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第19話 止まない雨はないけれど、明けない夜はあるし、暮れない朝もある。

「そう、勝手にすれば?」

 ピシャリと扉を閉じられる。

 クラッスェ教会でのパーティからはや3日、僕は、モメとハルガの深森に向かうことをミルに伝えに来たわけだが、呆気なく許可は取れた。

 どうやらエアさんは色々と忙しいらしく、教会以降、顔すら見ていない。

(あー、怒ってんねー)

 そんな分かりきったことをあえて言うアイ。暗に「仲直りしろ」と言っているのは僕にもわかる。

「ミキぽーん。早くいこーよー」

 モメが僕のことをミキぽんと呼ぶようになった経緯に関しては別の時に説明するとして、モメが先を急いでいるのには理由がある。

 モメの目的はハルガの森だ。

 僕が七星剣と出会った場所。僕の運命が決まったのはこの世界に来た瞬間じゃない、あの剣を引き抜いた瞬間だ。


 ハルガの森は深くなればなるほど不純魔力というものが増えると言う。それは受容体に対して悪影響を及ぼすらしく、最深部では数分と生命は持たないらしい。

「だからウチのとこで服を作ったの。不純魔力による影響を軽減する服」

 モメが今着ているのがそれで、バルノスケーツと呼んでいるらしいが、僕にはどう見てもメイド服にしか見えなかった。

 男用もあるらしいが、やっぱりどう見てもひらひら可愛いメイド服なので断った。本来であればメイド服(バルノスケ─ツ)無しで調査に向かうのは寿命を縮める行為らしいが、受容体のない僕ならおそらく無関係だろうとのことで、未着用での探索をモメに許可された。


「ミキぽんの身体キモイね。まじキモイ」

 森に入ってかなり奥の方まで来た。しかしなんら影響のない僕を見てモメはそう言った。凄いはずなのに引かれていることに、なんとも言えない虚しさを感じながらも、自分が根本的にこの世界とは違うと知った。

「アイは何ともないの?」

 ふわふわと退屈そうに宙に寝そべる少女に話しかける。

(別に、なーんにも、退屈、殺したい)

「君そんな狂人キャラじゃないでしょ」

(真っ当な人間でも生き物を殺したいって思うことあるっしょ)

「そんなこと………………ないよ?」

 言い切れない僕にアイはぐるぐる取り憑いた。鬱陶しいと思いながらも、アイの良い香りに包まれるのは悪くなかった。

「そう言えば、結局どうして僕なの?」

 ハルガの森に不純魔力がある。不純魔力は受容体に悪影響を及ぼす。僕は受容体を持っていない。だから僕を選んだのかと思ったが、よく考えたらモメは、僕の受容体を調べるよりも前に僕に干渉している。

「単純に強いと思ったから。本当は親衛隊の方を誘おうと思って例のパーティに忍び込んだんだけど、あいにくの欠席だったんでなー」

「えっ、僕はカルディナールの代理………?」

「いやいやいやいや落ち込ないで!結果的には不純魔力の影響を一切受けないミキぽんに出会ったんだからラッキーなのさね!モメは!」

(でも、ただの探索でしょ?なら魔法使いで戦える奴の方がいいんじゃないの?)

「いやぁ、ただの探索ならそうなんすけどねー。ハルガのこと知らないですか?」

 僕とアイは顔を見合わせる。互いに何も知らないことを再確認した。

「調査の理由は不純魔力と正体不明の何かを探しにです。どうして腕の立つ騎士が必要だったのかと聞かれたら、今までハルガの探査に行った魔法使いで帰ってきた人がいないから、どんな脅威があるか分からないからです」

 なるほど、分かりやすくて非常に助かる。

(どうしてそんな自殺みたいなミッションを選んじゃったの?)

「選ぶわけ。命令されたから実行するの。偉い人に命令されちゃったから」

「偉い人って?」

「ディラジェーヌ。ほんと最悪のおっさん………て、え、なにその反応、もしかして知らないの?田舎者すぎない?」

(何しているおっさんなの?パトロン?)

「まさか。………………一応確認なんだけど、セルシア国立魔法異化学発明所は流石に知ってるでしょ?」

 知らない言葉ばかり出てきて話が全く先に進まないので、一から十まで余すことなく、説明してくれた。だが、結局は簡単なことだった。


「所長の娘をぶん殴ったから所長はなんらかのペナルティを与えたかったけど、規則の中に罰則はなかったから、ルールの中で下せる最大限の罰を考えた。それがハルガの探索命令だったってことね」

「そうなるねー。そしてそれは即ち」

(死ねってことだったんだね)

「そ、だからモメは、なんとしても生きて帰って所長をぶち転がしたいの」


 断ればいいと思ったが、モメのプライドがそれを許さなかったらしい。僕だったら確実に逃げてるが、魔法使いとして、研究者としての意地がモメにはあるようだ。

「それで、これから何か異変が起きるまで歩き続けるの?」

「それもあり、もしくは確実に何かが起きる場所まで行くか」

(それって森の中央?)

「そ、アイちゃんは勘がいいね。何かと衝突するまで歩き続ける。あるいは確実に待ってるみらいにこっちから挨拶をしに行く。どっちがいいと思う?」

 そんなの当然前者の方がいい。

「ま、そんなこと言っても、実はモメの幼馴染が先に潜入してるんだよね。だからまずは合流が優先じゃい。ほら、着いた」


 見えてきたのは小屋だ。家と呼ぶにはあまりにもぶっきらぼうな装飾で、急造されたもののように見えた。いや、急造というよりは仮説と言った方が正しいかもしれない。

「ここは?」

「セルシアの所有するハルガ探索のための第一拠点、通称ペル。まぁここより奥に拠点なんてないんだけねー」

 ドアを開けるモメ。中は書類で散らばっている。広さは外観通りで大体8畳くらいだろうか。三人が入るには狭いが、僕らの場合は一人は精霊なので問題ない。

「設備は昔のだけど十分機能するから。50年前のハイエンド品。あ、でもミキぽんは魔力練れないんだっけ?」

「出来ないこともない、よね。アイ?」

(あいよ)

 スルッと憑依して感知版に触れると、キッチンが起動して火がついた。僕自身は魔力とは無縁だが、アイが入ればどうにかなるのはハルガの家で分かっていた。

「やっぱり気になるから、キスしてもいい?アイちゃんが入ってる時に」

「それはまた今度ね」

 小屋というより古屋といった感じの四角い建物だが、積まれた書類の異常な枚数から研究に使われていたことに疑いの余地はない。

 モメが書類を拾い、一枚二枚と手を止めることなく読み始める。持て余していた僕はキッチンで紅茶を沸かそうとしていたときだった。


 キィーっと、一つしかないのドアが開く。そのことにモメは気がつかない。

 目から鼻から口からも、ぴちゃぴちゃと血が滴る。酷い匂いが部屋に広がる。その少年が死にかけているのは誰の目にも明らかだった。

「あ、遅くない?」

 そんな少年に淡々と話しかけるモメ。息も絶え絶えな少年だったが、モメの表情を見て安心したのか絶命して倒れた。

(死んだんだけど!?)

「そりゃそう。だってほら、メリットはバルノスケーツを着てないでしょ。そんなんでペルのとこまで来たら死ぬ………ってまだ言ってなかったね。彼がモメの幼馴染で、ここで合流する予定だったグラブジェイル・デ・メリット。役にはただ無いけど役割はあるから」

 そう言ったモメに応えるように死んだはずの肉塊がのろりと起き上がる。

「どうぞご紹介に預かったのはこの俺!ホーソー遊団第8支部第4班!通称ローソク部隊所属、グラブジェイル・デ・メリット!メリーって呼んでくれ!」

(なんかほんのちょっぴりウザいな)

「確かに、ちょっとだけウザい」

 蘇生したことよりも、その性格を辛辣に評価した二人に便乗するように、モメは言った。

「そう、ちょっとだけウザい、けど大切な、無能で未熟で非力で不死なモメの一人の幼馴染」


 血に塗れたまま、少年は、メリットは朗らかに笑う。

 この少年にはこんな赤い血ではなく、綺麗な汗が似合うのだろうと、ミキは思った。

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