前例のない巫女
本日は3話更新の1話目です。
「穢れた嫁入りへの道、浄化させて頂きます」
帰りのゲートは変身しなければ通れない。
そのために変身したわけだが……
「日向はやっぱりおかしいコン」
「流石は歴代で最も才のある巫女殿ですな」
「巫女殿……流石の妾でも、それは無しだと思うのじゃが……」
紅蓮さんは大らかに笑っているが、他の見送りに来た狐達の顔は若干……いや、かなり引き攣っていた。
それは狐達だけではなく、自分自身もそのぐらいには引き攣っている自信がある。
何故なら……またも尻尾が増えていたのだ。
それも2本も。
つまり、今の私は5+2で七本の尻尾が生えている事になる。
幻術でも何でもなく、感覚はしっかりとあるし、自分自身の意思で動かすことも可能だ。
「は……はは……どうして増えたんだろうね?」
「それを妾達に聞かれても……」
「日向が常識外れすぎるからだコン」
「当代の巫女殿の輝かんばかりの才能でしょうな」
三者三様の答えが返ってくるが、要約すると誰も分からないという事である。
今回に関しては黒薔薇の加護を受けて暴走した……というのはあるが、戯は全く顔を出していない。
つまり……黒薔薇に加護が増えた秘密がありそうな気はするのだが……
「そもそも別の人の加護だしなぁ。
それ使って暴れて増えるなんて訳の分からない話は無いよね」
「そもそも、歴代で加護を2種類持った巫女などという者が居らぬからな。
成長速度、2種類の加護と神装持ちなど全てにおいて前例が無い。
考えるだけ無駄であろう。
しかし……」
そこまで言って銀様が大きなため息をついた。
「どうしたんですか?」
「姫巫女様を想って九尾に拘ってきたのじゃが、それをやめた途端にお主のように、全くよく分からぬ理由で急成長する巫女が出てくるというのが皮肉めいておる気がしてのう」
「ご、ごめんなさい」
「巫女殿が悪いわけでは無いので謝る必要などないのじゃ。
恐らく、あのまま巫女殿が九尾に至ったとしても妾は満たされる事はなかったであろう。
じゃから……妾は巫女殿に感謝しておる。
そして……」
銀様はチラリと紅蓮さんの方を見る。
その視線の意味に気付いた紅蓮さんは銀様の言葉を続けた。
「我らが狐の里は当代の巫女、日向様を全力でサポートさせて頂きます。
何かお困りの際にはいつでもこちらにいらしてください」
「紅蓮さん、銀様……それに里のみんなも。
ありがとう!
何かあった時には全力で頼らせてもらうね」
「それじゃ、もうそろそろ行くコン」
コンに促されてゲートを潜る。
その後ろ姿を見送る声はゲートが閉じるまで途切れる事はなかった。