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第26話

 城の中ではロウシスが壁を解除して、モメはホルトバルトまでの通路構築を行う。僕はその間、暴発した不純魔力を断ち切る。翼が使えるのは一度きり。しかし、不純魔力の暴発は頻発するものではないらしいので、おそらく問題はないらしい。

 メリットが問題なくホルトバルトに着いたことで、あとは各々が役割をこなすだけだと思いながら、僕は形のない城から出て寝っ転がっていた。

 だからロウシスが殺されて、モメが襲われた瞬間は本当に訳が分からなくて、だから本当に剣と翼があってよかったと思った。

「んうっ!?」

 思い切りの低空飛行の勢いそのままに、胴にラリアットする要領でモメの体を弾き飛ばす。優しくする余裕なんてなく、ある程度のダメージがあったとしても、それは仕方のないことだと既に体の制御権をアイに取られたミキは冷静に考えた。

 ロウシスの体が解体されて散乱している一階から上の方にそのまま飛ぼうとすると、天井にぶち当たった。先程までは実体のなかったこの城になぜか形が現れていた。

 翼は片方しか出ていないので物理的には飛べるはずはないのだが、どうやらこれは概念的なものに過ぎず、実態として空気を仰いで揚力を発生させている訳ではないようだ。そうして片翼のまま穴があった城の中央から逃げるように奥へ奥へとモメを抱えたまま逃げる。瞬きの度に変わる城の装飾に、ミキはおかしくなりそうだったが、アイは何ら惑わされることなく進んでいきモメを下ろし、踵を返す。そうして元に戻ろうと翼に力を込めたところで、そいつは姿を現した。


「………………………あれ、師匠だ」

 モメはそう呟いた。

「まじか!?」

 アイは構えた七星剣を少しだけ低い位置に下ろした。

 モメの師匠であるリストの外見で襲ってくる存在に対し、どう対応すべきか。まだ何も方針は立っていなかったが、最悪の場合は想定しなければならない。

「その師匠の戦い方ってゆーのは分かる?」

「師匠は男だけど魔法使いなの。だけど研究者だから戦ったりしてるのを見たことないよ。」

「なるほどねぇ。殺していいの?」

「………精神の復元は壁の解除で問題なくできるけど、肉体に関してはアレを流用したいかな」

「壊しちゃダメってことね。りょーかい」

 会話は終わる。そうして始まる戦闘。

 何をしてくるのか分からないが、倒すために必要なことは相手の行動を停止させることだ。人体を動かすのに必要だが、なくても問題のない部分を切る。だからまずは健を切る。勢い余って切断する羽目になっても仕方がないとアイは思った。

 が、リストは予想外な行動に出た。


 剣を取り出したのはどこからか。距離は無くなり、構えられた剣の先は眼前にまで迫っていた。

 すんでのところで回避したのだが、そもそもそこまで近づかれたのは油断していたからだ。

(あっぶな!)

「モメちの大嘘つき!」

 そう言いながらアイは自分の背後にいるモメを、来た道の方へ回転蹴りでぶっ飛ばした。ちょうどリストとアイたちの立ち位置は入れ替わり、モメは廊下に叩きつけられながらロウシスがいる穴の方向へ戻る。ダメージを減少させるために最初のクッションになった左腕は誰が見てもわかる酷い折れ方をしており、見えない体の内側でも生暖かく出血していた。しかし、そんなことを気にする暇はない。痛みに気を取られていい時間はない。それにこんな傷なら冀望剣でどうせすぐに治るのだからと、ダメージを受けた骨に鞭を打ってモメは穴へ走った。


 そして、それを防ぐようにアイは再び立ち塞がる。

 リストの剣はこの城と同じように見た目を次々と変えていた。長さが変わるのは厄介だが、それだけならどうにかなる。

 間合いをしっかりと取り、相手の動きに注視する。最大の射程を想定し、リスクを最小にする。殺すだけならそんな想定は必要ないが、殺さないためには必要だ。

 ぶつかり合う鉄の重さはその度に変動するので、力を全く緩めることができない。そのため、いつもよりも握力を消費する戦い方を選択させられている。公国の際には長時間戦い続けるために脱力と加減を調整していたが、今回はそれができないため体力的に長時間戦い続けるのは厳しい。

 戦ってわかることは純粋な強さ。親衛隊の圧倒的な対応力とは違う純粋な強さ。奇を衒わない真正面の強さ。基礎の徹底なんかじゃ到達できない純然たるレベルの高さ。


「………力の性質。壊す力と守る力。ミキはどっちが強いと思う?」


 息が少し乱れてきたアイがミキに問う。だがミキは答えられない。それに対する答えを彼はまだ持ち合わせていない。

 翼が生えたままの背中で感じる不純魔力の爆発が抑えられていることから、ロウシスが蘇っていることを確認する。ともなれば、誰が壁を解除する?

 もともとそれはロウシスの役目だったわけだが、聚斂銀河で不純魔力を抑え込むので手一杯だ。それにモメは戻ってホルトバルトまでの通路の構築を再開しただろう。

 ともなればすぐにでもリストを拘束し、聚斂銀河で抑えている不純魔力を切る必要がある。

 だができるだろうか。


 アイの葛藤。もういっそのこと外れてしまおうか。それならきっと殺せるだろう。そうして仕舞えばモメの目的は果たせなくとも、この世界の危機を退けることはできるだろう。世界が死の世界になる前に手を打つべきなのだろう。それが最善だと思うし、それ以外に思いつかない。

 傷はないが負けつつある。このままでは勝てない。勝てない。どうして勝てない?

(アイ………大丈夫?)

 ミキの心配も嫌になる。殺すべきかと本気で考えるが、迷っている暇はないし余裕もない。

 決断すれば一瞬。だけど、それでも届かないことはある。

「ああぁ………あああああ!」

 城に響くのは絶叫。息も絶え絶え荒くなる。その痛みは体験したことがない。ポタポタとなんて生やさしいものじゃない、夥しい量の血が辺りに散乱する。

 左腕が縦に割れているのは相手の剣がそこを通ったからだ。そうでなければ断たれていたのは胴の方だった。最悪は回避したが、最善であったとも思えない。

 右腕にありったけ殺意を込める。

 もう全てを諦めるべきだ。自分の足を引っ張る迷いを、捨てることでなく、決断することで引き離す。死を届けるために、守るものを考えず、ただ生き残るために振るう。

 暴力を理解する。正義に依存することのない、大義に操られることのない、純粋で無色透明な暴力。守るとか壊すとか、力である以上、それは視点の違いでしかない。

「殺す。殺そう」

 もはや使えない左腕を刀で切断する。全身を駆け巡る激痛のシグナルを無視し、頭に響くミキの言葉には耳を傾けることなく、意志を持って戦う。自分の意志を持って戦う。生き残る為に殺すなんて考えが甘すぎる。殺す為に殺す。その為になら殺されても構わない。

 もう多分無理だ。

 この刀では無理だ。この刀はなんでも切れる訳ではない。殺せない。リストはきっと殺せない。だから、もうみんな死ねばいい。

 それならきっと。



(落ち着いて、アイ。冷静になって。僕たちはまだ負けてない)



 加熱しきった脳髄に、氷の柱が突き刺さる。

 届く。ミキの声が頭に届く。先程まで乱れていた頭の中がすっきりとしていく。

「………どういうこと。どうして急に。」

 そして気がつく。翼が消えた代わりに現れている。翼ではないが、空に到達するための、全く別のもの。アイは全く知らないが、ミキの記憶の中にはあった。


 『天の羽衣』。

 かぐやの昇天。竹の中の姫が月に帰る物語の中で登場したその服は、身に付けた者の悩みを打ち消し、思考を天人へと引き上げる。

 ミキは片翼分をここで使った。もはやそれは翼ではないが、翼と同様に、むしろ翼以上に天を目指すものだ。

 リストの魔法か、それとも勝機が見えないことによる焦りなのか。どうして頭がぐちゃぐちゃになっていたのかは分からない。だが問題ない。原因が分からずとも問題は解決できる。

「混乱してただけだったみたい」

 極めて冷静に思考できる。全く無理難題だと思っていたことがすごく近く感じる。思考の渦は、水平面の様に美しく研ぎ澄まされていた。

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