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幸せな眠りと夢を

 案内された宿の部屋は、ナタンが想像していたよりも清潔で、快適そうだった。

「ここ、灌水浴装置(シャワー)だけではなくて、浴槽(バスタブ)もあるんですね」

 部屋の奥を覗いていたセレスティアが、心なしか嬉しそうに言った。

「そういえば、風呂を沸かす燃料や、部屋の照明とか、ここではどうしてるのかな」

 辺鄙(へんぴ)な土地であるだけに、風呂は薪をくべて沸かし、照明は油などを使用したランプ程度だろう――そう考えていたナタンは、思いの外、近代的な室内を見回して呟いた。

「おそらく、この宿は自前の小型魔導炉(まどうろ)を持っているんだろう。水は、地下水を汲み上げて浄化しているか、或いは魔法で生成しているというところか。もっと安価な、魔導炉(まどうろ)など無い宿に行けば、古い時代の雰囲気を味わえるかもしれないが」

 フェリクスが、冗談とも本気ともつかない口調で言った。

 魔導炉(まどうろ)というのは、「魔導絡繰(まどうからく)り」の一種で、「マナ」と呼ばれる物質を空間から取り込んで、照明その他の「魔導絡繰(まどうからく)り」の原動力へと変換するものである。

 現在、多くの国では魔導炉(まどうろ)社会基盤(インフラ)として各所に設置しているが、「無法の街(ここ)」では、全てを自らの力で何とかしなければならないのだ。

 数日ぶりに入浴し、柔らかな寝台に横になって身体を伸ばしているうちに、ナタンは眠りに落ちていった。

 

 久々の幸せな眠りの中で、ナタンは、彼が幼い頃に亡くなった、祖父の夢を見ていた。

 祖父は、孫の中で最も年少のナタンを特に可愛がってくれた。ナタンも、祖父が好きだった。

 幼いナタンは、祖父の膝の上に座って、彼が様々な話をするのを聞くのが楽しみだった。

「わしが、今のナタンと同じくらいの頃にな……」

「お爺ちゃんも、子供だったの?」

「そりゃあ、わしだって昔は子供だったさ」

 ナタンの言葉に、祖父は愉快そうな笑い声をあげた。

「わしの爺さんの友達という人たちがいてな」

「お爺ちゃんのお爺ちゃん?」

「そうさ。みんな、ご先祖から、そうやって繋がっているんだ。……で、爺さんの友達というのは、一人は綺麗な顔をした兄さん、もう一人は、これまた綺麗なお姉さんだった」

 二人は、ナタンの祖父の祖父、アーブル・エトワールの古い友人という話だったが、不思議なことに、いつまでも姿が変わらず、若いままだったという。

「『異能(いのう)』の中には、大人になると見た目が変わらなくなる者もいるというから、きっと、そういう人たちだったんだろう。二人は、わしを大層可愛がってくれてな。わしも、彼らが、とても好きだった」

 しかし、アーブル・エトワールが亡くなると、二人は、どこへともなく姿を消した。

「爺さんが亡くなったのも悲しかったが、二人が姿を消してしまって、わしは寂しい思いをした」

 少し成長した祖父は、二人のことを調べてみた。しかし、初代大統領の側近としても多大な功績を残した筈の二人についての記録は、何も残されていなかったのだ。

「まるで、そんな人たちは存在していなかったとでも言うように……二人のことは、お兄ちゃん、お姉ちゃんと呼んでいたから、名前も分からないままだ。大人たちに尋ねても、言葉を濁されるばかりで、何も教えて貰えなかった、でも、彼らは、たしかに存在していたんだよ」

「また、会えるといいね」

 祖父の声が少し悲しげに震えるのを聞いて、ナタンは、自分を抱いている彼の手を、そっと撫でた。

「ナタンは、優しい子だなぁ。……今は、彼らにも、何か訳があったんだろうと思っているよ」

 そう言って、祖父もナタンの頭を優しく撫でた。


「――そろそろ、朝食を()りに行かないか」

 フェリクスの声と同時に、窓から光が差し込むのを感じて、ナタンは目を開けた。

「今日も天気がいいし、出かけるには丁度いいですね」

 窓掛け(カーテン)を開けながら、セレスティアが言った。

 ――そうだ、これからどうするかも考えないといけないな。

 ナタンは、寝台から這い出して、大きく伸びをした。

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