狼の里長
何が起きたのか全く分からなかった。
日向の姿が消えたと思った瞬間に巫女服の女性の後ろに現れ……そして、倒れた。
日向が倒れたことにより、俺の拘束が全て消える。
「日向!!」
慌てて倒れた日向に駆け寄る。
どうやら気絶しているだけらしく、呼吸などにも乱れはない。
「おい、そこの狐。
今のうちにその神装を調べておけ。
封印……はアレが関わっている以上無理だろう。
制限時間なんかのリミッターは付けれる筈だ」
「わ、分かったコン」
巫女に言われて、コンは慌てて日向の装備を調べ始める。
「ここは任せて欲しいコン」
「ああ、よろしく頼む」
日向の事は心配だが、コンに任せておけば大丈夫だろう。
「さて……先ずは銀だな」
「久しいな、狼の」
「ああ……だが、呑気に挨拶してる場合じゃ無いな。
お前はこの里の重役から降りろ。
今回の事件は全部お前の責任だ」
「な……それは出来ぬ!
妾には九尾を育てるという使命が!!」
巫女にそう突き付けられた銀様が声を荒げて反論する。
だが、未だに地べたに跪いた銀様の前で柄の悪い座り方でしゃがみ込むと、その頭を掴んだ。
「テメェのその盲信のせいで、この里どころか世界が滅びかけたんだぞ!
ハッキリ言ってやるが、お前が上に立っていても老害が幅を利かせて迷惑なんだ」
「な、何を……」
「いいか、あのまま狐の巫女が欲望のままに暴れ回っていたらどうなると思う?
この里全体が不浄化、そして加護は堕ちた巫女に全て吸われて支配される。
そうなったら私でも全く手が出せねぇ。
今のこのタイミングだからこそ止められた。
そして、その切っ掛けはテメェの下らない盲信が切っ掛けなんだよ」
「そ……そんな……」
「言いたいことは言ったからな。
後はどうするか、お前次第だ……さて」
そう言って巫女は俺の方を向く。
「リル、難しいことを頼んでしまって悪かったな。
いいタイミングで連絡してくれて助かった」
「いえ、親方様の役に立てたなら満足です」
巫女はリルに声をかけて頭を撫でる。
「リル、この人はもしかして……」
「我らが狼の里の里長、疋様だ」
「今まで放置してて悪かったな……しかし、当代の巫女ってのはこんなに弱っちかったのかい」
「なっ!?
……いや、返す言葉も無いな」
疋様の言葉に一瞬頭に血が上ったが、いつも日向の足を引っ張り、今回も全く良いところが無いとくれば、それも仕方ないだろう。
「おいおい、そんな落ち込むなって。
そんな弱いお前さんを一人前にしてやるからよ」
「それって……」
「要は里にご招待ってこった。
さぁ、来るかい?」
そう言って疋様が差し出してきた手を拒む理由は俺には無かった。