日向の重すぎる愛
「銀様達は邪魔だったけど……良いものを教えてもらったかな」
日向がそう言った瞬間、彼女の足元から無数の鎖が現れて俺の元へと飛んでくる。
あまりの速さに反応することすら出来ず、鎖は俺の両足を縛っていった。
その勢いで前のめりに転倒した俺に対して、日向はこれ以上無いほどの笑みを浮かべて俺を見下ろしていた。
「くっ……くそ……」
何とか立ち上がろうと手を使う。
そうして上体を起こして四つん這いになったところで……背中に重みを感じた。
「うーん、良い乗り心地。
よく漫画で大きな狼に乗るシーン見て憧れてたんだよね」
「やめろ!
俺の上に乗るんじゃない!!」
「あはは〜キャンキャン吠えるの見てると、狼って言うよりは可愛いワンちゃんかな?
そんなワンちゃんには私からとっておきのプレゼントをあげるよ」
そう言って日向が俺の首に手をかざすと、首に何かが絡まったのが分かる。
「首輪……だと、真守の格好良さが失われちゃいそうだからね。
ほら、私がたっぷり愛情を込めたチョーカー。
似合ってるよ、真守」
日向が俺の上に乗った状態でパチンと指を鳴らす。
すると、俺の目の前が鏡のようになって地面に写しだされた。
犬のように這いつくばり、首に黒いチョーカーをかけられた情けない姿。
それなのにチョーカーを通じて日向からこれでもかと言う程の愛が注ぎ込まれてくる。
気が狂いそうになる程の愛に一瞬だけ、受け入れて良いのではないかという思いに流されそうになる。
だが、今の日向は違う……本人の欲望を解放しているという話だが、これは明らかに違う。
「私の愛情が伝わったかな?
これで私のものになってくれるでしょ」
笑顔で尋ねてくる日向の方へと顔を上げる。
「……やなこった。
今の日向のものになる気は無いね」
俺がそう答えると日向の瞳がスッと細くなった。
「ふーん、それなら私の事しか考えられなくなるくらいに躾てあげるよ。
ほら!」
「ああああああ!
や、やめてくれぇ」
日向は俺の背に乗ったまま、その手をお尻に向かって振り下ろす。
パチーンと言う音と共に耐えきれない程の痛みと羞恥心が俺の心の中に生まれてきた。
「ほら、ほら……私がご主人様だって理解した?
真守は私のものだって分かった?」
「ああああああ、いやだ!
絶対に認めな……ああああ!!」
「日向、止めるコン!
こんな事してたら後で絶対に後悔するコン!!」
「あら、コンも仲間に加わりたいの?
大丈夫……貴女の事も大好きだから、後でたっぷり楽しみましょうね」
「ひ……ひなた……」
里の者達は鎖で縛られ、俺は身動き一つ取れない。
コンの説得すら通じない……絶望的な状況だった。
「やれやれ、リルから連絡を受けて来てみたら……想像以上にひでぇ状況だな」
突然聞こえてきた声に顔をあげる。
そこには着崩した巫女服に片手で煙草を吸う黒髪の女性が立っていた。
「貴女……誰?
私の楽しい時間を邪魔しないで欲しいんだけど」
「そうもいかねえな。
餓鬼が悪さしてるってんなら、大人としてしっかり躾けてやらないとな」
「ふーん……まぁ、いいか。
お姉さんも割と好みのタイプだし……遊んであげるよ」
「餓鬼相手じゃ遊びにすらならねぇよ。
ゴタゴタ言ってないで来な」
女性が煙草を地面に捨てたのが合図となった。
その瞬間に俺の上の重みが消え、日向は女性の近くに移動していた。