目覚め2
あかりが敵忍者を惹きつけている間に、あかりの放った伝令は無事に山中を駆け抜け、川伝いに北上していた。
「来たみたいだ、まつり」。
川沿いを望める小高い斜面に、伝令の動きを目で追う二人のくのいちが居た。
その二人はあかりと似た黒の忍び装束を纒い、一人は右目に眼帯を着け、別一人は左右で瞳の色が異なるオッドアイである。
「あの子が伝令だね、じゃ早速ーー合言葉といこうかな」。
眼帯を着けたくのいちから、まつりと呼ばれたくのいちは、そう言いながら指先を自分の唇に当てると、走る伝令に向けて短く指笛を二回鳴らした。
伝令が足を止め、指笛を一回鳴らし返してくる。
まつりは軽く頷き、今度は指笛を三回鳴らすと、それに対して伝令は指笛を4回返してきた。
「当たりのようだね、まとい」。
まつりは眼帯のくのいちに向き直り、そう言った。
「ああ、そのようだ」。
まといと呼ばれた眼帯のくのいちが立ち上がる。
まといとまつり、二人のくのいちが伝令に近づいていくと、伝令もそれに気づき、二人に向かい、その場で立膝をついた。
「最終確認だよ‥しろ」。
「はす」。
まつりの合言葉に透かさず答えた伝令を見て、まといが大きく頷いた。
「ご苦労だった‥先ずは手短に状況を教えてくれ」。
まといが淡々とした口調で伝令に聞いた。
「はい、申し上げます‥敵の拠点を見つけました‥これはあかり殿から預かりました、拠点の場所を示すものです」。
伝令は懐から小さな紙片を取り出し、まといに差し出した。
その紙片を見たまといが、眉を僅かにひそめた。
「あはは‥僕達なら解るけど、あかりの描いた図、相変わらずの下手さだね」。
まといに渡された紙片を、覗き込むように見たまつりが、言いながら小さく笑った。
「君もここに描かれた建物は見たの?」。
まつりが伝令に尋ねると、伝令は確りと頷いた。
「そう、よかった‥それなら後ろにいる本隊の道案内は頼めるよね‥それであかりは一緒じゃないようだけど、何があったの?」。
まつりの言葉に、伝令の表情が曇り始めた。
「はい、拠点を突き止めた直後に敵の気配がして‥あかり殿から伝令はお前に託すと言われ、そこから別行動になりました‥おそらくあかり殿は私を逃すために、一人で時間稼ぎの戦いを‥‥」。
そこまで言って、伝令は声を詰まらせた。
「大丈夫だよ、そういう事も予測の内さ、だから僕達二人は先行して、ここまで出張っていたんだから、ねっ、まとい」。
まといはしゃがみ込んで、伝令の肩に手を掛けた。
「状況はわかった、あかりは私とまつりで救助に行く、君はこの先にいる我々の本隊まで走って、この状況を伝えてくれ、いいな」。
「はい、お任せください」。
まといの言葉に伝令は、気を取り直したように立ち上がると、紙片を再び懐に仕舞い、北へ向かい走り去って行った。
「どう思う?まとい‥あかりなら易々とやられるような事はないだろうけど‥もし捕まりそうになったら、真面目だから自決とかしかねないよね」。
「そうだな‥敵、龍隠の連中だって馬鹿じゃない、あかりを捕えて、こっちの情報を得ようとするだろう」。
「‥‥ってことは、さ」。
「その通りだ、急ぐぞ、まつり」。
まといとまつりは伝令の来た川沿いを、急ぎ南下して行った。
あかりは敵忍者の放った分銅鎖に捕まり、抵抗もままならず、取り押さえられていた。
「まったく随分と手間を取らせてくれたなぁ、その技量ならお前、上忍だろう」。
忍者数人から手足を取り押さえられたあかりに向かって、敵組頭が勝ち誇ったように言った。
「だんまりを決め込むか‥まぁ、そりゃそうだよな、別にいいぜ、屋敷に戻ったら嫌でも白状するようにしてやるからよぉ‥おい、舌を噛ませないように猿轡して、ふん縛っておけ、それが済んだら屋敷へ戻るぞ」。
忍者達があかりの口に布を噛ませ、手足を縛り上げていく。
大柄でガタイのいい忍者に、あかりはひょいと担ぎ上げられ、夜の山中へと連れ去られていった。