目覚め6
「周囲に気配は感じないし、離れの見張りも一人しかいない‥‥‥拠点としては何だかすごく手薄だよね、これって罠かな」。
「罠か。可能性は高い‥‥‥。だが、ここはあかりの救出を最優先とする。明け方には本隊が来る。それまでに、あかりと共に時間稼ぎができれば充分だ」。
離れが見通せる距離まで接近した二人は、周囲の様子を窺いながら、その異様な静けさを危惧せずにはいられなかった。
「そうだね。危険は承知の上、あの時もそうだったし‥‥‥あかり、すぐ助けに行くから待っててね」。
「ああ、必ず助け出そう」。
二人は目を合わせ、静かに頷いた。
その目に映るのは、かつて交わした約束。
ーーー時は遡ること、慶兆二年。
この年も冬の寒さは厳しく、内陸の山中では前日に降った雪で一面が銀世界になっていた。
月明かりに照らされた零下の雪原。
白い息を吐きながら、ひた走る三つの影があった。
「体が凍りそうだよ‥‥‥何かさぁ、絶対ハズレ引いたよね、僕たち」。
「任務にアタリもハズレもないと思う」。
「そうだな、あかりの言う通りだ、まつり」。
「え〜、あかりもまといも真面目なんだから‥‥‥そんな真顔で答えなくたって」。
まつりが口を尖らせながら言う。
あかり、まとい、まつり、三人のくのいちは、影の縁ー選抜試練で結成された初顔合わせの即席チームであった。
影の縁ー選抜試練。
下忍の中から、望んだ者だけで幾つかの班が結成され、各々に任務が与えられる。
任務を果たせば上忍昇格ーー。
だが、それは命を懸けた“本番”の試練だった。
生きて戻れる保証など、どこにも無い。
「あそこが密使が消えたという宿場のようだ」。
街の灯りを見つけ、まといが言う。
「うん、情報だと『たまの湯』っていう温泉宿に入った後から、行方知れずになったんだよね」。
「どうして密使が温泉宿なんかに行ったのか?その情報は無かった気がするけど」。
まつりにあかりが聞き返す。
「そこは無かったね、ただ密使の捜索救助をしろって事だけだよ」。
まつりはそう言いながら、肩をすくめた。
「そう言うな、三河様からの依頼なら里として断りようもあるまい‥‥‥先ずは密使の居場所を突き止めよう」。
そう言ってまといが、懐から密使の人相書きを取り出すと、そこには黒い洋装の男が描かれていた。
「異国人‥‥‥ここからは手分けして探そう、定時報告はこの場所で」。
あかりが提案すると、まといもまつりも頷き、三人は宿場町手前にある祠を後にした。