求めるものは戯曲
4-2話です。
「そうそう……さっきの衣装達はお姉さんが呼べば何時でも着れるよ。
お姉さんが嬉々として受け取ってくれたからね、あの子達も喜んでいるよ」
「……あんなもの必要ない……」
もっと強く否定したかった…….だが、この全く理解できない生き物が心の底から怖い。
そう考えると強く反論する勇気が湧いてこない。
「一度受け取るって言ったからには返品出来ませーん!!
そもそもお姉さんが望まなければ着なきゃいいだけの話だよ。
服ってそんなもんでしょ?」
「それは…….」
確かに戯の言う通りだ……必要ないなら着なければいい。
だが、本当にそうなのだろうか?
現状で戯の言うことは何一つとして信用が出来ない。
それに私の着ないという意思を嘲笑うかのように着させる手段を用意してくるかもしれない。
それならば今、この瞬間に倒すと言う選択肢はどうだろうか?
それも恐らく……いや、絶対に不可能だろう。
戯に与えられた加護を纏った時に理解した……いや、理解出来なかったと言った方が正しいだろうか?
あれだけ強大な力を他人に分け与えておいて彼女はピンピンとしている。
あの力は彼女にとって一部でしかない……そう考えると手の震えを止めることが出来ない。
ここで戦うなんていう選択肢は絶対に取れない。
そう考えていると日和がスッと私の腕の中から抜け出して前に立つ。
「何の話かは全然分からねえ…でも、姉ちゃんを怖がらせる奴は例え側衛でも許さねぇぞ」
「日和……」
それは紛れもなく男の背中だった……私が捨ててしまったもの。
「やだなぁ〜僕はお姉さんを虐めたりしてないよ。
その証拠に……ほら!」
戯がそう言って指を鳴らす……すると、急激な眠気が私を襲ってきた。
「な……なにを……」
「日和を救えたんだからここにはもう用は無いでしょ?
帰してあげるよ」
「くっ……」
何か言おうとしたが、猛烈な眠気に邪魔されて何も浮かんでこない。
何とか日和の方を見ると、彼も同じような眠気に襲われたのだろう。
身体がグラつくのが見えた。
「日和!!」
私は最後の力を振り絞って倒れそうになった日和の体を受け止めた。
だが……そこまでが限界であった。
「今日は楽しかったよ。
僕にとってはこの劇の結末が喜劇になろうが、悲劇になろうが関係ない。
どんな結末でも大いに楽しんであげるから、また楽しませてね」
そう呟く戯の言葉は、何故か沈む意識の中でもハッキリと認識できた。
日和の身体を抱き止めた私の意識は、その言葉と共に闇の中へと沈んでいった。