剣士、その名は
数年後――。
王都フィオリアでは、一人の少女騎士の名が語られていた。
「風の騎士」コロン・コロンダ。
忌み子と呼ばれた少女は、王国最年少で近衛団の正式騎士となる。
少女の生家はコロンダ子爵家。
コロンが国王を守る剣となった時、当主は王宮に招かれた。
国王はコロンダ子爵に告げる。
「我が守護剣士、コロン近衛騎士を育てたことに感謝する」
コロンダ子爵は複雑な表情で、頭を下げ続ける。
「しかしながら」
国王は続けた。
「産婆によれば、双子というものは、千回の出産で6組くらいは生まれてくるという。なれば『忌み子』と呼び、存在を嫌がるほどの、稀な存在ではなかろう」
子爵の額に汗が浮かぶ。
きっと国王は知っているのだ。
子爵家でのコロンの生育環境を。
「まあ、コロンの働きを鑑みると、生家にもそれなりの、褒章を授けたいところだが……」
コロンダ子爵は一層頭を下げる。
「今後、子爵の領地の益々の発展を願うために、これを下賜するに留める」
子爵に渡されたのは、一本の枝であった。
「風の剣士が、最初に手にした剣と心得よ!」
「……幸甚に存じます」
コロンダ子爵の眦に、光るものが浮かんだ。
木の枝は、その後コロンダ家の家宝として、大切に扱われたという。
王宮を去るコロンダ子爵の姿を、コロンはトッシーと一緒に見つめていた。
「なあ、会わなくて良いのか?」
心配そうなトッシーの肩を、コロンは叩く。
「うん。会っても何を話していいか、分かんないから」
「そっか……」
コロンの名声が高まる一方、コロンダ家の評判はダダ下がりだ。
幼いコロンを放置していたことは、領地を越えて広がっていた。
「なんだ、こんな処にいたのか、コロン。あとトッシーも」
いつの間にか、二人の背後にレオンがいた。
「あ、うん。これから訓練しに行くよ」
コロンは近衛団の白い制服のボタンを留めた。
それからも――
少女は、いつも本気で世界を見ている。
国と国王を守るために、どこまでも走り続けた。
時には道なき山に向かい、凍える夜を越えた。
何度も倒れ、何度も立ち上がった。
それでも、走ることだけはやめなかった。
足を止めた瞬間、自分が消えてしまうような気がするのだ。
「荒野を一人で駆け抜ける小さき影」
「戦場に現れては、風のように敵を斬り裂いていく少女」
彼女は今も、どこかの戦場を走り抜けている。
風のように、自由に。
第一部 完
Q:え、転生前の話とかないの?
A:あと一話だけあります。マジ
本編第一部は、完結です。
エピローグあります。




