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第27.5話

「どうやらローソク部隊が動いているらしい」


 そう聞きつけたのはシジャンズ・エレッディア。セルシアに属する博愛主義の魔法使い。

 兼ねてより機会は伺っていたが、まさかこの一年で一番忙しい時期とは、彼女自身喜びと共にほんの少しの苛つきがあった。ローソク部隊があってもなくても、彼女自身エレッディアへの評価など揺るがないほどの実績がある。死の病とされたアルカナの治療に最初に成功したのは彼女で、その手法は医法会に法外な値段で売却されたという。

 機会、というのはそう。ローソク部隊から権限を奪う機会。権力は奪えない。権力とはすなわち暴力のことで、彼等の暴力は絶対的なものだ。キカリアの調査の結果、一番弱いとされたグラブジェイル・デ・メリットも、セルシアの平均的な隊吏たいり一戸分に匹敵するとか。

「だからこそ、今なんですね?」

 キカリア・マークの顔には、探偵を名乗るには派手すぎる、毎日変わる大きな幾何学模様の刺青が入っている。今日の刺青はセルシアの伝統的で古臭い逆七角形のウェペ模様だった。

「奴らに取って代わることなんて誰にもできやしないけれど、奴らの席を奪って座るくらいなら」

 とは言え、彼等の働きを理解していないエレッディアではない。彼等のお陰で乗り越えた危機の数とその規模を知っているからこそ、その席に座ることを誰もが恐れたのだと理解している。メリトン・ムナウアルは化け物だ。

 だからこそ制御しなければならない。暴力装置である彼等を、権威と権限で抑えなければならない。これからの自らの動向についてパトロンらに伝えたところ、支援は打ち切ると言われてしまったが、それはあくまで表向きな支援の停止で、言ってしまえばパフォーマンスにすぎず、裏ではこれまで通りの金銭と支援を受け取っている。セルシアに生きる人間で、ムナウアルに対して反感を抱いている人間は少なくない。

 この法仕主義の時代にそぐわない彼等の在り方は正され糾されなければならないと主張する者にとって、エレッディアは希望の星、あるいは絶好の駒だ。

「一つだと思うの。ローソク部隊が手強いのは、この国に認められてるとか、医法会にパイプがあるとか、所属する一人一人の属人的な能力に依存しているというよりは、ムナウアルの経験値にあると思うの」

「星災ですか?禊承剣なんて彼女の手柄というわけじゃないですけどね」

 ムナウアルが他の人間と全く異なるのは、彼女だけが2つの星災を経験しているのいう点だ。どの時間の誰も知らない〝大現象〟と、現世代の誰の記憶にもある〝禊承剣〟。

「キッカがムナウアルに抱く感情は不純なの。そういうの、こっちに押し付けないで」

「………………………」

 キカリアは不服そうな顔を浮かべながらも、先に繋ぐことなく言葉を閉じる。もっとも、そのムナウアルへの感情を利用するためにエレッディアはキカリアを施設ウィナイナから引き上げわけだが。

「なら、どうするんですか。今から、その経験の差を埋められると?」

「星災への対応力が彼女をその地位に押し上げてるのなら、私がそれをすればいい」

 彼女抜きでね、と付け加える。

 実際のところ、今現在、もっとも星災に近いと言われている事象は不純魔力絡みの事故だろうとキカリアは考えていた。帝国の研究者が消し飛んだ08事象(いわゆる飛ぶヘイル事件)で、ローソク部隊は動いたとの話もキカリアは耳にしていた。

「帝国と公国が戦争をしていたせいでハルガに手を出すのは難しかったけど今はそうじゃない。独立した今なら、乗り込んでって災害認定して解決してしまえばいい」

「ですが、星災でないモノを星災とするのは………」

「そうね。だけど前例があるモノなら?」

「………無名の剣ですか?」

「そう。七星剣が星災なんじゃないかって話。私が合同会議を開くのはそれが理由。不純魔力の方じゃない」

 禊承剣、冀望剣、七星剣、収憐剣。無名の男の作った4つの剣は、どれも謎に包まれている。禊承剣は星災に定められたのちに消滅。冀望剣に関してはローソク部隊の一人が所有したまま行方知れず。七星剣はホコロビミキが引き抜いたものの、その性能は不明。収憐剣はセルシアの管理下だが、『保存のための封印措置(アーレスナーロ)』が施されており、誰もその存在を目にしたことはない。

「親衛隊にも勝てなかったと聞きましたが」

「それは知らないわよ。七星剣が帝国の騎士に負けたかどうかなんてどうでもいいの。ただ私は知っている。あの七星剣には精霊がついてるって」

「精霊ですか。確かに珍しいですけど」

「そして、これは表には出ていないけど、あの七星剣の戦歴。知ってる?」

 キカリアの言葉を遮るように、エレッディアは机の上に山のように置かれていた資料の中から、おおよそ百ページはあるだろうと思われる束を取り出してキカリアに渡した。時代を感じさせる劣化を纏うその書類の束には血証が刻まれており、その承類しょうるいは八十七。書類そのものだけでなく、見た者の記憶にも鍵をする。

「よく残ってましたね」

「あの精霊は、これらの戦闘経験を持っている。ホコロビミキが戦えているのはこれが理由なら」

 そう言いながら、キカリアは持つ書類をペラペラとめくり、あるページでその手が止まる。

「………………そういうことですか」

「そう、それが理由。私がどうして七星剣を危険視しているか分かった?」


 外縁帯の破壊記録。

 時間も場所も所有者も、全てが黒く塗りつぶされていて読めないが、記録として確かに存在する。それが何時いつ何処どこで、何者だれによって為されたのかも重要だが、その事実を誰が保証するかがより重要だ。

「メリトン・ムナウアル。この記録は彼女が残したものだから。だからこそ、私はコレを信用するし、コレを証拠として提示するつもり」

「血証がある以上それは難しいのでは?」

 口外できないように鍵がかけられているわけで、エレッディアもこの書類を所持しているからその情報を認識しているだけだ。この書類がなくては七星剣の脅威については伝えきれない。

「だけど、私は鍵となる人間をこの会議に招待しているの。ほら、ハルガの」

「ファストノートですか?」

「違う。スァフブケットよ。エアグレージョ・ヨエイ・スァフブケットの方」

「確か………ハルガの村長の娘でしたっけ?」

「そうよ、そう。思考を読める魔法使いらしいの。彼女ならこの書類を読んだ私や貴方の頭の中を覗けるんじゃないかって」

「………招待してませんよ?」

「は?」

「だって、ほら」

 そう言いながらキカリアがメモを取り出す。そこに書かれているのはエレッディアが手紙を出すように伝えた人のリストで、カルディナール・レイウェポンやイリオラ・メェルズ、フェムト・フォエなど、研究者であれば嫌でも耳に入る名前が連なっていた。

 そして、その一番下の小さなスペースに、エアグレージョと詰め込まれながら見覚えのありすぎる筆跡で書かれていたのをキカリアは発見して、すぐにその紙を口の中に放り込んだ。

「はぁ!ちょっ!何してるの!」

「まみもみみまめん」

「ほんとに意味わかんないんだけど!」

 エレッディアは深く腰掛けていた椅子から立ち上がりキカリアの両肩を揺らすが時既に遅く、大きく口を開く部下の可笑しさに、ただ笑い呆れるしかなかった。

「というわけで、私はそろそろ出席者を確認してきます。もしかしたらエアグレージョ・サファバケットさんが来ていないかもしれませんし」

「スァフブケットよ。呼んでないなら来ていないでしょうけどね」

 そう言ってキカリアは部屋から出た。

 残されたエレッディアは、立ち上がって両腕を上に挙げた。伸びる背中が緩んだとき、少しだけ気が落ち着いた。


 彼女のいる聖室の場所は、リスラティー亜空宮殿。

 時代を感じるこの場所で、合同会議は開かれる。


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