表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/165

たった一人の弟だから

震える小さな獲物に向かって刀を振り下ろした……その時であった。


大きな衝撃と共に地面がグラグラと揺れる。


更に何か温かなものが周囲を包み込んでいくのが分かった。


「これは……真守……」


そう……まるで真守に抱きしめられているかのような気配を感じた。


その瞬間、自分の中に流れていた悦びが酔いが醒めるように消え失せた。


正気に戻った私はあらためて目の前を見下ろす…私が小さな獲物だと思っていた、ガタガタと震えていた人物は……


「ひ……より……」


先程まで私が護ろうと、取り返そうと必死になっていた筈の日和であった。


自分がしてしまった行動にショックを受けながらも日和に近づく……だが……


「近付くな、化け物!!」


化け物……そう言われて私は自分の身体を見下ろした。


黒かったワンピースは返り血で赤い場所がないほどに染まっている。


鏡があるわけでは無いので自分の顔はわからない……だが、こんな血に塗れ、護るべき者を怖がらせ、挙句に殺そうとした私に……日和を抱き締める資格なんてあるのだろうか。


失意のどん底に落ちて膝を折りかけた……その時だった。


(諦めるな!!)


何処から真守の声が聞こえてくる。


(お前が諦めたら誰が日和を救えるんだ!)


「で、でも、こんな姿じゃ……」


(そんな似合わない服は全部捨て去ってサッサと抱きしめてやれ……日和はお前のたった一人の弟だろ!)


そうだ……日和は私の大事な弟。


ここで諦めてしまったら誰も日和を救えない……そう思い直して再び自分の身体を見下ろす。


すると自分の身体に付いていた筈の返り血は一つも無く、黒いゴシックワンピースが見えるのみであった。


そうか……ここはイメージの世界。


先程までの光景は私の後悔する心が見せていたものなのだろう……ならば……


「私はこんなもの要らない!

こんな力は必要ない!!」


そう叫ぶと、私の身体を包んでいたヘッドドレスもゴシックワンピースもハイヒールも全てが消えた。


生まれたままの姿になった私だったが恥ずかしさはない。


堂々と背筋を伸ばして日和の元に近づいていった。


「ね……姉ちゃん?」


日和はようやく顔を上げて私の事を見てくれた。


そんな日和の側でしゃがみ込み、優しく抱きしめる。


「今までごめんね、日和」


「ねえ……ちゃん、ねえちゃあああん!!」


日和は私の胸に顔を埋めて号泣する。


ようやく……私は大切な弟をこの手に取り戻す事が出来たのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] われにかえり、イメージの中とはいえ、全裸で日和を救出。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ