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第24話 人を殺す最も醜い感情が愛であるように、人を満たす最も美しい感情もまた愛である。

 人によって最優先事項というものは違って、モメにとってはリストであり、メリットにとってはモメであり、ロウシスにとっては世界である。

 では、ミキにとってのそれが何か。

 人は頼られることに快感を抱く生き物だ。頼られて、助けることが生きがいだという人もいる。

 ミキは自分がそうなりかけていると感じていた。


「行動は早い方がいいけど、それでも休息は必要だ」

 メリットがそう言って狩りに出かけたのはつい先ほどのことだ。

 僕たちは目的地をハルガの中心部に定めた。そこにはモメの師匠であるリストという魔法使いの痕跡があるという。

 考えてみれば、どうしてモメのために命を張っているのかと思う瞬間もあるけれど、人間の行動全てに、納得できる理由があるわけでもないので、深く考えることはやめにした。

 ストレスは解消することも大切だけれども、認識さえしなければ問題はないはずだ。


 メリットが去った後、モメとロウシスがリストの話をするようだったので、僕とアイは冀望剣が用意した無名の小屋から少し離れた場所にある、ひらけた場所に座って、ジィが作った人工の銀河を寝っ転がりながら見ていた。

(なぁ、ミキ。自分と正反対の人間って会ったことあるか?)

 僕は深く考えることなく、

「エアさんかな。何から何まで僕とは違ったと思う」

(あー、確かに。エアは中々に面白いやつだった)

 それだと僕がつまらない人間ということになるのではないだろうか。

(人間ってのはさ、誰も彼も違う部分があるけど同じ部分もあるだろ。だからさ、実は正反対なんてことはないんだ)

「じゃあなんだ。みんな違うけどみんな同じ。そういうこと?」

(うーん、そうじゃなくてさ。逆に聞くけど、どういう時に正反対だと思う?何を見てエアと自分が正反対だって思ったのさ)

「………雰囲気かな。あの誰とでも仲良くなる感じというか、自由な感じというか」

 アイは僕とそらの間に来る。僕たちは向かい合うような形になった。

(自分と正反対に感じるのはどういう時かって、それは自分の感じているコンプレックスを全く感じていない、むしろ自信にすらなっている奴と会った時なんだよ)

 何を言っているのかよく分からなかった。

(つまりさ、身長が低くて身長が低いことにコンプがあるやつは、高いやつを見ると正反対だと感じる。自信がなくてそのことにコンプレックスがあるやつは自信がある人間を見ると正反対だと感じるんだ。他の要素がどれだけ一緒でも、むしろ一緒であればあるほど、正反対だと感じるようになる)

「………ってことは、、、、、うん。その通りかもしれない。僕がエアさんに対して抱いているのはそういう感情なのかも」

(ま、ぶっちゃけミキのことはどうでもいいんだ。問題………というか本題はウチのほう。アイは冀望剣を正反対だと感じてる)

 アイはいつもと変わることなく黒の和服を着ている。確か、ジィは白のワンピースだったか。

「見た目というか服の色は確かに全く反転してるね」

(それもそうだけど、そこじゃない。あの剣のことはよく分からないけど、七星剣ならよくわかる。それで何が違うのか理解した)

「まぁ、出来ることの格が違うのはさっきので分かったけど

(そーじゃないって。アイがジィを正反対だって考えるのは、ただ一つ。アイが殺す刀なら、ジィは生み出す剣なんだ)

 つまり今までの会話の流れからすると

(うん、その通り。アイは、自分でも気がついてなかったけど、自分が殺すことしか出来ないことに劣等感を抱いてる)



 メリットが帰ってくるよりも前に僕はジィが用意した小屋に戻り、用意されていた草木でできた自然のベッドに崩れ込んだ。

 そして目を閉じ考える。

 拳銃で殺人が起きた時に、拳銃は後悔の念に苛まれることがあるだろか。物に意思があるという過程の上での話だが、きっと拳銃は何も思わないだろう。拳銃はそのために生まれてきたのだし、そうするのがその道具としての正しい在り方だ。

 剣に関しては儀礼のために作られるものもあるけれど、基本的には断つためのものだ。殺すためのものだ。だから道具である刀剣が人を殺すこといついて悩むのは、自己否定とも言える。

 だからこそ、誰が道具で誰が使い手なのかをはっきりする必要がある。

 確かにアイは七星剣の精霊で、僕はそれを引き抜いた人間だ。だがそうじゃない、それだけじゃないのだ。


 悩みの根源、そしてアイの葛藤。その理由がやっとわかった。

 アイの話を聞いて僕の中で整理がついた。勘違いしていた。逆だった。


 僕こそが七星剣を使うための道具(トリガー)に過ぎず、アイはそれを使いこなす使用者マスターなのだ。


 だからアイは殺すことに躊躇いを覚えつつある。剣としてではなく、剣を扱う者としての輪郭がはっきりしてきたからだ。

 だから僕は悩み続ける。自分の意思で刀を振るったことは一度としてなく、本当の意味で殺人という行為を理解していないからだ。そして道具であるというにはあまりに行為に対して意思が介入し過ぎている。七星剣の道具アタッチメントでもなければ使用者ユーザーでもない、中途半端な存在が僕だ。

 アイの悩みは何か。それは殺人の善悪についてではない。そんなことで七星剣は悩まない。アイが言ったのは殺すこと〝しか〟できない、だ。

 僕たちは、僕たちのやり方で今まで意思ありかたを通してきた。実際それで、ハルガという小さなコミュニティを守ることができた。ミルにもエアさんにも、そして当然のことながらそこで暮らす人々にも感謝された。生きることを肯定されるのは心地が良く、悪くのないものだ。

 だからここにいる。その快感を味わうためにここにいる。他者のために生きるのは、力があるものにとっては楽なのだ。

 だが僕たちは出会ってしまった。

 冀望剣という存在に、ロウシスという存在に。

 誰にも感謝されることはないが世界を救うという生き様を見てしまった。

 剣であるのに殺さないという側面を知ってしまった。


 だから、僕たちがすべきことは一つなのだ。

 アイは既に超えた。アイ自身がどれだけ葛藤を抱いたとしても、あの冀望剣でも出来ないことを行なった。あとは結局、心持ちの問題に過ぎない。

 

 ジィは言った。この剣を抜いたことで僕の道は確定したと。確かにその通りだ。

 力に責任が伴うことはない。力を持つことで、道を強制されるなんてことはない。だが、力には魅力があるから、人は得た力に沿った生き方を選ぶのだ。そして僕もまた、力に魅了された人間だ。

 アイが自己を否定するのなら、誰かが代わりに彼女を肯定して支えなければならない。そうしなければ、心の均衡は崩れてしまう。


「自らの生き方を変えることなく、自身の在り方を否定することなく、世界に認められることができたなら、自分で自分を褒められなくても前に進める。そう思わない?」

 いつの間にか小屋の中に入ってきたロウシスが、灯りを持ってベッドに腰掛けた。別に眠っているふりをしていたわけではなかったが、彼女の言葉に返答したくなかったので、わざとらしく布団として用意されていた大きな柔らかい葉っぱを頭から被った。

「七星剣があそこまでのものだとは思ってなかった。いやぁ流石に驚いた、感心したっていうべきかな。それに、黒服の彼女の推察も概ね正しい。冀望剣は殺せないんだ。生み出すことしかできないんだ」

「………いや、確かメリットを殺してたよ。それ」

 思わず反論してしまったが、

「彼は死んでないだろう?死んでないなら、殺してないってことさ」

 と、屁理屈をロウシスはこねた。

「ま、それよりも伝えたいのは不純魔力のことさ。君はあれが何か知ってるかい?」

 僕は答えなかった。しかしロウシスはそんなことを気にすることなく話を再開した。

「あれはリセットするものなんだ。状態をゼロにするもの。この世界を初期化する何か。この星を否定する何か。魔力受容体を持つものであればその全てを消滅させる、そんな悪魔みたいな性質を持っている」

 灯りはゆらめき影を動かす。風は入ってこないのに。

「明日から向かうハルガの中心にはさ、孔が有るんだ。ホルトバルトにもあるんだけど、それとは少し異なる。あっちは単なる覗き窓だけも、こっちのは出入り口とも言える規模でね。その先には、こことは異なるルールの世界が広がってるんだ」

 異なる、世界。

「で、突き止めた。元々は不純魔力の解明だけが目的だったけど、分かったんだよ。逆なんだ。この天球こそが偽りで、それ以外が正しい世界なんだ。つまり不純魔力っていうのは、この天球という誤りを修正するために発生しているもので、不純魔力は外の正しい世界から溢れ出したもの。リストによれば、私たちの扱っている魔力の方こそが正しくないものなんだって。ねぇ、私の言いたいことがわかる?私がどうしてこの話をしたか分かる?」

 もう寝ている振りはしていられなかった。だが、ロウシスは僕が起き上がって答えるよりも先にそれを言った。


「ホコロビミキ。受容体のない君は、この世界の人間ではない。不純魔力の満ちたこの場所で何の影響も受けない君は、おそらく孔の外から流れてきたんだろう。だから聞きたい。

 君の目的は、君は一体何をするために、ここに来た?」

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