目覚め3
静かな部屋に行燈の灯りが揺らぎ、その柔らかな光が白壁に人影を映していた。
山中から運ばれたあかりは、敵屋敷の離れに監禁されていた。
見張り役は出入り口に居る一人だけか‥。
音を立てぬよう細心の注意を払いながら、あかりは部屋の内部を探った。
監禁された部屋は出入り口があるだけで窓は無く、外の様子は知ることができない。
‥伝令は無事に逃げおおせたようだ‥となれば、後はこの状況をどう切り抜けるか‥。
任務が成功していれば、本隊が此処を急襲するのは時間の問題、あかりはその猶予を一日以内と考えていた。
‥‥だめか、この縄は解けそうにない‥。
あかりは麻縄で手足を縛られ、布で猿轡もされている。
武器は全て押収され、部屋の隅に無造作に置かれていた。
脱出の術は、今のところない。
脱出が出来ないとなれば、時間稼ぎに徹するしかない‥。
あかりが生かされた理由は明白である。
奴らの狙いは里の情報のはず‥。
だが、たとえ命と引き換えでも、あかりは一切口を割るつもりはなかった。
そして、このあかりの判断は、まさに的を射たものだった。
開成の傘下にいる忍び集団の中で、名実ともに筆頭は『龍隠』と呼ばれる忍び集団である。
開成は『影の縁』を排除するため、筆頭忍び集団・龍隠に討伐を命じていたが、巧妙に隠された『影の縁』の拠点を突き止める事には手を焼いていた。
敵屋敷の別室では、組頭が伝令係からの報告を受けていた。
「組頭、あのくのいちは指示通り、離れに監禁して、香炉にも火を入れておきました」。
「そうか、わかった‥後は俺が直接尋問するから、お前達は屋敷の警備に戻れ」。
「はっ」。
伝令係が頭を下げ、部屋を出ていく。
此処の情報を流せば、お前達が来るのは必定、まんまとやって来てくれたな‥囮の拠点とも知らずに‥。
組頭は口元を吊り上げ、薄笑みを浮かべている。
俺はツイてるぜ、これで手柄を立てりゃ、いよいよ幹部入りも見えてくる‥さてと‥。
机の上から、小さな巾着袋を手に取る。
中には、あかりを尋問するための薬が入っていた。
あのくのいち、どれくらい耐えられるかな‥せいぜい、いい顔でも拝ませてもらおうか‥。
組頭はニヤついたまま、巾着袋を懐にしまい、離れへと向かっていった。