『後三条天皇東宮のとき、益智を召し、速記などのことについて尋ぬること』速記談3062
後三条天皇が東宮でいらっしゃったころ、御持僧勝範座主に、地位に興味がなく、真言と止観の両方に明るく、漢籍にも通じている者を推薦せよ、とおっしゃった。勝範座主は、比叡山の僧の中から探し、西塔の益智がふさわしいと思います、と報告した。早速、手紙を持たせて東宮のもとへ向かわせた。東宮が御前に召した勝範を見ると、墨染めの衣に狩袴という姿であった。およそ栄達を願う者の出で立ちではない。まず止観について幾つか質問してみたが、よどみなく答える。次いで真言のことを質問してみたところ、これもよどみない答えである。漢籍について尋ねたところ、ほとんど儒者のようである。ついでに速記について尋ねてみると、よくは知らないと言いながら、一刻ばかりしゃべり続け、東宮は大いに感じ入ったという。
教訓:益智は、この後、ほどなく亡くなってしまう。有用な人物は長生きできないものである。