銀の謝罪
誤字報告受け付けました。
ありがとうございます。
「ん……んん……」
「日向、目が覚めたコン!」
目を覚まして最初に見えたのはコンの姿であった。
重たい身体を起こし、まだハッキリしない視界の中で辺りを見渡す。
自分の家のベッドだと思っていたが、周りを見ると全く違う、知らない和風の部屋にいた。
そうして何故自分がこんな所にいるのか?
それを思い出すうちに段々と血の気が引いていくのが分かる。
「こ、コン……わ、私……」
考えがまとまらない中でコンに話しかけようとした時であった。
扉をノックする音が聞こえた。
「巫女殿が目覚められたと聞こえたのじゃが……入っても良いじゃろうか?」
扉の外から聞こえたのは銀様の声であった。
自分のやらかしを責めに来たのだろうか?
会う事は怖かったが、逃げるわけにもいかないので中に入ってもらうことにした。
何を言われるんだろうか……色々と想像しては憂鬱になっていたのだが、部屋に入った銀様が最初にしたことは私のシミュレーションに全く無いことだった。
「今回の一連の騒動は全て妾の責任じゃ。
どうか許しては貰えぬじゃろうか?」
部屋に入ってきて早々に銀様は床に頭をついて謝罪し始めたのだ。
「ちょっ、ちょっと待ってください。
アレは散々暴れた私が悪いんですよ」
暴走していた時のことは全て覚えている。
自分の本性を甘く見過ぎで抑えられなかった私の責任で、里の人達は寧ろ被害者だろう。
「いや、巫女殿は最初からあの力の危険性を知って拒否しておった。
にも関わらず、妾は自分たちなら何とか抑えれると根拠のない自信で押し通してしまったのじゃ。
それがどれだけ無謀なことかも知らずにな」
「銀様……」
銀様の本気の謝罪に私は何も言えなかった。
「妾が愚かじゃった……姫巫女様に執心して目指す必要もない九尾を目指すことを強いた。
今にして思えば、例えこれで九尾が誕生していたとして、それが姫巫女様の行いが間違いじゃったと証明する事になどなろう筈がない。
いや……そもそも姫巫女様は己の信じた道を突き進んだだけじゃ……それを誰かが間違っていると言う事すら烏滸がましかったのじゃろうな」
「でも……銀様も自分の信じた道を進んだ結果じゃないですか……」
「こんな老ぼれの事を心配してくれるとは……ほんに当代の巫女殿は優しいお方じゃな。
巫女殿……妾は自分が正しいと思った道を進んだわけではない。
姫巫女様が間違いだったと……そう思い込む道を進んでいただけじゃ。
……巫女殿」
「……はい」
もはや何の言葉もかける事が出来ない私に対して銀様が問いかけてくる。
「あの時の暴走した姿も巫女殿の可能性の一部なのかもしれぬ。
じゃが、いまこうして妾と話しておる巫女殿は誰よりも優しい心を持っておる。
じゃから……あれがお主の本質などと思い込まないで欲しいのじゃ。
妾も里の者も、そしてこの魂魄も……お主の優しさを分かっておるからな」
「銀様……ありがとうございます」
銀様の言葉の一つ一つが私の心の中に染み込んでいく。
黒薔薇を纏って暴れたのは変えようがない事実であり、自分の中の汚点として残っていくだろう。
だが、その事実に押し潰されない気持ちを……確かに銀様から貰ったのだった。