日向は止まらない
3-3話目です。
日向が暴走中につき、真守に視点が移ります。
日傘を構えて優雅に微笑む日向。
その前で構えをとって警戒しているのだが……正直な話をすると、まるで勝てる気がしない。
日和を相手にしていた時とは桁違いの威圧感を感じる。
これは……そう、あの戯を前にした時と似た感覚だ。
「どうしたの?
来ないならこっちから行くよ」
そう言って日向が一気に距離を詰めてくる。
慌てて防御の構えを取ったのだが、日向は自分の目の前で急に立ち止まったと思ったら日傘を広げてきた。
視界が傘で塞がれてしまったが、攻撃が左右から来てもいいように警戒する。
しかし、予想した攻撃は来ない……その間に日傘が下に落ちて視界が開けたのだが、そこに日向の姿はなかった。
「なっ、ひゃあ!?」
背中を指でなぞる感覚にビクッとして思わず後ろを振り向く。
「ふふ、ひゃあだって……可愛いなぁ」
そこには悪戯に成功した子供のような笑顔を浮かべる日向がいた。
「このっ!」
裏拳を日向の胴体に当てるように放つ。
だが、捉えたと思った瞬間に日向の姿が消えた。
「ひぃ!?」
次の瞬間、両身に同時に息を吹きかけられて思わず反応してしまった。
「あっはっはっ、本当に可愛い反応見せてくれるんだから。
真守、女の子らしくなれないって悩んでたよね?
しっかり女の子をやれるように私が調教してあげるよ」
「生憎と今の日向から何かしてもらおうとは思わないな」
「そんなに怖がらなくても大丈夫。
手取り足取り教え込んであげるから……愛情を持ってね」
「捕縛の術!!」
俺たちが問答している間に屋敷の方から声が聞こえる。
そこには手で印を組んだ銀様がいた。
銀様の前から無数の鎖が現れて日向の身体に巻き付いていく。
「巫女殿の動きは妾が封じておく。
今のうちに意識を奪うのじゃ」
「ああ、助かる」
「ふーん、銀様はこんな事出来たんだ……でも、全然足りないね」
日向がそういって力を入れると、自身を雁字搦めにしていた鎖が千切れて弾き飛んでいく。
「な……なんという力じゃ。
ええーい、術を使える者は手を貸せ。
何としても巫女殿を止めるのじゃ」
銀様の叫びに村中から狐達が集まり、捕縛の術を使っていく。
村のあちこちから日向に向かって鎖が飛んでいくのだが……
「だーかーらー無駄だって言ってるでしょ!
私と真守の時間を邪魔しないでよ」
日向がそう言って、いつの間にか手に戻していた日傘を地面に突き立てる。
すると、日向を守るように円形の結界が周り囲んだ。
その結界によって無数の鎖は弾かれたのだが、それだけに収まらない。
弾かれた鎖は術者の元へと戻っていき、唱えた本人を縛り始めたのだ。
「こ、これ程までとは……妾は見誤っていたのか……すまぬ、狼の巫女殿」
鎖に縛られた銀様が悔しそうな声をあげる。
「待たせちゃってごめんね。
続き……始めようか」
そんな銀様達を一切見る事なく、まるでデートに遅れてきたような言葉をあげて日向は微笑んでいた。