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俺が気にする

「この甘い卵の蒸し物、柔らかくて美味しいですね」

 セレスティアが、楽しみにしていた食後の甘味(デザート)盛り合わせに舌鼓を打ちつつ、満足そうに言った。

 それだけ見れば、無邪気な少女そのものだ――彼女の様子に、ナタンも微笑ましいものを感じた。

 セレスティアに(すす)められ、ナタンは盛り合わせの中の焼き菓子をもらった。

 空気を多く含んでいるのだろう、ふわふわした生地と、添えられた乳脂(クリーム)を合わせて口に入れると、不思議な幸福感を覚えた。

 ――甘いものなんて久しぶりだ……もう二度と、こんなものは食べられないかと思った……

 久々に腹を満たした所為か、ナタンは急に眠気を感じた。

「腹の皮が張れば目の皮が(たる)む、というやつだな」

 欠伸(あくび)を噛み殺しているナタンを見て、フェリクスが、くすりと笑った。

 彼は、通りかかった店員を呼び止めて、会計を頼んだ。

「……それと、ここは宿も兼ねている店と聞いたが、まだ空いている部屋はあるか?」

 フェリクスに尋ねられた店員は、一同に目をやってから言った。

「ええと、今日は、もう一室だけ……二人部屋しか残っていないのですが、補助用の寝台を入れれば、三名様でご利用が可能です。どうしますか?」

 その言葉に、ナタンの眠気が吹き飛んだ。

「あ、いや、俺は……」

「了解した。補助用の寝台は俺が使おう。では、部屋を用意してもらっていいだろうか」

 フェリクスが言うと、店員は、承知しましたと言い残して、店の奥へ向かった。

「食事を奢ってもらった上に、宿までなんて……何だか悪いよ」

 ナタンは恐縮のあまり、肩を(すぼ)めた。

「食事代もないのだから、宿代も当然持っていないのだろう? そんな状態の君を放り出す訳にはいかないじゃないか」

 まるで当たり前だとでもいう調子で、フェリクスが言った。

「でも、その……いいのかな」

「私は、ナタンのことを信用していますよ」

 狼狽するナタンに、セレスティアが言った。

「もちろん、君に何かしたりなんてする訳ないよ! ただ、邪魔になるんじゃないかと思って」

 ナタンが言うと、フェリクスとセレスティアは首を傾げた。

「君を邪魔だなどと思う訳がないだろう?」

「そうですよ」

 にこにこしながら答える二人を前に、ナタンは頭を抱えた。

「だって……二人は、どう見ても恋人同士だろ?」

「そうだが?」

 きょとんとした顔で、フェリクスが再び首を傾げる。

「二人きりになりたい時だって、あるんじゃないか?」

 ナタンも、ある程度の年齢の恋人同士であれば、彼らの間に、どのようなことがあるのか想像がつかない程の子供ではない。

 数秒の沈黙の後、セレスティアが口を開いた。

「ああ、あなたは私たちに気を遣ってくれているのですね。でも、私たちは気にしませんから、大丈夫ですよ」

 そう言って、彼女はフェリクスと顔を見合わせて微笑んだ。

「俺が! 気にするよ!」

「君に見られて困るようなことはしないから、心配ないぞ」

 思わず顔を赤らめるナタンを見て、合点がいったとばかりに、フェリクスが頷いた。

 ――いい人たちなんだろうけど、何だか調子が狂うな……

 ナタンは、小さく息を()いた。

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