届かない言葉
本日4話目、最後です。
家の中に入って直ぐに気付いたのはむせ返るような甘い香りであった。
「な……なにこれ?」
脳を溶かすような匂いに頭がクラクラしてくる。
「うーん、これは普通の人間が活動するには厳しい環境だね。
変身が解けてるお姉さんじゃ難しいんじゃない?」
「冗談言わないでよ!
こんな事ぐらいで諦めるわけないでしょ!」
そう答えると、女の子の日に体調を整えた時の要領で加護を身体に行き渡らせる。
脳内を蕩けさせるような甘い香りがどんどんと薄くなっていき、中に入っても平気で行動できるようになった。
「へぇ……そんな事も出来るんだ。
今回は中々楽しめそうだね」
「何の話をしてるの?」
「独り言だから気にしなくていいよ。
それよりも日和を助けるんでしょ?
たぶん、彼は自分の部屋にいるよ……その部屋が自分を守ってくれる一番の場所だろうからね」
「日和!!」
少女の言葉を受けて私は日和の部屋に駆け込んだ。
扉には鍵もかかっていなかったので、あっさりと中に入ることが出来た……のだが……
「ひよ……り……?」
そこには裸の女性の胸に顔を埋めて抱きついている、同じく全裸の日和の姿があった。
それだけでも問題なのだが……その抱きついている女性というのが……
「妄想のお姉さんとよろしくやってるみたいだね。
どうする?
僕達かなりお邪魔みたいだよ」
「妄想に負けてたまるもんですか!
日和、いい加減に目を覚ましなさい!!」
私はそう言って強引に日和を引き剥がそうとする。
「ねえ……ちゃん?」
引き剥がした日和は虚な瞳をしながらもこちらを見た。
「そうだよ、お姉ちゃんだよ。
お姉ちゃんが悪かったから一緒に帰ろう」
「姉ちゃん……」
日和がハッキリとこちらを認識して私を呼んだことで正気に戻ってくれた……そう思った。
だが、次の瞬間……
「姉ちゃん!怖い女の人が俺を拐いにきたよ。
助けてよ、姉ちゃん」
そう叫んで妄想の私に再び抱きついたのであった。
「日和、いい加減に……」
そう叫ぶ最中であった。
妄想の私が日和を抱きしめたまま立ち上がる。
「日和をいじめる奴は許さない。
私は可愛い日和を守るの。
日和……お姉ちゃんがずっと一緒にいてあげるからね」
「姉ちゃん……」
感極まった日和が妄想の私に抱きつく力を強める。
すると、彼女の身体の中にズブズブと埋まっていくのが分かった。
「待って、日和!!」
「日和は私が守る!!」
日和の身体が完全に無くなった時であった。
妄想の私がそう叫ぶと彼女の姿が衣服に包まれる。
「日和の嫁入りを願います」
その一言と共に彼女は変身した……そう、キツネへと。